薄紅色の花咲く頃14





ある日秀麗が医務室にやって来た。

室の前を掃除しているに声を掛けてくる。

「どうしたの、秀君」

「えーと、お願いがあって来ました」

「私に出来ることかしら?それとも、他の侍医の方を呼んできましょうか?陶老子は先日お倒れになったからいらっしゃらないけど」

室に入っていこうとしたの袖を秀君が掴む。

「いえ、姉さ、じゃなかった。さんにお願いがあって来ました」

「私?何かしら??」

「夏バテに効く薬ってありますか?」

聞かれて納得した。そういえば、先ほど噂に聞いた。戸部省の施政官がまた倒れてしまったとか。

元々人数の少ない戸部省の官吏もバタバタ倒れている。

今いる施政官は黄尚書と景侍郎の2人になってしまったはずだ。

「あー、碧官吏と高官吏もお倒れになったのよね。そうかー。分かったわ。作ってお持ちしましょう」

の返事を聞いて『秀君』は嬉しそうに飛び上がり仕事があるからと駆けて行った。


秀麗の依頼の品を持っては戸部省へ向かう。

入り口で声を掛けても返事がないので取り敢えず室に入らせてもらった。

奥へ進むと人が立っていた。

「すみません」

声を掛けて見ると目の前の2人が同時に振り返る。

そこには長身で絹のような黒髪を流している全てが整いすぎている超絶美形と、人の良さそうな中年の男の人がいた。

「...もしかして、黄尚書でいらっしゃいますか?」

目の前の超絶美形に聞いてみる。

「そうだが...?」

声も甘く心地のよい響きがある。

「...ぁあ!鳳珠。仮面、仮面!!」

の態度に違和感がなかったためか、黄尚書は自分が仮面を外していたことをすっかり忘れていたようだ。

一緒に居た中年、癒し系戸部省侍郎こと景柚梨もの最初の態度を見ても何とも思わなかったが、黄尚書を確認した瞬間にやっと気がついた。

でも、後の祭りというヤツだ。

「景侍郎さま。秀君に頼まれた夏バテに効く薬です。皆さんにお分けください」

あたふたしている2人には動じることなく、先ほど調合した薬をごっそり渡す。

「それでは」と踵を返したを景侍郎が呼び止めた。

「ああ、ちょっと待って。えーと、朱さんだったね」

「はい。何でしょうか?」

は足を止めて振り返る。

「大丈夫?」

恐る恐る景侍郎が声を掛ける。

「申し訳ございません。何のことか心当たりがないのですが...」

首をかしげながら聞き返すに景侍郎が

「いや、だって黄尚書の素顔と声を聞いてるんだよ?平気なのかい?」

と聞く。

「...?はい。黄尚書の素顔を拝見すると何か起こるのですか?」

「いや、うん。君みたいな人は中々いないよ。...正直に彼の素顔をどう思う?」

全然動じないに景侍郎は興味を持った。

「柚梨」

黄尚書は好奇心を隠さない景侍郎を窘めるが

「いいじゃないですか。で、どう思います?正直に言っていいんですよ?」

はちらりと黄尚書を見上げた。今は仮面を被っているので表情が読めない。

「じゃあ、..『超絶美形』ですかね?」

「「......」」

「え?それだけ??」

次の言葉があるのかと思って数秒待っていた黄尚書と景侍郎だったが、続きが中々出てこない為に、景侍郎が確認した。

「はい。以上です」

「本当に?毎晩夢に出てきてうなされそうとか。声が耳から離れなくて夜、眠れそうにないとか。そんなのは?」

「私は化け物か」と黄尚書が抗議をするが、景侍郎はそれどころではない。

「うなされるとか眠れないとかは、今晩眠ってみないと分かりませんねぇ」

「...あの、さん。あなたはもしかして物事に動じない体質ですか?」

「いいえ。先日も自分のしでかしたことに冷や汗を掻いてしまいましたよ。アレは正直焦りました...」

しかし、今まであの黄尚書の素顔を見ていて『超絶美形』の一言で済ました人間は数少ない。

「そう、ですか...すみません、足止めをしてしまって。薬もありがとうございます。あ。黄尚書の素顔のことは...」

「誰にも言いませんよ。人の嫌がることはするなと躾けられていますから。それに、しっくり来る表現が見つかりませんし。それでは、失礼致します」

挨拶をしては戸部を去っていく。

「...彼女なんて、どうです?礼儀正しいし、あなたの顔にも圧倒されない貴重な女性だと思いますよ」

が出て行った後、景侍郎が黄尚書にそう提案する。

無言で怒る黄尚書だったが、景侍郎には何処吹く風。

景侍郎は何事もなかったかのように仕事を再開し、戻ってきた秀君に薬のお礼を言っていた。




黄尚書を見ても動じないヒロイン。
血筋ですね...


桜風
06.9.18


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