| その後、何度か府庫で絳攸や楸瑛に会った。 そのたびに少し話をして、お互い仕事に戻るという程度だが、それはそれで楽しかった。 府庫に向かう途中、は珍しい人物に会う。 上質の着物を着崩した美形。 恭しく礼をしてその人物に声を掛ける。 「主上、お久しぶりです」 「うむ。ところで、。そなたは最近入ったから知らないかもしれないが、秀麗という名の者を知っているか?」 そんなことを聞かれた。 が予想もしなかったことを聞かれて驚く。 正直に答えていいものかと悩んだが、秀麗のことを知っているということは、2人がやっと会えたということだろうとあたりをつけた。 「秀麗、さまでございますか?秀麗様は先日後宮に入られた紅貴妃様にございます」 の言葉に王は驚き、少し嬉しそうな表情をした。 その顔を見ても嬉しくなる。 王が、変わるかもしれない。 は府庫に向かう途中、足を止めた。 見事な桜に、泣きたくなる。 自分の庭院の木々は花をつけない。 そんな自宅の庭院を見て妹が泣いているのを知っている。知っているのに何も出来ない自分に苛立ちすら覚えたことがある。 は自然と歌っていた。 母が生きていたときは、妹が二胡を弾き自分が歌って両親と静蘭を喜ばせていた。 庭に花が咲いていたときのことをずっと思い出していた。 人の気配がしては振り返った。 そこには絳攸が居た。 「絳攸さ..」 名を口にする瞬間、突風が吹いて桜が舞う。 その姿に絳攸は息を飲んだ。 どういっていいか分からないが、ただ、目が離せなくなっていた。 ふと、の頬に伝う涙を見た。 それがきっかけで正気を取り戻す。 「な!何故泣いている?!」 絳攸に言われては自分の頬に触れた。初めて自分が泣いていることに気がつく。 「えーと、何故でしょう?」 「俺が知るか。と、とにかく、邵可様のところへ行くぞ!」 そう言って、の手を引いて歩き出した。 が、は進まない。 「あの..府庫はこちらです」 反対方向を指してが遠慮がちにそう告げた。 絳攸は慌てて回れ右をし、今度こそ府庫を目指す。 府庫に入ってみたものの誰も居ない。 「邵可様は、お留守か?」 絳攸は呟きながら奥の部屋を覗いてみたが、やはり誰も居なかった。 「ちょっとここで待ってろ」 そう言って絳攸が出て行った後、はぼんやり府庫の外の桜を見る。 見事に咲いた花たちに思わず顔が綻んだ。 「先ほども、それを歌っていたな」 突然声がしては驚き振り返る。 絳攸が濡れた手ぬぐいを持って戻ってきていたのだ。 「私、歌ってました?」 「ああ、さっきも桜の下で歌っていたな。これで目を冷やしておけ」 先ほど濡らしてきた手ぬぐいをに渡す。 「ありがとうございます。今度洗ってお返ししますね」 はそう言って微笑んだ。 その笑顔に絳攸は顔を赤くしてしまう。 「絳攸様?」 「いや、俺はもう戻る」 勢いよく去っていこうとした絳攸が足を止めて振り返った。 「今度、また歌を聴かせてくれるか?」 「私の歌でよろしければ」 の答えに絳攸は満足したのか、先ほどよりも優しい足取りで府庫を後にした。 「は、秀麗の姉だと聞いたぞ」 夕餉を持って王の室に行くと珍しく室に居た王に言われた。 「はい」 「も、余に政事をさせるために来たのか?」 「...わたくしの場合は、成り行きでございます」 の返事王は眉を上げた。 「成り行き?」 「はい。妹がこちらに参りますし、家人の静蘭も妹の護衛でこちらにおりますから、家にひとりで居るのは危険だと言うこととなりましたので」 「それで、成り行きか」 王が小さく笑う。 「でも、主上が政事をしてくださるのに越したことはございませんよ?」 が王にイタズラっぽく笑いかけた。 「うむ。余は、政事をすると今日決めたのだ」 今度はが王の返事に眉を上げる。 「ありがとうございます」 嬉しそうに礼を言うに劉輝は真摯な瞳を向けて口を開く。 「いや。余の方こそ、すまなかった。も、苦労をしたのだろう?声が枯れるまで弔いの為に歌を歌ったと聞いた。一度はその声を失ったと...」 「いいえ、小さな妹が生きる為に、町の人たちのために自分にできることをして走っていたのです。私はあの子には及びませんよ。日に日に細くなっていくあの子が今、こうして逞しく育ってくれたことに感謝しております。私は歌うことしか出来ませんでした。お父様や静蘭の手伝いも出来ず、ただ死んでしまった人のために歌うことしか出来ませんでした」 「秀麗は、あれ以来の歌を聴いていないと言っていた。また聴きたいと言っていたぞ」 「そう、ですか。私はあれ以来歌うのが少し怖かったんです。亡くなった人のために歌った歌。私が歌を歌うときは誰かが亡くなったときだと、そう無意識に思っていたのかもしれません。何度か秀麗にせがまれましたが歌えませんでした。でも、もう歌えるようになったと思います。ご心配をお掛けして申し訳ありません」 王は「そうか」と優しく呟いた。 |
王が政事をすると決めました。
きっと皆嬉しかったでしょうね〜。
というか、順調にヒロインと絳攸が親交を温めていますね(笑)
桜風
06.3.21
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