初め






 「わっ!」と声をかけてみた。

年が改まり皆との挨拶と食事を終えて自室に向かったと思っていた主が縁側に腰を掛けていたのだ。

今年初の驚きは趣向を凝らしたものを、と思っていたのだがうっかり声をかけてしまった。

振り返った彼女頬からつうと雫が落ちたのを目にした鶴丸はぎょっとした。

「すまん!主」

まさかこんなにも驚くとは、と鶴丸は慌てて彼女の元に駆けよった。

「別にいいけど」

彼女は返しながら袖で雫が流れて濡れた頬を拭い、再び鶴丸に背を向けた。

そして、徐に天を仰ぐように顔を上げてそして手に持つ小瓶から雫を一滴落とした。

「あ、また……」と悔しそうに零した彼女はその雫を袖で拭う。

「主、少し聞いてもいいか?」

首を傾げながら鶴丸が彼女に近づく。

「んー?」

彼女は再び天を仰いで雫を落とした。

それが瞳の中に落ちると「やっと」と彼女は呟く。

少し溢れた液体を袖で拭って鶴丸を振り返った。

「どうした?」

眉間に皺を寄せている鶴丸に彼女が声をかけると「泣いていたのではないのか?」と問われる。

「ん?ああ、目薬に失敗しただけだ」

「目薬?」

「ああ、点眼薬のことだ」

鶴丸は深く息を吐く。

「泣いていたのではないのか」

彼女に問うのではなく、納得したことの確認のように彼は再度同じ言葉を口にした。

「私が泣いていると思ったのか?」

「驚かせすぎたかと思った。そうだな、主は驚かないな」

肩を落として鶴丸が言う。

「いや、驚いた。驚いて点眼薬があらぬ方向に落ちた。まあ、もともと苦手ではあるが」

彼女の言葉に鶴丸は半眼になり「だったらもっと驚いたふうにしてはどうだ?」と言う。

「言われてもな。私は私なりに精一杯驚いているんだが」

彼女が鶴丸に視線を向けると口をへの字に結んでいた。全く納得していない様子で、だが、その表情があまりに素直すぎて彼女は声を上げて笑う。

「なんだ、鶴丸。今年の“驚かせ初め”が失敗したと思ったのか」

「そうだな。もっとわかりやすく驚かせてみたかったな」

頷いた鶴丸はしかし、にやりと笑う。

「だが、そうだな。君の“笑い初め”にはなったようだな」

指摘された彼女は眉を上げ、やがて苦笑を漏らす。

「“驚き初め”にもなったが?」

「それについて俺は認めない」

彼女の言葉を鶴丸が否定してぷいとそっぽを向く。

「そうか。では、まあ。今年もとっておきの驚きを期待しながら過ごすことにしよう」

「ああ、期待してくれ。退屈はさせん」

鶴丸は胸を張ってそう返した。









桜風
(15.12提出)


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