| 「ただいま」 「お帰り、宗ちゃん」 神宗一郎は自室に戻って来て、笑顔で胸に教科書とノートを持って部屋に正座をしている姿に微笑を刻んだ。 「来てたんだ、」 「英語」 「いいよ。ちょっと待って」 部屋から出て、下に居る母親に声を掛けた。 「食べてくだろ?」 「うん」 振り返った神の言葉に、きゅと持って来た物を抱きしめて首を傾けた。 |
| 「あ、唐揚げ」 喜ぶ様に、神は己の皿にあった唐揚げを一つの皿に移して代わりにトマトを持ってきた。 「ありがとう。宗ちゃん」 「はトマトが苦手だからね」 そう言って、一口サイズのトマトを口に放り込む。すっぱい味が口に広がる。目の前で唐揚げを美味しそうに食べるに、対して好物とは言えないが美味いと感じられる。 「陵南はどう?」 「うん、楽しいよ。あ、今日席替えで隣にすごい人がきてびっくりした」 「へえ、誰?」 「仙道くん」 「ああ。仙道か―……」 思い至る人物を脳裏に思い浮かべて、の顔を見た。首をかしげている。おそらく仙道と神を比べているのだろう。どちらの方が背が高いか…というところか―。神は白飯の茶碗を持って米を食べながら思った。 「同じ位、かな?宗ちゃんと仙道くん」 「確か仙道の方が高かったはずだよ」 ことりと茶碗を置いて言うと、そう?と今度は反対側に首を傾げられた。仙道の方が背が高いと言っても高が一センチの話だ。見た目でそう容易に分かることはないだろう。 「あ、って仙道が好み?」 「え?」 好奇心を瞳に表して訊いてくる神に、は思わず溜め息が流れてしまう。 「違うもん」 分かっていながら訊いたのは、神が笑っていることで理解できる。それほど大きな声で笑っていないが、口元に握り拳の上部を当てながら顔を逸らしているのだから、嫌でも分かろう。 「宗ちゃん」 「ごめんごめん……」 謝りながらの方に手を伸ばした。手をの頬に向けて掌の方で頬に触れる。は頬に触れた手に笑みを浮かべる。 「いいよ」 許しの言葉が聴けて、ほっとしたのか笑みを刻み箸を動かした。 「仙道くん、やっぱりもてるみたいで、休み時間になる度に女の子がわっ」両手を広げて見せて人数を示してきた。「ってあふれるの」 じゃあ隣のは肩身が狭いのだろうと食べながら思っていると、顔を覗き込まれ目を丸くしてしまう。 「私が居づらいかもって宗ちゃん思ったでしょ?」 頷く。 そうだろう。が記した人数から考えれば、仙道の隣には折りたたまれるような格好で椅子に座っていなければならない―少し大袈裟だろうが―そう推測した。 「あ、一番後ろの席なんだけどね」 あの仙道が一番前というのは、神自身の経験からいってないだろうと内心で苦笑した。 「隣に迷惑だから、後ろに行って……って言ってそうさせたの。…ね、宗ちゃんもそうなの?」 「ん?まあ隣の子に迷惑かかるからね」 「あ、やっぱり宗ちゃんもてるんだ」 いいな〜と言いながら味噌汁を飲む。 神はを見た。 ももてるだろうと―。 美女というよりも美少女の表現が似合う幼馴染。小さい頃からずっと一緒で、よく笑ってよく泣いてよく喋る女の子。人見知りが激しい方で昔から神の後ろに居るような子。けれど高校受験のとき、突然「宗ちゃんと別の高校に行ってみる」と言われ驚いたものだ。二人共上手く合格をして、神は海南に、は陵南に、行くことになった。そのままが神から放れていくのかもしれないと思っていたが……。 現在のようなやりとりが、ほぼ毎日(神が帰って来てから)行われている。―毎日が神の所で晩御飯をご馳走になっているのではない― 「ももてそうだよ、告白されたことないのかい?」 「…うん。どうして?」 「いや、それなら良いんだ」 告白してきたやつが無理やり…なんてことが最悪起こったらと考えると背にかきたくもない汗を感じてしまう。 神自身はそういう目に遭ったことはないが、それは性別の差だろうし…。は見た目からも屈強などお世辞にも言えたものではないだろう。傍に居ないというだけで、こうも不安要素が溢れてくるとは……。小さい頃は転ばないかとか、怪我をしないかとか、泣かないかということだったものが……。 「ごちそうさまでした」 箸を置いて、小さく頭を下げるに、神が作ったのではないが 「お粗末様でした」 と言う。まだ食べ終わっていない神は、が食べた食器類を持って下に行くのを見続けた。途中で手を出せば、神が食事中なのをいいことに怒り出すにきまっている。部屋を出る時に特別危ない雰囲気はなかったから、食べることを続けた。 ついでに歯磨きに、家に戻ったか―…。 隣だから、できることだろう。そんな面倒なことをしなくても神の家に一本余分に入れればいいだけの話だろうに―。が、それをしない理由もあった。 「さて、俺も―…」 食べ終えた食器を持って下に行く。 帰って来たは、宿題の英語の教科書を広げた。どうも一人だと落ち着かずにそわそわしてしまい、宿題どころの話ではなくなってしまう。だから神の部屋を訪れてしまうのだった。 「えーと」 と身を乗り出して、筆立てに入っていたシャーペンを一本借りた。 先まで食事をしていた丸テーブルを使って、宿題を片付けていく。神の部屋でするなら神と一緒にすれば良いだろうと思うが、神はがこうしている間に風呂に入っていたりする。つまり待つ間が暇。 「はあ、何とかできた〜」 神が居ない状態だが仕上げることが出来たは、晴れやかに笑った。宿題はそれほどの量ではなかった。一呼吸おくために、両手を上に伸ばして大きく伸びをした。伸びをしている間に、戻ってくるかと思ったがその気配はまるでしない。伸びを終えてちょこんと正座をしながら、ドアの方をじっと視た。ドアノブを見ながら、いつノブが回るかと―……。 「宗ちゃん、お風呂遅いな〜」 遅くはない。 寧ろの風呂の時間の方が、神の平均時間よりも長いだろう。 「…………」 『そうちゃん』 うさぎを抱きしめた幼い頃のが、ドアからこっそりとやってきた。その日は隣同士で集まって夕食を食べて話をして楽しんでいた。両家の子供―宗一郎と―は幼いから集まっていた神家にて夜を過ごすことになった。大人は階下で騒いでいた。酒が入っているせいもあるが、久々に騒げるというものもあったのだろう。二人は別々の部屋で寝かされていた。 『??』 ふるふると震えながら、うさぎを抱きしめる姿に、ああと分かってしまった。 『おばけがいるの』 風の音に、壁のしみに、部屋に潜む闇に…… はそう言ったものに、見えない物を見てしまう。…いないにも関わらず。 『』 その声に、幼いは瞳に雫を溜めながらも笑みを浮かべる。 こてんと体育座りのままの姿で寝転がる。重くなる瞼で脳裏に浮かぶ過去に、へらっと笑ってしまう。 そうだ。 こうしている今も空気の流れを恐れ、音に怯えていたのが、幼い私―。 いつからだろう。 怖いと思わずに、朝を迎えることが出来るようになったのは……。 ゆるゆると立ち上る煙草の紫煙のような感覚に、全てを任せてしまう。そこは綿雲の上に乗るかのようなやわらかで優しい世界―。 「ああ、やっぱり」 風呂上りで頭にバスタオルを乗せたままの神は、くすりと笑いながら部屋の状態に言った。神の居るドアから見て、部屋の中央よりやや北側には眠っていた。体育座りの姿のままで眠るとは、珍しい。 「風邪、ひくよ」 その声には僅かに、ん、と声を洩らした。神は耳にしかとの返事を聴いて、先ずベッドにある掛け布団をに掛けた。その間に髪を乾かす。 「宿題」英語のノートをぱらぱらと捲り「終わったんだ」 風呂から出る時に、ジャージに着替えてきておいた。いつものこととは言え、苦笑いを浮かべずにいられない。髪を乾かすと、バスタオルを机の上に無造作に投げ出した。に被せていた布団をそっと剥がし、羽を扱うかのようにそっと抱き上げた。 「うん…」 支えを求めてなのか、顔が胸へと押し付けられる。 「はいはい」 笑う。 ドアを開けっぱなしにしていたお蔭で、両手が塞がっていても出るのにも苦労はしない。起こさないようにするのは、今までの経験で覚えた。 階段を下りる。 途中、母の声が耳に届く。母にの家にいってくると告げると、ああ、と納得された。 いつものことだからか?母さん。 の家に着くと、の母から 「あら、宗ちゃん、ごめんね、いつも」 と言われた。 「いいですよ。これ、俺の役目みたいなものだし」 と笑った。 いつものことだが、腕の中のを渡そうとはしない。 「じゃあ。連れて行きますね」 そう言って中に入る。 階段を上がりながら、思い出すのは幼い頃。 一緒の布団で寝ていても小さくなってぐずる姿。うさぎを唯一のお守りにでもするように抱きしめて俺に抱きしめられている怖がりな女の子。 『おばけなんかこわくないよ』 と何回言っても小さく震えている。 手を動かせて、髪を撫でた。よく母さんがしてくれるように、ゆっくりと撫でる。 『こわくないよ、』 と言葉をお守りにするようにはっきりと言う。 じと見つめてくる濡れた大きな黒い色が、言葉が効いたのか唯眠くなっただけなのか分からないけど塞がれていく。 同じように俺はする。 ベッドにを寝させて、布団をかける。手を中に入れて、布団から出ている顔に顔を近付ける。 「おやすみ、」 そうして額に口付ける。 優しき夢を…… そう祈りをこめて。 |
『光風霽月』の月守青蓮さんから相互記念で頂きました。
神さんで他校のヒロインとほのぼのしてもらってみたかったもので...
神さん、ものすごく優しいっ!!
女の子を軽々持ち上げて運ぶことが出来る神さんが大好きです!!
月守さん、ありがとうございました!!
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