紅葉






 目を覚ますと昨晩の荒天が嘘のように外の様子は静かだった。

彼女はのっそりと体を起こす。風の音がうるさくて寝つきが悪かったせいか、欠伸をひとつ零した。

身支度を整えて雨戸をあけると庭が赤く染まっている。

「これは……」

ここ数日、一気に気温が下がり庭の木々の葉も色を変えてきていたさなかのこれだ。

もう少し紅葉を景色として眺めたかったものだ。

数日前から、庭が色づいてきたことを歌に詠もうと張り切っていた歌仙の姿を目にしている。きっとがっかりするだろう。今日は彼のため息を聞きながら過ごさなくてはならないかもしれない。

しかし、そんなことよりも掃除が大変そうだ、と思いながら眺めていると良く目立つ白、鶴丸の姿がそこにあった。

鶴丸は腰に佩いている刀に手を置き、目の前にはらりと落ちてきたもみじの葉を一閃、真っ二つに切った。

普段の彼の言動を考えると物凄くギャップのあるその姿に彼女は一瞬見惚れ、やがて「おはよう」と声を掛ける。

彼は振り返り、「早起きだな、主」と笑った。

「眠りが浅かったんだよ。昨晩は風が唸っていただろう?」

「そんな繊細な神経の持ち主だったとはな」

からかうようにいう鶴丸に彼女は肩を竦めて「今気づいたのか」と返す。



彼女も庭に降りて赤や黄に染まった落ち葉を踏むと、サクサクと落ち葉のこすれる音がする。

「どうだった?」

側にやってきた鶴丸に問われて彼女は首を傾げて「何がだ?」と問う。

「俺の背中だ」

言われて彼女が背に回ろうとしたが、「いやいや」と止められてしまった。

「鶴丸の背に何かついていないか確認しようと思ったんだが」

「そうじゃなくて、さっきの俺だ」

ニヤッと笑って言う鶴丸の表情で、先ほどの抜刀は彼女の存在に気づいていたからこそのそれだと理解する。

「そうだな。この城で抜刀は禁止していたと思う」

「けち臭いことを言うなよ。他には?」

「……まあ、あの刀なら確かに安心だな」

零すように呟く彼女の言葉に鶴丸は満足気に笑う。

「ほかには?」

「もうない。欲しがり過ぎだ」

軽く手を振って彼女が返すと鶴丸は不満そうな表情を浮かべて「君はケチだな」と文句を垂れた。

「だが、そうだな。私が丸腰でここに、何の警戒もせずに立っていられるその根拠を確認することはできた」

「まだあるじゃないか」

にんまりと笑った鶴丸に苦い表情をした彼女は足元の、赤や黄に染まった落ち葉をがさっと掬い、それを鶴丸のフードの中に突っ込んでやった。









桜風
(15.10提出)


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