読書の秋






 部屋の中をそっと覗きこむと背を向けた主に「何か用か、鶴丸」と声をかけられて驚く。

「俺が分かったのか?」

彼女は振り返って文机の上を指差した。普段掛けられている布がない鏡に、鶴丸の姿が映ったのだ。

いつもの、『主の驚いた顔を見てみようツアー』をしていた鶴丸は、用事を問われると少し具合が悪い。


「読書とは珍しいな」

鶴丸が不自然に話題を変える。

「そうか?」と彼女は首を傾げたが、読書は部屋に籠ってするから見慣れないと口にする者は多いかもしれないと納得する。

「なあ主。それは暗号か?次の任務が書いてあるのか?」と彼女が手にしている本の表紙を目にした鶴丸が真顔で問い返した。

「いや、娯楽本だ」

「では主の時代の文字ということか?俺には読めん」

「外国の文字だよ。私たちが普段使っている『日本語』に訳した書籍もあるが、原文が読みたくなったてね。まだ読んだことがないから取り寄せた。秋だし、読書に勤しもうと思って」

「秋と読書は関係あるのか?」

首を傾げて言う鶴丸に「秋の夜長に読書を、というのが私の時代でよく耳にする言葉だな」と彼女が言うと「夜は冬の方が長いだろう」と指摘された。

「由来は分からん。不勉強で申し訳ないな」

適当に返す彼女を気にするでもなく、鶴丸はこの部屋に増えた書籍の量を確認する。

「読めるのか?」

「もう殆ど読んだ。読みたいものがあれば貸そう。この日本語訳の本もその山の中にある」

鶴丸は堆く積み上げられた書籍の山を横から眺める。

「表題は?」

彼女の口にした単語を聞いて「意外と下の方だな……」と呟く。

「ウチから持ってきた数少ないものだからな。上に行くほど新しい」

「主のものなのか?」

「ああ。その中でも古参だな」

彼女の言葉を耳にしながらも鶴丸は書籍を発掘し、ぱらぱらと捲った。

「……文字に味がない」

「歌仙にも言われた。私の時代は、この画一的な文字が主流だ。まあ、紙媒体すら少なくなっているけど」

確かに彼女が政府から受ける連絡は、平たい板に表示されると聞いた。

「歌仙に貸したのか?」

「いや。こんな文字はつまらないそうだ」

さほど雅に拘りのない自分が思うのだから、歌仙なら尚更だろうと鶴丸は納得する。

「では借りていくぞ」

「ああ。ただし、丁寧に扱ってもらいたい」

「心得た」と返して鶴丸は部屋を出ていった。


「……本当に何しに来たんだ?」

部屋を出た鶴丸が閉めた障子を眺めて彼女は首を傾げた。









桜風
(15.11提出)


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