薄紅色の花咲く頃10





数ヶ月前、秀麗は貴妃として、は女官として朝廷にあがった。

と言っても2人にとっては割りのいい賃仕事という感覚で、秀麗の仕事は政事をしないというわがままを通している王の教育係兼根性叩きなおし係。はその補助といった感じで王付の女官として働いていた。

王が政事をするようになり、秀麗の使命も全うしたので2人は元の生活に戻った。

報酬の金千両は家の修繕、米の買い付け、薬の材料の買い貯め等々により既に使い果たし、またしても庶民派生活を送っている。

といってもやはり昔のとおりにはなれず、ある日、賃仕事が終わって家に帰ると門の目の前に大きな氷塊が放置してあり、家に入れなくなっていた。

氷がある程度解けるまではも秀麗も側に梯子を立ててそれを使って家に出入りをしていた。

全く以って間抜けである。

曼珠沙華が贈られてきた事もあった。

根が外用薬になるのでできれば根を送ってきてもらいたかった。いや、これは秀麗への贈り物だからがそう希望しても仕方がないのだが...

贈り主は『匿名希望』と書いてあった。が、誰からの贈り物かは分かる。というか、彼以外からの贈り物だったら本当に嫌がらせと判断するべきだ。

流石に、わら人形が贈られてきたときはも笑ってしまった。

「姉様!...此処まで来たら嫌がらせだわ」

「そう言わないの。一生懸命さだけは伝わってこない?」

は笑いを堪えながらそう言うが、

「どう考えても嫌がらせ以外考えられません!」

秀麗はキッパリ言い放った。

(一生懸命で可愛いと思うのにな〜...)

自国の王のことをそう思いながらは言うほど嫌がっていない妹の横顔を見てこっそり笑った。


その日は4日に1度のご馳走の日だ。


朝廷を去るときには少し感慨というものを持っていたが、こんな簡単に、しかも頻繁に顔を合わせるとなるとあの感慨も少し返還して欲しいものだ。

というのも、4日に1度は藍楸瑛と李絳攸が材料を持って夕飯を食べにやってくる。

何故そういうことになったのか分からないが、正直家計が助かっている。今年の夏は酷く暑く作物も不作のため夏野菜の値段が高騰。秀麗もも客人には家計を省みずに接待するという性格だ。

性格というよりも、母の教育の賜物であるが、何にせよ。彼らが材料を持ってきてくれているので物価の高騰が家計に響かないで済んでいる。

恐らく、静蘭が何か言ったのだろうが、ありがたいことには変わりない。

その日もは賃仕事を済ませて家に向かった。

手には籠いっぱいの夏野菜がある。

今日の仕事先で分けてもらえたのだ。

お嬢様」

静蘭の声がして振り返ると、ぐったりした鶏をぶら下げている軒が近づいてくる。

思わずはその鶏を凝視した。

(...何で、鶏が軒に?)

殿、今日もお世話になりますよ」

楸瑛が声を掛けてくる。

「こんばんは、藍将軍。こちらこそ、いつもすみません」

笑顔で挨拶し終わってまた鶏を凝視する。

「どうかしたか?この間の鶏と葱の菜が美味かったからまた食べたくてな」

軒の持ち主である絳攸が声を掛けてくる。

「こんばんは、絳攸様。この鶏って朝から吊るされていたんですか?生きてますよね?」

「そうだが?」

この猛暑の中、一日中吊るされていた鶏が何だか不憫に思えてきた。

お嬢様。それは?」

手に持っている籠を見ながら静蘭が聞いてきた。

「ああ、今日は胡蝶姐さんのところでの仕事だったから。それで、たくさんあるからって分けてもらえたの。運がいいわ〜」

「胡蝶って、妓楼の?」

「そうですよ。さすが藍将軍ですね。良くご存知だ」

『妓楼』という言葉を聞いて絳攸は頭をフル回転し始めた。そして、それは周りが見てもすぐ分かる。

「絳攸様。誤解されているかもしれませんが、私はあそこには髪結いの賃仕事をしに行ってるのですよ」

の返事を聞いて絳攸は、「ああ、そうなのか」と咳払いをしながら一言答えた。

殿も一緒に帰りませんか?」

「ああ、ついでだから乗って帰ればいい」

「ありがとうございます。でも、少し歩きたいのでこれだけ一緒に帰ってください」

そう言っては手に持っている野菜籠を絳攸に渡しててくてく歩き始めた。

「では、お先に失礼します。お嬢様」

静蘭も強く誘わず、そのまま軒を進めた。




黄金の約束に入りました。
朝から鶏を吊るしていて平気な絳攸がステキです☆


桜風
06.5.27


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