年越し
| 初めて目にした時に確かに思った。 「やっぱ、掃除が大変なんですけどー……」 こんな広い屋敷――本丸と呼ばれているのだから正しくは城なのだろうが、住んだことなんてない。 テレビで“豪邸訪問”のような趣旨の番組を見ても大抵抱く感想が「掃除が大変そう」だった。 実際、想像以上に大変だった。 何より、本格的に掃除をしようとする輩が多いこの城では、畳を上げる。 畳の下に如何わしい本を隠している人がいれば全力で慌てたかな、などどこか現実逃避を始めた彼女がふと視線を滑らせた先にとある人物がいることに気づき、そっとその場を離れる。 「みーつけた」 声をかけると「見つかってしまったか」と鶯丸は特に慌てる様子を見せてはくれなかった。 「サボり?」 「サボりだ」 これまた否定することなく彼は頷いて見せる。 「見つかったらうるさいんじゃないの?」 「主が言わなければ誰にも気づかれない」 彼女の指摘にしれっと返した鶯丸の言葉に「そか」と思わずすとんと納得してしまった。 すると、隣が噴き出す。 「なに?」 「いや、納得してしまうのだなと思って」 「しちゃったもんは仕方ないじゃない?」 「まあ……確かに」 言われてみればそうだ、と彼は頷いた。 「それにしても、ここって意外と穴場なのかしら?」 周囲を見渡して彼女が言う。 「大抵の場所の死角になっているな」 「普段からサボり魔って聞いてたけど」 彼女の指摘を彼は否定せずにニコリと微笑んだ。 鶯丸は内番をサボることもしばしばで、彼と内番が同じになった者は諦めのため息を吐くことがあるとかないとか。 「お掃除大変だよね」 「普段から少しずつはしているはずなのだが、まあ、正月を迎えるのには必要なのだろうな」 「そこまで納得しててサボるんだ?」 「それとこれとは話が別だ」 肩を竦めていう鶯丸に彼女は笑った。 「おーい、サボってる人はお蕎麦なしだからねー。具体的にいうと、主と鶯丸くん」 本丸の方から声がした。 「え、バレてるよ?」 「……そのようだな」 「しかもお蕎麦なし」 「それは困る。蕎麦を食べなくては年が越せない」 「だよね。働きますか」 「そうしよう」 2人は観念して掃除に加勢した。 「なんで大晦日に大掃除してるんだろう」 「昨日まで出陣してたからな」 廊下を雑巾で拭きながら零した彼女の言葉に隣で拭き掃除に励んでいる鶯丸が応じる。 「お世話になってます」 「気にするな」 鶯丸は小さく笑って応じた。 |
桜風
(15.12提出)
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