部活の帰り、少しだけ道を変えてみた。クリスマスだから、たまにはイルミネーションを見に行くのも悪くはないという気まぐれだった。
「……」
白いコートに何かの毛―ラビットファーというのだが、彼は知らない―がついている。フード付きのそれはよく彼女に似合っている。手に持つ鞄の大きさが普段より大きいのは、誰かへの贈り物が入っているのだろうか―。不安が過ぎる。





聖夜の贈り物





ラッピングをするために、包装紙を買いに来た。流石に紙袋に入れたままの物を大切な人達に贈るのは駄目だろうと。そんな難しいものでなくてもちょっとそれらしいのをと買いに来たら、は目の前の人物に驚いた。
「牧さん?」
?」
お互いに目を丸くさせている。
は牧がこの時間だと部活だと思っていたから、目の前に現れるとは思ってもいなかったからだ。
牧はがこんな時間に外に出ているとは思わなかった。それも彼女の家から距離もある。
「私はプレゼントの包装紙を買いに…」
「俺は寄り道を…」
きょとんとしつつも此処に居る理由を口にした。は鞄の中にあるプレゼント達に感謝をした。そして気まぐれだとしても目の前に現れてくれた人にも―…。そして今日という日に。

「先日はありがとうございました」
「いや…だがあんな無謀な挑戦はあれっきりにしてくれよ」

先日雪が降ったことを言っている。その時は蛍雪の功の話を思い出し、無謀にも防寒具を一切身に付けずに、雪が望める階段の下出入り口間近で本を読んでいた。数時間―と言っても一・二時間の話だが―後に牧達三人が彼女を見つけて、神が手袋を清田がマフラーをそして牧が着ていたコートをに纏わせた。それほどに冷えていたし血色もよくなかった。コートを着せ家に帰させたがその時の様子を思い出しただけでもぞっとする。同じことが起こってほしくはない。

「牧さん?」
「あ、いや」
考えこんでしまって何も耳に入っていなかったようだ。しかしは鞄の中に手を入れて、何かを取り出しているようだ。
「まだ、包装していないけれど、この間のお礼も兼ねてですけど」
ああ、もしかしなくても嫌な感じがする……。
手にモスグリーンの毛糸で作った何かを持っていた。牧はそれを見てを見た。
「俺に、か」
こくりと一つ頷かれて、薄い笑みが浮かんだ。思わずポケットにある物に手をつっこんで、確認するように触れた。

偶然か―。
奇跡か―。

受け取った毛糸の物は、広げられる物だったから広げてみた。
「マフラー…か」
は何も言えなかった。懸命に編んだとは言え手編みの物を気味悪がる人もいると聞く。どんな思いを編みこんでいるか、下手をすれば髪や爪を編みこんで呪具にしているかもしれないと過ぎらせるかもしれないとさえ―……。牧もそういう考えを頭に過ぎらせたのかもしれないという考えが浮かんだ。
「あ、の、やっぱり手編みって嫌ですよね」
ははと乾いた笑いを無理やり喉から絞り出して、牧からマフラーを奪い返そうとした。が、の手に牧の手が重なる。
「ありがとう」
そう言って牧はマフラーを首に巻いた。首にふわりと毛の温かさとくすぐったさが感じた。手をポケットにつっこむと、硬い感触がまだある。
それを渡すべきか、否か―……。
悩むところはそこだ。は特別な関係ではない。後輩の親友…それだけだ。例え牧がを思っていようとも……。
「…牧さん?無理に」
「本当に嬉しいんだ」
ほ―とは安堵の溜め息を吐いた。嫌われるかもしれないと一抹の不安がずっと心に蟠っていたからだ。
編みながらも不安があった。毛糸を選ぶ時や何を編もうかと考えている時には、一切生まれなかった。編み始めてふわふわした嬉しいような楽しいような気持ちでいる時、ふと過ぎってしまう黒い靄。
それが晴れた。
「良かった」
牧の一言が嬉しくて、笑った。
その笑顔が嬉しくなり、牧も笑った。



指が触れる硬い感触。



「俺からもあるんだ」
何時までもポケットの中で燻らせて良い物じゃない。唯一もらって良い人のためだけに選ばれた物。渡せる相手は唯一人ということだ。
ポケットの中の異物の感触に、苦いものを覚えた。
小さなそれをしかと握り締めた。
怪物と呼ばれ、数々の強豪にも勝っていたものが、自身への戦いにこうも弱気になるとは……。
「これ、だ」
手―大きく日に焼けた掌―に四角がある。白い箱に包装されたもの。箱には赤のシンプルなリボンだけで飾られている。それをの方へ差し出した。受け取ってもらえなくても、こうして渡そうとしたことが、彼の勝負を負けから這い出させることが出来たのだから。はそと手を伸ばしてくる。
その手が小さくて、驚いた。



全く分からないことが、まだあるものだな。



こと
とその手に向けて箱を滑らせた。箱の中身である彼女への品は、本来あるべき人の所に行けて喜んでいるだろうか。
「牧さん?」
この短い時間の間に何度同じ呼びかけを聴いたか―。は手の中の物と牧を交互に見ている。何故これをが手にしているのか、全く理解できていないのだろう。
「もらってくれるか」
自信のなさが、牧自身の耳にも聞き取れた。
「勿論。喜んで」
ふわりと笑って、両の手で箱を持ち唇の前に持ち上げている。本当に嬉しそうだ。が喜んでいる物は、それほど高価な物でない。貴重でもない。それをこうも嬉しそうな顔をされては、
「そうか」
としか言えなくなってしまう。
は首を傾げてうんと小さく肯定した。
「その鞄の中のは、他に誰のプレゼントだ?」
「神くんに手袋と信長くんに帽子。で兄さんと兄さんの友達に色々、かな」
は牧からもらった物をコートのポケットに入れた。
同じにしたくないから、これだけは別にしておきたくて……。
「今夜はクリスマスパーティか?」
「そ。兄さんが友達とするのに、私もお邪魔するの」唇に人差し指を当てながら笑みながら、言の葉を綴った。「毎年の話よ」
「そうか」



牧さんもどうですか



と言いたかった。でもそこまでの我が儘は言いたくなかった。今は彼にプレゼントを贈り、そして予想外にももらえた。
それで充分。
それが幸せ。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス。破目を外すなよ」
が笑う。くすくすと口元に手をやりながら。牧はにぱっと背を向けた。そして手を挙げると
「じゃあな」
言った。
「またね」
と言った。








ぱたぱたと慌しい足音が耳に入ってきた。
ちゃん。帰って来たんだ」
「……何か、良い事があったみたいだな」
足音だけで分かることにすごいなとやや下方へと目をやる。天使の容貌と言われることもあるほどに、彼は美人だといえる。男の彼―花形という―もそれは認めざるを得ない。
「藤真は、ちゃんのことに関して特にすごいな」
藤真は自分よりも背が高い花形を見、口の端を上げた。
「当然だ」
その言い様に花形はふるとかぶりを振った。



「兄さんっ」



ぱっと花形と藤真の間に、飛んで来た人影があった。それを藤真は至極当然とばかりに受け止める。さっきまでの顔は何処に行ったのか、穏やかで優しい―正しくその容貌に相応しいもの―へと変化させている。
「どうした?
「あのね、牧さんに会ったの」
抱きとめながら、花形にだけ見える手をひらひらと振っている。それはまるで邪魔だから向こうに行けと言っているようだ。いや、実際そうなのだろうが…と花形は思いながらも藤真の無言の言葉に従って違う部屋へと行った。きっと花形が居なくなったら、藤真との話が始まるのだろう。
「俺から見れば、藤真とちゃんは幼馴染以上の存在に見えるけどな」
その呟きは誰にも聴かれることはない。





は牧からもらった箱を机に置いて、丁寧に包装を解いた。
それは同じくらいの大きさのオルゴール箱だった。ぜんまいを何度か巻いて、蓋を開ける。そこから流れる曲に驚き、直ぐに微笑を浮かべた。
の好きな曲だから。






聖なる夜に小さな奇跡を……。  
07・12・23(日)執筆




『光風霽月』の月守青蓮さんのサイトでフリーとされていらっしゃいましたので、頂いて帰りました。
ありがとうございます!!