秋の桜
| かさかさと音を立てて庭の落ち葉が躍る。少し香ばしい甘いにおいが風に運ばれてきた。 先ほど賑やかに庭掃除をしていた者たちがいた。目的は焼き芋だという。 あとでお相伴にあずかろうと思いながら庭を眺めて本丸の廊下を歩く。 この城の季節は城の主の気分次第でどうとでもなる。 よその本丸では、ずっと春のまま、毎日花見をしているという話を聞いたことがある。 この城の主は、四季折々の風景が好きだから、と城の外に合わせて城の中の季節を決めている。 春夏秋冬。その中でもまた季節の初めと終わりで違う様子を見せるため、そこら辺の細かいところまで調整する。 普段大雑把なくせに、と周囲に揶揄されることがあるが、これは譲れない。そんな彼女のポリシーに初期刀は深々と満足そうに頷いている。 ふと、庭の一角でゆらゆらと揺れる薄桃色が見えた。中には濃い赤、橙色もある。 秋桜だ。 いつだったか、皆と種を蒔いた。どうやら順調に育ってくれたらしい。 日々の忙しさを理由に全く世話をしていなかったが、誰かが水を遣ってくれていたのかもしれない。 もう少しよく見えるところに、と少し歩調を早める。 ふと、その秋桜がいちばんよく見える縁側に人影があった。内番姿の彼は、庭の秋桜を眺めながら茶を飲んでいる。 「鶯丸」 声を掛けると彼はゆったりと振り返り、「主か」とにこりと微笑んだ。 「向こうで焼き芋焼いてるよ」 「そうか。ではあとで頂こう」 「残っていればいいけど」 「なくなっているのなら仕方ない」 彼の言葉にクスリと笑う。のんびりとした、鷹揚とした彼の様子はどんなに厳しい局面でもふっと肩の力が抜けてしまう。 「座らないか」 言われて彼女は頷く。 「今日の仕事は終わったのか?」 「終わった。ねえ、私座って良かったの?」 鶯丸は側に盆を置いている。その上には急須と湯呑。そして、彼の手にも湯呑。つまり、誰かもう一人来る予定だったのだろう。 「立っておきたかったのか?」 彼女の心配が届いていないらしく、そんな言葉が返ってくる。 「湯呑がもう一つある」 「ああ。誰か来るかもしれないし、来ないかもしれない。来たときのために置いているんだ。まあ、予備のようなものだな」 「へー」と相槌を打つ彼女に鶯丸は茶を淹れる。 「主もどうだ」 受け取って一口飲む。美味しい。 「鶯丸のお茶は美味しいね」 「そうだろう」 どこか少し誇らしげに返されて思わず笑いをこらえた。 「主はどうしてこんな本丸の片隅までやって来たんだ?」 「あれ」 指差した先は秋桜。 「遠くからちょっと見えたからね。ちょうど満開っぽかったし。鶯丸は?」 「同じだな」 どうやら彼も秋の桜で花見をしていたらしい。 時折風がさらさらと頬を撫でる。 会話をするでもなく、のんびり茶を飲んでいると「ここにいたのか」と眉間に皺を寄せた長谷部がやって来た。 「どうしたの?」 鶯丸の体で彼女の姿が見えていなかったらしく、長谷部は「主?!」と慌てる。眉間の皺が無くなった。 「主に呼ばれたのなら仕方ない。主からの御用を済ませたら戻って来い。……主、必要とあらばこの長谷部にもご命令をくださいね」 長谷部の言葉に彼女は首を傾げた。 「別に鶯丸を呼び出したわけじゃないよ。ここでたまたま出会ったの。長谷部、用事があるならどうぞ?」 「な?! それは本当ですか?」 「本当」と言いながら彼女は頷いた。 「なら、鶯丸。とっとと畑に戻って来い」 「へ?」 「休み休みするものだ」 「お前はほとんど休んでいるだろう。というか、休みしかない!」 ビシッと指差して鶯丸に言う長谷部の眉間には再び深い皺。 はぁ、とため息を吐いて鶯丸は湯呑を盆の上に置いた。 「では主。また共に茶を飲もう」 「そうね、これからの季節もたくさん花が咲くし。でも、内番が入っていないときにね」 自分で当番を決めておきながらすっかり忘れていたため、さらに長谷部の前ということもあり、一応念押しをしておく。 「善処しよう」 にこりと微笑み、鶯丸は庭に降りる。 長谷部の小言を聞き流しながら歩く姿はさすがというべきか。 苦笑しなが見送った彼女は、来るお茶会のためにちょっとお高い茶葉を購入することを心に決めた。 |
桜風
(16.10.21初出)
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