七つ転んで八つ起きて
| その本丸の近侍は希望者による交代制だった。 長らく初期刀が務めていたが、誰かが「ズルい」と言い出した。 ズルいと言われても困ったのは初期刀で、だから主である審神者に相談した。 「ズルいって言われても困るだろうし、当番制にする?」と返された。 初期刀は、『近侍』という役職に大して拘りを持っておらず、主の言葉に頷いた。 しかし、ズルいと言っていたのは全員ではなく一部の者であり、性格上ズルいと口に出来なかった者がいるであろうことから、希望者を募りくじとした。 当たりを引けば一週間主の近侍となることができ、近侍を務めた者は翌週はくじに参加できないものとなっている。 その週は浦島虎徹が近侍となった。 最近疲れ気味の主の様子に張り切って近侍を務めようと気合を入れたはいいが、初日に茶を零して慌てたところに茶葉をぶちまけた。 翌日気を取り直して休憩のおやつに、と仲間が購入してきてくれた羊羹を主の部屋に運ぶ途中、何もないところで躓き落としてしまった。 更に汚名返上とばかりに張り切った掃除では主が飾っていた花瓶を割ってしまう始末。 もう何もしなくてもいいのではないかと思い始め、自信喪失していたころに「浦島」と主に声を掛けられて彼は蒼くなった。 「あ、主さん……」 「これから出かけるから供をお願い。門のところで待っているから」 彼女は羽織に手を伸ばしていた。 「はい」 肩を落としながら頷いた浦島は帯刀するべく自室に戻って行った。 急いで門に向かうと主の姿があった。 「お待たせしました」 「うん。じゃあ、行こうか」 歩き出した主の少し後ろを着いて浦島は歩き出す。 まず主が向かったのは茶屋だった。茶屋と言っても茶葉を売っている店だ。 店の外で待っていると主が出てきた。 「持ってくれる?」 「はい」 言われるまま主から荷を受け取る。 次に主が向かったのは甘味屋だった。そこで団子を購入した。 最後は骨董屋だった。店主と話をしながら主は花瓶を購入した。 店の外で待っていた浦島は自分の胃がきりきりと痛くなった。自分の失敗を再度確認させられた気がした。お仕置きされているのかもしれないと思った。 ひととおりの買い物を済ませた主は城に向かって歩いていたが、ふと足を止める。 「まだ時間が早いからちょっと寄り道をしようか」 振り返って言われて浦島は頷いた。 失敗していなかったら嬉しい言葉だったかもしれない。だが、今は早く城に戻って部屋に逃げ帰りたい気持ちでいっぱいだった。 主が向かったのは河原だった。 「寒いなー」 笑う主の息が白い。 「風邪を引くかもしれないから早く戻った方が……」 促す浦島に主はにっと笑う。 「こちらも手は打ってある」 「『手は打ってある』?」 「あとでわかるよ。さ、ここらでいいかな?」 主は腰を下ろした。 浦島はどうしていいかわからず立ち尽くしていると主が自分の隣をぽんぽんと叩いて振り返る。 「座ったら?」 「はい」 「浦島、団子を出して」 「はい」 先ほど購入した団子を主に差し出す。 「浦島にはこれ」と主は巾着から小さな筒状の何かを取り出し、 蓋を取ってそれに中に入れていた液体を入れて浦島に渡す。香りから茶だと分かった。 「あったまるよ」 笑って主は巾着の中からまた別の入れ物を取り出して液体を注ぎ、浦島が差し出した団子を一本手にしてぱくりと口にする。 「それは浦島のだから」と残った一本の団子に視線を向けて言う。 「俺の?」 「そう。私が一人で食べるなんて気まずいじゃない」 笑って主が言う。 「主さんは、俺の失敗を怒ってるんじゃないの?」 恐る恐る聞いた。 主は苦笑して「失敗かー」と呟く。 「お茶の葉ぶちまけちゃったし」 「不幸中の幸いで残りが少なかったでしょ」 「羊羹落としちゃった」 「それは、ちょっと残念だった」 笑って言う。 「花瓶、割っちゃった」 「あれねー。歌仙が「季節にあった花瓶に季節の花を飾るのが雅で」ウンタラカンタラとお説教をくれていたから季節に関係ない花瓶を買い直そうと思ってたし、気にしてないんだよ。割れた花瓶はちゃんと浦島が始末してくれたし」 俯きながら自分の失敗を口にしていた浦島は窺うように主を見た。 「本人が失敗を失敗として受け入れているんだからいいんじゃないかな。適当にやってやらかしたことじゃないし。初めての事なら上手に出来なくても怒らないよ。同じことをしたら、まあ、注意するけどね」 肩を竦めて主は茶を一口飲む。 「浦島の近侍はひとまず明日まででしょう? だから、全部それを戻すための買い物に付き合ってもらったってわけ。荷物持ち。ちゃんとリセットしなきゃね」 「りせっと」 「うん、リセット。失敗は失敗として、それの後始末。自分でつけた方がスッキリする」 主は食べ終わったが団子の櫛を咥えたままピコピコと上下に動かした。 「ありがとう」 「どういたしまして。それよりも浦島。お団子は早く食べた方がいいよ。結構冷めて固くなってた」 「頂きます」 慌てて浦島は団子に齧りつく。主の言ったとおり少し固い。 主に渡された茶を飲むと胸の奥からじんわりと暖かくなる。 ぽたりと零れた涙に慌てたが主がぽんと頭に手を置いたからもうそれを止めることは出来なかった。 「悪かったね、忙しくてフォローが遅くなった。ずっと気にしていたんでしょう?」 「主さん、俺次は頑張るから。また近侍させて」 ぐしっと目元を拭って浦島が真剣な顔つきで主に言う。 「籤運、とっときな」 笑って主が返し、立ち上がる。 「さあ、帰ろう。ちょうどいい時間だよ」 「うん」 茶葉と花瓶を手にした浦島は先ほどとは打って変わって明るい表情になって主の隣を張り切って歩き始めたのだった。 |
桜風
(16.12.22初出)
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