| 毎年のように着物の着付けを終えたは、身支度を整えて家を出た。そこには藤真―は兄さんと呼ぶ―と花形の姿がある。破顔するに藤真も笑顔を向けた。それを花形は藤真がを大切に思っていることを実感する。 「おめでとうございます。兄さん、花形さん」 「おめでとう、」 「おめでとう、ちゃん」 着物姿でおじぎをするに、にこにこと穏やかな笑みで同じことをする二人。の手を藤真が取る。もう片方の手には巾着が持たれている。 「迷子防止な」 「ひどい、迷子になんかならないもん」 手を繋ぎながら藤真が言うと頬を膨らませるに、藤真は噴出した。拗ねだしたに何度も謝る姿に、花形はあの藤真がなーと感心させられる。 「神社、行くんだろ」 膨らませていた頬を元に戻して、はぱっと笑った。きらきらした顔を向けられて、藤真だけでなく花形も笑った。おみくじやらお祈りを楽しみにしてこんな顔をしているのではないということを知っている。は神社に出ているリンゴ飴を楽しみにしているのだった。 「兄さん、花形さん、早くいこっ」 まだまだ子供っぽさの抜けないに、二人は保護者の心持でついていく。 着いては、おろおろとしていた。 「兄さんと花形さん、何時の間に……いなくなったの」 目の前には大人数がある。花形ほどの長身なら直ぐに見つけられるはずなのだが、何処をどうしたのかは彼等の居る所と反対の方に居たりする。 「あれ〜、さんじゃないすかー」 ぱっとそちらへと顔を向けてしまう。そこにはの親友と呼べる神宗一郎にその後輩の清田信長に彼等の先輩でありの思い人の牧紳一が居た。 「あ、迷子?」 よほど困惑しきった顔をしていたのだろう。神が訊いてきた。言葉に詰まりながら顔が少しだけ赤くなったことで、三人同時に迷子を確信した。 「違うって、ほら、兄さんが何時の間にか消えたのっ」 神は何とか笑いを堪えながらも手が口から離れない。清田は目を丸くさせてしまっている。 「なら、俺達で探すか―……」 と牧は本当に困ってしまっているに、言った。が牧を見て、目を丸くさせてしまった。牧はの方に歩み寄ると、ふ、と笑んで言の葉を綴った。 「その格好で探すのは困難だろう?」 「え、あ、そうかも。でも」 「俺は構わん」 「俺も平気っすよー」 「はいはい、の迷子癖は今年も健在だね。手伝うよ」 泣いちゃダメだよと神は、宥めるように言葉を続けた。そんな彼等の言葉には礼を言いながら俯いてしまった。 「あ、牧さんは残ってて下さいね。だけ置いてたら、また迷子になるし。俺の言う兄さん知ってますから」 行くよ、ノブと言いながら清田の手を取って、ずんずんと人ごみの中に入っていった。そんな二人を見送りながら、はつい―と顔を動かして牧を見た。いつも藤真や花形の傍にいることの多いだが、牧にはどうしてか二人と違う印象を抱いていた。それは恋をする前から―。 「あ」 「謝るのはなしだぞ、」 え?とじとの方を見ている牧の瞳を凝視してしまう。牧は笑った。 「俺が、お節介をしたくなっただけだ。気にするな」 「はい」 言われて自然に笑う。安心させるために言った上辺だけの言の葉だったかもしれないが、牧の浮かべた色と彼の声でほっとすることが出来たのだから。 「手を」 牧がへと手を差し出した。の視線が牧の手から顔へと動く。不安気な視線に、今迷われたら俺も困るからなと言われ、お世話になりますと言いながらそと手を重ねた。手が重なった時、は気付かなかったが牧が一瞥をくれていた。の手を受け取ると、しかと離さないように握った。 「あの二人良い雰囲気っすねー」 男四人が小さくなりながら、牧との動向を窺っている。清田が嬉しそうに笑って言う。くると神の方を見る。神は清田の顔を引っ込めながら、笑顔で 「うん。だからもう暫くこのままだよ」 「いいっすねー」 頭を引っ込めながら、清田は後ろに居たの兄さん―実際は幼馴染の関係に当たる―とその友人―ある意味部下か?―を見た。 「俺は複雑だ。牧にをやるのがな……」 藤真は牧との姿をこっそりと目に入れながら、溜め息を吐きながら零した。それを聞いて花形が藤真を見た。幼い頃からの親がついつい藤真に世話を任せていた―という話はどうやら本当らしい。心底心配している。 「藤真さん。があんなに幸せそうな笑みを浮かべてるんだから、良いじゃないですか」 神が言う。 「ああ。まー、泣かせたら牧を殺すだけだが…な」 藤真が言う。 「物騒っすね。でも俺もさんにはああやって笑っててほしーっす」 清田が言う。 「まあ、あの二人自身だけだろうな。両思いってことに気付いてないのは……」 花形が言う。 花形の言うことに三人は同時に腕を組んで納得してしまう。 「くっつかなかったら、俺がをお嫁にするとしよう」 そうしみじみと言った藤真の肩に三人の手が乗った。藤真としても叶ってほしいと願っている。今、唯一緒に居れるだけであんなに幸せな笑顔を浮かべているのだから。まして藤真はを妹として娘としてそして友人として傍に居たのだから―。 「なってくれるといいっすね、恋人に」 清田の言葉にしみじみと考えこんでいたが、の表情の小さな変化に気付くことになる。 「さて、そろそろいかないと」 と、神。 「泣きだすな」 と藤真。 腰を上げて、おろおろとし始めたの方に足を進めた。 「兄さん」 しっかと繋がれた手を目にしながら、に笑った藤真。 「?藤真?」 何で此処に藤真が居て、が藤真のことを兄さんと呼んでいるのか全く分かっていない牧。藤真はの前に来て、頬に手をやった。 「やっぱり迷ったな」 「違うもん。兄さんがどっかに行ったの」 今にも泣きそうな顔をされて、藤真は声を出して笑った。幼い頃からしているように、が泣きそうになると頬にあった手を頭にやった。 「藤真」 牧がの手を持つ手を藤真に差し出した。が、藤真はかぶりを振った。 「責任もって最後までを案内しろよ、牧」 藤真は不敵に笑い、牧の差し出す手を拒否した。ぱくぱくと言の葉を紡げずに驚愕しているに…にだけ分かる程度に笑みを変えた。その途端に牧に見られずに済むことが出来たのは彼女の幸運というべきだろうか、は頬を彩らせた。 「……すまんな、。俺みたいな奴だが、初詣を一緒にどうだ」 「……喜んで」 繋がれた手を離すことなく、そのまま詣でることになった。 一年の初めの日、災い転じて福と成す。きっとこの一年は素晴らしいものとなる、そう思った牧とだった。 あけましておめでとうございます。 ギリギリで書きあがりました。この一年貴女にとって幸せに満ちた一年であることを祈ってます。 08年01月01日(火)執筆 |
『光風霽月』の月守青蓮さんのサイトでフリーとされていらっしゃいましたので、頂いて帰りました。
お正月です。初詣です!
牧さんが『余裕のある大人』って感じでかっこいいです〜!!
ありがとうございます!!