おろかにもこいねがう






物であり、神である。

人であり、審神者である。

姿かたちは似ていても、同じではなく、同等でもない。



ぺたぺたと廊下を歩きながら鶴丸は周囲を見渡す。

部屋に行くともぬけの殻で、ではどこに行ったのかと考えて探しているのだ。

「まったく……」

呟く声音は少し拗ねたもので、せっかく会いに行ったのに、という気持ちが滲み出ている。

先ほど遠征から戻ってきた。

今回の遠征はかなり時間のかかるもので、遠征前に挨拶に行くと「お土産よろしくねー」と軽く手を振られた。

少しは惜しめばいいのに、と思いながらも「気が向いたらな」と返して城を後にした。

土産を所望されておきながら手ぶらというのは味気ない。しかし普通のものでは面白くない。

かといって、何か驚きを求めてもいい加減慣れてきているようで、驚きが少ない。

だったら、むしろ正攻法で、などといろいろ考えを巡らせたというのに。



鶴丸が探しているのは、彼の今の主で、自称二十歳の娘だ。

実際の年齢はわからないが、聞けば誰にもそう答える。

鶴丸の知っている二十歳と比べれば些か落ち着きがない。

「今はそういう時代なの」などと言うが、本当だろうか。

彼女以外は、彼女の時代の二十歳を知らないから真偽のほどはこの城に在る者、誰にもわからない。

髪は短く、童のようだが、たまに見せる思案顔は確かに大人びてもいる。

思案顔はたまにしか見ることがなく印象に薄いため、記憶違いかもしれない。



「おや、お帰り」

頭上から声がした。

ひょいと屋根の上を見上げると尋ね人がある。

「何をしている、主」

「空を見ているんだよ」

「危ないぞ」

「落ちなければ危なくない」

降りる気がないことを察した鶴丸はため息をひとつ吐き、欄干に足をかけてひょいと屋根の上に上がった。

「意外と身軽だね」

愉快そうに笑う彼女に「そりゃ、主よりはな」と返す。

「この屋根には私一人の力で登った」

「だから?」

「身軽っしょ?」

これ見よがしのため息を吐きながら「そうだな」と相槌を打つ。適当なやつを。

それでも隣に座る彼女は「でしょー」と上機嫌で、毒気を抜かれるというのはこのことかと肩の力が抜ける。

「鶴丸、風呂に入った?」

隣に座る彼女に問われ「臭うか?」と自分の臭いを確かめる。良くわからない。

戻ったまますぐに彼女を捜し始めたので、風呂は後にする予定だった。

「いいや。疲れてるんじゃないかって思っただけ。今回の遠征は長かったし。風呂は命の洗濯って言うから、疲れてるならまずは風呂かなって」

「そうか」と安堵の息を吐きながら相槌を打った。

「そうだ、主」

「ん?」

懐から鶴丸が手ぬぐいを取り出した。

「なになに?」と手元を覗き込むと「まあ、待て」とひょいと彼女からそれを遠ざける。

「もー、勿体ぶらない」

むくれたように言う彼女に鶴丸はにんまりと笑った。

「目を瞑れ」

「えー、何それ」

「いいから、瞑れよ」

促されて彼女は不承不承に目を瞑った。

「はい、瞑りました」

彼女の顔を覗き込んで目を瞑っていることを確認した鶴丸は手ぬぐいを広げて中身を取り出す。

遠征先で見つけた簪だ。

正攻法と言えば装飾品で、いろいろ悩んだが、これが良いと思った。

「ほら」と簪を挿す。

短い彼女の髪にもとても映えている。

思わず頬が緩み、締まりのない表情となった。

「何その顔」

「誰が目を明けてもいいと言った」

半眼の彼女の言葉に鶴丸も半眼になって返す。

「さっき、「ほら」って言ったじゃない」

言ったかもしれない。だが、「良い」とは言っていない。

「え?何これ」

そっと触れようとする手を鶴丸が掴む。

「駄目だ」

「何でよ」

「駄目だからだ」

「鶴丸は子供みたいね」

肩を竦めて諦めたように呟く彼女は「お土産?」と問う。

「ああ、土産だ」

「驚きね。たぶん、簪でしょ?」

鶴丸が詰まらなさそうに顔を歪めるのを見て彼女は笑う。

「素直ね」

「うるさい」

ぷいとそっぽを向く鶴丸の頭を彼女が撫でた。

嫌がるかと思ったが、彼は目を細めてそれを甘んじて受けていた。

「子供みたい」

先ほど口にした言葉を繰り返す。

「君より長く生きている」

「あらあら」

笑って彼女は力を込めてわしわしと鶴丸の頭を撫で続ける。

「もっと優しく撫でろ」

「あらあら」

笑って彼女はわしわしと頭を撫で続けるが、むすっとした表情を浮かべたまま鶴丸は大人しくしている。

ちらと彼女を見ると心底愉快そうな表情で。

だから、鶴丸の胸もあたたかくなる。愚かと知りながらも願ってしまう。



――この先永劫、君と共に在りたいと。









桜風
(15.10提出)


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