彼岸






 庭の隅に佇んで足元を見下ろしている彼女の後姿を見かけた鶴丸はそっと近づき「わっ!」と声を掛けてみた。

「ああ、驚いた」

そう言いながら彼女は振り返る。感嘆符が付いていない言葉に鶴丸は半眼になった。

「また心にもなく」

「だから、いつも驚いていると言っている」

そう返されて鶴丸は肩を竦め、彼女が視線を落としていた先を見た。

彼岸花が咲いている。

「植えたのか?」

彼岸花は球根性植物だ。種子が飛んできて勝手に生えることはない。

「ああ、うん。好きなんだ」

この花は不吉だとか言われていると聞いたことがある。だから、少し意外で、「どこが好きなんだ?」と聞いてみた。

「咲き終わった後の汚い感じ」

そう言って彼女は鶴丸を見上げた。

眉を顰める鶴丸に「人間っぽいだろう?」と彼女が言う。

「老いた人間のようじゃないか?」

まだみずみずしいその花を見下ろし、眺める。この花はこれから咲き誇っていく。

「それに、根には毒がある。見えないところに毒があるのなんて益々人間のようだ」

「だが、畑や墓を守っているんだろう?それに、その毒は使い方によっては、薬になるはずだ」

いつもより幾分柔らかい声音だった。

「何かあったのか?」

彼女は苦笑いをして「いや」と俯く。

鶴丸は彼女の頭に手を置いて「どうした?」と話を促した。

「いや、何でもない」

「……そうか」

鶴丸はそれ以上何も聞かずに隣に立ち続けた。


「ところで主」

「なんだ?」

「『一緒の墓に入ろう』という言葉をどう思う? 主の時代の婚儀の申込みの言葉なんだろう?」

以前、彼女の時代の書籍で見かけた。

「5点」

「満点は?」

「100」

「……辛いな」と鶴丸は苦笑いをした。

「生きている間のことを何も言わず、終わるときの話をされてもな。大事なのは終わりではなく、終わるまでの道だ」

皮肉っぽく笑って言う彼女に鶴丸はにやりと笑う。

「主らしいな」

鶴丸はぽんぽんと彼女の頭に手を置いた。

「なあ、鶴丸」

「なんだ?」

「おはぎが食べたいと思わいないか?」

「思うな。しかし、燭台切は不在だぞ?」

「私が作るから手伝ってみる気はないか?」

「自分の腹に入る物だ。何が出来上がるか監視しておいた方がいいだろう」

「言ったな?」

厨に向かって行く彼女に鶴丸が続いた。









桜風
(15.9提出)


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