薄紅色の花咲く頃 2






朝廷にあがって数日経つが、はやることが無くて困っていた。

8年前、先王が亡くなって王子たちの王位継承争いがあったのち、全ての王子が共倒れとなり、最後に残った末の王子が棚からぼたもち即位をしたのだが。

実はその即位した王子。紫劉輝。

全くやる気のない王となっている。

政事は一切せず、やることといったら夜な夜な侍官とともに過ごすくらいのもの。

お陰で劉輝は男色家として有名となっていた。

しかし、そのため、秀麗は安心して後宮入りが出来た。

そうは言っても、教育係兼根性叩きなおし係として後宮入りしている秀麗にとっては、劉輝に会えない今の状況は困ったものだ。

は王付きの女官として朝廷に入っていたのだが、さえ初日に挨拶をしたとき以来劉輝に会えていないと言うのが現実だ。

それ以降、食事の時も運んでいくものの劉輝の姿を見たことがない。

そんなわけで、時間の余っているは父の居る府庫に足繁く通うようになっていた。

「お父様」

「やあ、よく来たね」

「暇です」

笑顔で迎えてくれた父に、は少し拗ねながらそう訴えた。

父は苦笑をして

「じゃあ、この本でも読んでごらん。少しは気が紛れるよ」

とそばにある本を薦める。

「ありがとうございます。そうさせてもらいます。でも、お給料を貰うからにはちゃんと仕事を全うしたいと言うのに。秀麗も主上に会えてないって言うんですよ。これで、どうやって主上を立派な王にすればいいんでしょうね」

思わず愚痴る

「まあ、気長にやればいいじゃないか」

とおっとり父に言われても「そうですね」と相槌を打った。

ひと通り父と話をしたあと、は自分の室へと帰ることにした。

とりあえず、この本を置いてからまた劉輝を探すなり仕事をするなりしないといけない。

自室に帰る途中、は奇妙なものを見た。

自分が府庫を尋ねる前に通った時もその男は居た。

彼は目的もなくふらふらしている風ではなく、書翰を手に持っているからどこかに用事があるのだろうが、全く移動をしていない。

推測するに、彼は迷子だ。

服装からしても文官だが、新人っぽい初々しさがない。

今年は会試が無かったから少なくとも1年はこの朝廷に勤めているはずだ。

それなのに...

はその官吏に近づいた。

「あの」

「な、何だ?!」

挙動不審の官吏はに声を掛けられて驚いたようだ。

「失礼ですが、どちらに行かれるのでしょうか?」

「戸部省だ」

「まあ。ではわたくしもご一緒させていただけませんか?私もそちら方面に用事がございますの」

全然用事はないが彼の矜持を傷つけないよう、ついた嘘だ。

「あ、ああ。仕方がないな」

そう言った彼は少し安心したようだった。

「俺は、李絳攸だ。見かけない顔だな」

「わたくしは、と申します。女官として朝廷に上がらせていただきまして、まだ日が浅いものですから」

その自己紹介の会話が終わってから、言葉がない。

どうやら李絳攸という人物は会話が苦手のようだ。

文官なのに、面白いなと思いつつは絳攸の隣を静かに歩いた。


が朝廷に入って最初にしたことは、地図を頭に入れることだ。何か用事を頼まれても行き先が分からないと時間がかかる。時間と手間を最小限で済ますためには必要だと思っていたのだ。

しかし、ここではいままで一度もそういう仕事をしたことがないので、今回のこれが最初の役立った出来事だ。

戸部省が見えたところで、

「ご一緒させていただきましてありがとうございます、絳攸様。わたくしはこちらに用事がございますので」

と言って戸部省とは逆の方向へと足を進めた。

そんな2人の姿を木の影からほくそ笑んで見守る人物が居た。


「絳攸」

戸部省から無事に戻った親友を訪ねて藍楸瑛は絳攸の執務室を訪ねた。

部屋の主は楸瑛を一瞥した後に、何も言わずに目の前の書類に目を落とした。

「先ほど君を見かけたよ。とても美しい人と歩いていたね。君は女性嫌いと言っていたが、中々どうして。隅に置けない」

楽しそうに言う楸瑛に対して絳攸は

「貴様が思っているようなことじゃない。府庫の近くで声を掛けられたんだ。戸部省の近くに用事があるから一緒に行ってくれないかと。女官に入って間も無かったから不安だったんだろう」

と愛想無く返す。

どう見てもあの女官は道を知っていた。

何より、絳攸と別れた後少しも迷った足取りではなかった。

きっと同じところをウロウロしていた不審人物の絳攸を見かねて連れて行ってくれたのだろう。

これは、親友として是非ともお礼を言って、ついでにお近づきになりたいところだ。

「そういえば、絳攸。先ほどの女官だが」

「まだ何かあるのか!?」

「貴妃に似てなかったか?何となく、雰囲気が。君の怖い上司兼養い親から何か聞いてないかい?」

「さあな。たとえ知っていても俺に教えてはくださらないだろう」

絳攸の寂しげな返事に楸瑛は小さく溜息をついた。




お相手の絳攸が出てきました。
そして、いつものとおり、迷子中(笑)
ステキです♪


桜風
06.1.24


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