薄紅色の花咲く頃 7





今朝から女官たちの間ではこの噂で持ちきりだ。

『とうとう主上と貴妃様が床を共にされた』と。


「貴妃様が、ですか?」

「うむ。余のことを名前で呼んでくれると約束をしたのだ。夫婦の溝を埋めることが出来た」

何がどうして『名前で呼ぶこと』が夫婦の溝を埋めたのか全く分からないが、この様子を見て確信した。

劉輝と秀麗の間には何もない。

初めて聞いたときは飲んでいた茶を豪快に吹き出しそうになったが、一応、その最悪な事態は避けることが出来た。

何もないだろうと思いつつも、劉輝の態度はどうも女性慣れをしている節があった。それを思うともしかして彼は男色家ではないのではなかろうか?そう思っていたは噂だと笑い飛ばせなかった。

しかし、これで漸く笑い飛ばせる。

「そうでしたか。それは宜しゅうございましたね」

は心からの笑顔を浮かべた。

「うむ。...、そなたも特別に余の名前を呼んでもいいぞ」

「とんでもございません。主上。主上は貴妃様に名前を呼んでもらって夫婦の溝を埋めようとされたのですよね?でしたら、わたくしがお名前でお呼び致しましたら主上と夫婦となってしまいますよ」

イタズラっぽく笑ってそう指摘した。

「う、それは困る。邵可に何と言えばいいのだ。いや、でも、そうだな。余が秀麗と結婚したらは余の姉にもなるのだな。うん、それはそれでいいな。邵可も静蘭も家族か。あとは、清苑兄上がいらしてくださったら...」

最後の人物の名前を聞いては驚いた。

「清苑公子、でいらっしゃいますか?」

「うむ。余に手を差し伸べてくれた優しい兄上だ」

嬉しそうに兄公子のことを話す劉輝は本当に幸せそうだ。

噂によれば末の公子だった劉輝は兄公子たちは勿論、母親にさえ顧みてもらえなかったと聞く。

そして、劉輝が思慕の念を寄せて語る第二公子の清苑公子は流罪となってしまったはずだ。

そして、その公子は...


中の庭院を歩いていると今考えていた人物を見つける。

は周りに人が居ないのを確認して声を掛けた。

「静蘭!」

お嬢様」

家人として振舞おうとしている静蘭をは軽く睨んだ。

「噂、聞いた?」

睨まれた静蘭は苦笑をして家人としての振る舞いを諦める。

「ああ。その噂で持ちきりだな」

「あら、意外に落ち着いてるわね」

こそ。可愛い妹が気にならないのか?」

「静蘭だって、妹みたいに可愛がっている大切な姫がこんな噂の的になっているのよ?」

お互い顔を見合わせて笑う。そして

「「ありえない」」

と声を揃えて言った。

「つまんないの。何でそんなに自信があるかなー?」

こそ。俺は、主上が夫婦の溝を埋めに行くと勇んで部屋を出て行かれたのを見たんだ。というか、目の前で叫びながら秀麗お嬢様の部屋に向かっていかれたのを見た。夫婦の溝を埋めるために何が必要か、主上直々に、というか独り言で仰っていたしな」

「そっか。でも、初耳よね。夫婦の溝って名前を呼び合うと埋まるのねー」

の言葉に静蘭も苦笑しながら「そうだな」と同意した。

「あ、そういえば」

は先ほどの劉輝との会話を思い出す。

「主上。秀麗と結婚したら私が姉になるのがとても嬉しいんですって」

「ほう。まあ、確かにいいな、それは」

静蘭は楽しそうに同意した。

「でね。お父様と静蘭と家族になれるのも嬉しいんですって」

「光栄な話だ」

「あとは、清苑兄上が居てくれたら、って言ってたわ」

「...欲張りなお方だ」

『清苑兄上』の言葉に静蘭は一瞬表情を硬くした。

しかし、それは本当に一瞬でもしその場に他の者が居ても、きっとその表情の変化は分からなかっただろう。

しかし、はそれが分かった。

「王は須く欲張りなんじゃない?あー。私も弟が欲しかったな。...何も、言ってあげないの?」

はちらりと静蘭を見る。

「俺は、茈静蘭だからな」

はっきりと断言した静蘭には苦笑をした。

「そっか。気が向いたら弟みたいに可愛いさみしんぼうに声を掛けてあげたら?」

静蘭の返事を聞かずには中の庭院を後にした。




紅貴妃と主上の噂は、一応心配に思うのではないかと...
でも、邵可も静蘭も心配してませんでしたよね(笑)


桜風
06.4.15


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