| 髪型、良し。 服装、良し。 口臭、良し。 俺は一通り自分のチェックを済ませると勢い良く玄関のドアを開いて外へ飛び出した。 今日は彼女と初めてのデートだ! PM1:00の待ち合わせ 勢い良く家を飛び出したまではいい。 元気があって何よりだと思う。 だけどやっぱり待ち合わせの約束の時間が近付くにつれて緊張感は増すばかり。 ボクシングの試合前にはいつも、 「心地好いくらいの緊張感を持って臨んだ方が良い」 と、父さんのアドバイスを思い出して落ち着いていたが、今日のデートと試合は全くの別物で、比べる対象にも成り得なかった。 この緊張感をどう緩和したら良いのか、初デートである俺には全く経験が無いので分からない。 オタオタする事しか出来なくてみるみる内に時間だけが虚しく過ぎていった。 PM1:00。 さんとの約束の時間。 少し早く来ていた俺はまだ纏まり切れていない頭のままソワソワと彼女の姿が見えるのを待ちわびていた。 しかし、こんな状況で彼女に会って大丈夫なのだろうか? 俺がさんを好きなのはきっと彼女も分かっているだろう。 バレバレだと周りの人間に茶化された事もあった。 そんな風に周りからの後押しという名のお節介の甲斐あって、俺は今日こうしてここにさんとデートの待ち合わせが出来ているわけだ。 やはり周りのお節介な人間達にもお礼を言わなければならないだろう。もちろん後での話だが。 いや、そんな事はどうでもいい。とにかく今はデートのことだけ考えよう。 それでなくても緊張してソワソワしてるこの状況だ。どんな失敗をするのか、想像しただけで血の気が引いてくる。 俺は腕時計を眺めながら無い頭を必死に振り絞って考えを巡らせる事に専念し始めた。 すると突然、俺の背中を誰かがポンポンと二度叩いた。 「ごめ〜ん!待った?」 振り返ったその先には少しだけ息を切らしたさんの姿があった。 「い、いや、全然!」 突然の想い人の到着に心臓が跳ね上がるほど高鳴ったのは間違いなく、必死で待っていないと主張する声もどこかおかしかった。 さんは少しだけ驚いたように、でもホッとしたように笑って俺を見つめた。 「お待たせ」 春の暖かな日差しの中で微笑む彼女は本当に綺麗で、一瞬息を飲んだ俺は見惚れていたんだと思う。 さんが首を傾げて俺の顔を覗き込むまで俺は多分ずっと呆けていたんだと思う。 実際どのくらいそうしていたのかは良く覚えてない。 そんな俺に対してさんがクスクス笑い始めて俺にこう言ってきた。 「ねえ、一郎君。緊張してるでしょ?」 「え゛!?」 「ほら〜、やっぱり」 俺の反応を見て更に笑い出す彼女は今度はお腹を抱えだした。 慌てた俺は必死に反論する。 「し、し、し、してないですよ!」 さんの鋭い指摘に必死に抵抗してみるが、図星である以上この抵抗が無駄に終わっているのは火を見るより明らかだ。 さんは一通り笑った後、ニコリと微笑んで俺の前に右手を差し出した。 「はい」 「え?」 さんのその行動を理解出来ない俺は、差し出された手をどうしていいのか分からずにとりあえずさんの顔をキョトンと眺める。 それに気付いたさんはもう一度手を前に差し出して、 「手、繋ごう」 そういって強引に俺の左手を掴んだ。 あ、温かい・・・・。 自分の手が冷たいのかどうなのかは分からないけど、さんの手はとても温かかった。 ドキドキする心臓を押さえ込み、紅潮する頬を必死で耐えながら俺はさんの方へ顔を向けると、さんはまたニコリを微笑んだ。 「いつも通りでいこうね。私、いつもの一郎君が好きだから」 「さん・・・!」 『好き』という言葉に思わず反応してしまう。 今日は初デートだけど、俺達はちゃんと告白して付き合っている訳ではなくて、こうして今一緒にいることも不思議なくらいで。 さんの口から出た、いつか俺から彼女に伝えるであろう『好き』というその言葉はまるで神聖なもののように感じられた。 でも、さんが言う『好き』と俺が思う『好き』とは全く別物のような気がして、少しだけ切ない。 「ねえ、何処行きたい?」 胸に残る切なさを噛み締めながら、俺はさんの視線を真っ直ぐに受け止めて繋いだ手に少しだけ力を込めた。 「さんと一緒なら、何処へでも」 「うん、そうだね」 やっぱりさんの笑顔はいい。 俺は左手の温もりを愛しく思いながら再度そう感じた。 デートは行き先を決めずに。 ただ、お互いの手の温もりを大切に。 それが俺と彼女のルールになっていくだろう。 きっと、これからもずっと。 ずっとずっと。 END |
関リョーコさんの素敵サイト『Strawberry Sugar』で
19999のキリ番を踏むことが出来ましたのでリクエスト。
『一郎さんのドキドキ☆初デート』
この初々しさが堪らんッ!!(笑)
関さん、ありがとうございました!!
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