愛されていると思う時。

愛されていると感じる瞬間。

たぶんそれは人それぞれ。



私の愛されていると思う瞬間って、一体どんな時だろう。












繋いだ手











私の彼氏はプロボクサー。

毎日毎日トレーニングに明け暮れて、あまり会う時間が無いのが現状。

彼がどの位頑張って今の地位を築き上げてきたのか、少しは理解しているつもりだから彼にはこれからも頑張って欲しいと思う。

でも、でもね。

やっぱり淋しいって思うのもまた事実。

会う時間が少ないって言う事は、お互いの気持ちを確かめ合う時間も少ないって事で、・・・・実は、手も握った事が無いという全くもって馬鹿馬鹿しいくらいに清い関係なのだ。

今時そういうのアリ?

私達、もう21歳だよ?

成人した男女だよ?

もうちょっと、もうちょっとだけでも先に進んでもいいかなって思わない?







「一郎君」

公園に差し掛かった時、私から彼の名を呼んだ。

「何?」

彼は呼ばれてすぐに振り返ってくれる。でも相変わらず素っ気無い。

いつもの事だからあまり突っ込まずに私は本題を切り出した。

「ボタン取れかけてるよ」

私の指差した先には彼の着ているシャツの一番下のボタン。

糸が解れてしまって無残にもプラプラとただぶら下がっているだけの状態になっていた。

「あ、本当だ」

彼が自分のシャツをマジマジと見つめながらも何所か他人事のように呟いた。

「付けてあげようか?」

会社で営業をしているクセなのかもしれないが、私はソーイングセットを常時持っている。

出張先でボタンが取れた事が一度あって、とっても困ったという経験がきっかけだった。

ボタンが取れた状態で取引先へ行くのは流石に気が引けるからね。

私が好意を持って彼の顔を覗き込むように見つめると、彼は面倒臭そうに顔を上げて首を横に振った。

「いいよ、帰ってから自分でやるから」

「えー、付けてあげるよ」

「いいってば」

「下にTシャツ着てるんでしょ?脱いでよ」

「だから、いいってば!」

彼はどうあっても断りたいようだ。

見た目はカッコイイし強いし、本当に自慢の彼氏だけど、そういう素直じゃ無い所がとーっても、

「可愛くない!」

「可愛いなんて思って欲しく無ぇよ」

サラリと返された。

そりゃまあそうか。

どんなに均整の取れた綺麗な顔をしていたとしても中身は立派な成人男性だもんね。

「可愛い」なんて言われて喜べないよね。

でも好意は好意でしょ?

人の好意を無下にするなんて何て罰当たりな人なんだろう。

私は口を尖らせて無言の抗議をした。

折角久しぶりに会えたんだから喧嘩なんてしたくないけど、それはそれ!これはこれ!

「・・・・あの、さん」

「何?」

「・・・・お願いします」

脱いだシャツを私に差し出すように頭を下げる彼の姿がとっても可笑しくって、私はついつい笑ってしまった。

笑われた事に少し怒ったように彼は眉を顰めた。

「初めから素直になればいいのにね」

「煩いなぁ〜」

「えへへ。それじゃ、任されましょう!」

「任せます」

彼が少し溜息を吐きながら、でもニッコリと微笑んで頭を下げた。

今日はとっても素直でいい子じゃない?

ねえ?一郎君!







公園のベンチに二人で腰掛けて、私は一郎君のシャツを睨めっこ、そして一郎君は私の手元と睨めっこ。

それぞれ終わる事の無い競争をしながら穏やかに時間は過ぎていく。

チクチクチクチク。

ボタンを付けながらついつい隣の座っている彼に目が行ってしまう。

さっきからじーっと見つめるその目はまるでお母さんの裁縫を横で見ている子供のよう。

可愛い、と正直思ってしまうけど、こんな事また彼に話したら怒られちゃう。

最後にしっかり結んでハサミでチョキ。

「ほら出来た!」

出来上がったシャツを自慢気に彼の前にツイッと差し出しみると、彼は何所か驚いたようにシャツのボタンを眺めていた。

「手際いいな」

「まぁね!小学校からずーっと家庭科は成績良かったんだから」

「嘘臭ぇ」

「う、嘘じゃないよ!」

「はいはい」

クツクツと笑う彼はまるで私の言っている事を信用していないようだ。

悔しいなぁ〜、今度家に呼んで手料理でも振舞ってあげようかな?

でも、そうでもしないと信じてもらえないっていうのも哀しいかも。

そんな考えが頭を過ぎる。

彼は私からシャツを受け取ると立ち上がってさっさと袖を通した。

もうちょっと有難がってよね!今時の女の子がソーイングセットを常時持っている事自体なかなか珍しいんだから!

私はブツブツ言いながら針と糸を丁寧に元あった場所へ収納し、パチリと小さなソーイングセットを閉じバックへと仕舞った。

「ほら」

「え?」

彼がそれを見計らったように私に右手を差し出している。

私はそれが何を意図しているのか理解出来ずにオロオロしていた。

「手」

「は?」

「たまには、さ」

頬を少し赤く染めて視線を外しながら彼がそう言った。

ああ、なるほど。

漸く私も彼が何をしたいのか気付いた。

手・・・・、だね。

差し伸べられた手を取ると、彼は少し力を入れて私を引いてくれた。

意外な一面を発見。なかなかの紳士じゃない?

でも相変わらず視線はそっぽを向いたまま私を見てくれないでいた。

どうやらとっても恥ずかしいみたい。

「一郎君、顔、真っ赤だよ」

顔だけじゃなくて耳まで真っ赤。

「う、煩いな!そんなの見なくてもいいよ!」

「見なくていいって言われてもなぁ〜」

見えちゃうんだもん。

しっかりと私の視界に入っちゃうんだもん。



初めて繋いだ手。

あ、一郎君の手って結構ゴツゴツしてるんだ。

見ているだけだと女の子のように綺麗な手って印象しかないけど、やっぱり男の子なんだなぁ。

指もやっぱり私より太いし。

急に意識し始めたその手にグッと力が入った。

何事かと彼の方に視線を向けると、ニコリと微笑む彼が居た。

「行こう」

「うん」

彼に手を引かれながら私は必死でその背中を追っていた。

あ、今の私、愛されてるかも。

そんな幸せな事を考えながら。





その繋いだ手と手を、どうか離さないでね。









END




以前、『Strawberry Sugar』さんでサイトアンケートをされていて、
そのアンケートで見事1位に輝いたジャンル、宮田夢。
そして、その発表の中で宮田夢の書下ろしをダウンロードフリーにしておられたので
遠慮なく頂いて参りましたvv

可愛くない宮田が可愛いですvvv(←見事な矛盾)


関さん、ありがとうございました!!



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