薄紅色の花咲く頃 5





翌日から劉輝と秀麗の勉強会が始まった。

講師は朝廷随一の才人と謳われる李絳攸。

しかし、初めて顔を合わせたとき、絳攸は青筋を立てて劉輝を睨みつけ、劉輝は冷や汗をかいていたという。


「失礼致します」

2人の勉強会には毎日必ず1回は顔を出す。

「お茶をお持ちいたしました。休憩をなさっては如何でしょう?」

の言葉に劉輝と秀麗は喜んで手を止める。

最初は絳攸が休憩に反対をしていたが、何故かその場に居た楸瑛に丸め込まれ、可愛い弟子たちに目で訴えられて折れてしまった。

以来、のお茶とお饅頭での休憩は絳攸先生の勉強会では恒例となっている。

そして、楸瑛も必ずそれにだけは出席していた。

「姉様!お手伝いします」

机の上を片付けて秀麗が嬉しそうに声を掛けてくる。

ここに居る者が秀麗とが姉妹だと知っているというのを聞いた秀麗が喜んでこの場ではを『姉』と呼ぶ。

普段の生活では秀麗は『貴妃』、は『女官』という身分の差が有るため、こうして対等に会話など出来ないし、姉妹だということも伏せているので秀麗ものことを『姉』と呼べない。

秀麗が初めて自分のことを『姉』といったとき、は秀麗を窘めたが、劉輝が「美しい姉妹愛ではないか。余は羨ましいぞ」と言って許可をしたため、秀麗も気兼ねなくを『姉』と呼んでいる。

「しかし、殿の饅頭は絶品だな」

「ありがとうございます、藍将軍」

「うむ。秀麗の饅頭も美味しいが、の饅頭もまた違う美味しさがあるな」

「恐縮です」

「でも、やっぱり私は姉様のお饅頭の方が好きだな。母様の味とそっくりだもの」

「そう?...静蘭もいらっしゃいな」

外に控えていた静蘭にが声を掛ける。

「そうよ、静蘭」

秀麗も顔を覗かせて招くが

「いえ、私は...」

と固辞する静蘭にが尚も声を掛ける。

「休憩時間の間だけだから。その後は外に出ていればいいでしょう?無くなっちゃうわよ」

静蘭もの饅頭は好物なのでその誘惑に負けて室の中に入り共にに休憩をする。

「あ!姉様。今度歌を歌ってください」

突然秀麗がねだる。

「歌?...突然ね」

「余も聴いてみたいぞ。秀麗がの歌は美しいととても褒めていた」

口の周りに粒餡をつけた劉輝も身を乗り出してねだってきた。

「ああ。アレはとてもいい歌だったな」

絳攸の言葉に秀麗と劉輝が一斉に振り返る。静蘭も意外なものを見る目で絳攸を見た。

「絳攸様、姉様の歌をお聴きになったことがあるのですか?」

「ずるいぞ、絳攸!」

「少し前に偶然聞いたんだ。粒餡がついてるぞ」

2人の抗議を煩そうに相手しながら絳攸はを見た。

「おやおや。いつの間にそういう仲になってたんだい?女性嫌いは本格的に治ったようだね」

楸瑛が楽しそうにからかう。

「そんなんじゃない!」

とムキになった絳攸が突っかかる。

「ねえ、姉様〜」

服の袖を掴まれて可愛い妹にねだられたら無碍には断れない。

「そうね。じゃあ、今度絳攸様の試験で2人とも満点を取れたら、ってことでどう?」

正直、まだ心の整理がついていない。

2人が頑張っている間に自分も覚悟を決めておこうと思ったのだ。

他人にタイミングを任せてしまう自分を少々嫌悪してしまいながらもは2人の様子を伺った。

「どちらかじゃ、ダメ?」

「だーめ。2人ともよ。じゃあ、90点。これ以上まけられないわ」

自分の作成するテストの点数を賭けに使われるのは少々納得いかないが、の事情を何となく推測できる絳攸は黙ってこの場の流れを見守る。

「分かったわ!絶対よ、姉様。2人とも90点以上ね。主上、絶対に合格しましょうね!」

「ああ、絶対の歌声を聞けるように頑張るのだ!」

「では、私はそのときご招待に預かりましょう」

楸瑛の言葉に秀麗と劉輝が

「ずるいぞ、楸瑛」

「そうですよ、藍将軍は何もしないで姉様の歌声を聴くなんて!」

と抗議をする。

「じゃあ、藍将軍は2人の試験対策の先生をなさっては如何ですか?」

の提案に嫌そうな顔をした楸瑛だが

「それはいい考えだ。楸瑛、頼むぞ」

「お願いしますね。藍将軍」

2人に先に頭を下げられては断れない。

「絳攸様。試験の問題、手を抜かないでくださいね」

「当たり前だ」

絳攸の返事を聞いて、劉輝・秀麗・楸瑛は不満の声をあげ、は楽しそうに微笑んだ。




絳攸の授業を受ける紅貴妃&主上。
厳しいけど、楽しそうですよね(笑)


桜風
06.4.1


ブラウザバックでお戻りください