薄紅色の花咲く頃15





ある日の夜。

が邵可の部屋の室を歩いていると呼び止められた。

「何でしょう、お父様」

「うん。ちょっといいかな。だけでも知っておいた方がいいかもしれないから」

そう言って上質の料紙に書かれた文を渡してきた。

受け取ったは読みながら笑いをこらえるのに必死だった。相変わらず素直な人だ。

「あのー...確認をしますけど、これって何ですか?」

「一応、夜這い御免状のおつもりだろうね」

「ご飯を食べて秀麗の二胡を聞いて、お父様と静蘭と話をしたいって書いてありますよね。これ、いつ頂いたものですか?」

「3日前だよ。つまり、明日主上はいらっしゃるんだ。秀麗に教えたら怒りそうだからギリギリまで言わないでおこうと思っていたんだけど、流石には知っておいた方がいいかなって思って」

...確かに。

一応、おもてなしできる用意をしておいた方が良いだろう。

「あ、忘れていました。私明日は葉先生のところで賃仕事する予定ですから、帰るのが遅くなるかもしれません」

「ああ、そういえば言ってたね。無理しないようにね。まあ、秀麗も当日にお断りをするような事はしないだろうし、大丈夫だと思うよ」


翌朝、は邵可たちと一緒に墓掃除をして診療所に向かった。

葉先生の手伝いをしながら過ごしていると、黄区から人がやって来た。

葉先生に用事があるとか。

どうやら道端で倒れた少年を診てもらいたいらしい。

「しかし、わしはまだ診てやらねばならん予約の病人がおるからのお。、悪いが行ってくれるか?」

「私が、ですか?じゃあ、診てきます。もし、私の手に負えなかったら先生がいらしてくださいね」

そう言って薬箱を持って付いていくと、1つの大きな屋敷に着く。

大きさだけで言ったらの家の方が大きいが、それでも、庭院が綺麗に整っている様は見事だ。

庭師の勉強をしようかとは一瞬本気で考えたが、今はそんな場合ではないと案内についていく。

そして、案内された室に入ってその場に居たメンバーを見て驚く。

妹の秀麗に、最近家に居候をしている燕青。そして、先日の超絶美形の黄尚書。今日は何故か仮面を外している。

「姉様!?そっか。今日は葉先生のところでの賃仕事だったものね」

ヤバイ、と思った。

は一応朝廷では『朱』という偽名で通っているというのに。

燕青が一緒に居るってことは恐らく秀麗の正体はバレている。ということは、自分の姓も今明らかにしてしまったようなものだ。

「おっきい姫さん。一応、気持ちは分かるけど、そいつ診てやってくれない?」

の心境を察した燕青はにそう言って促した。

「え、ええ。そうね」

が診療するのに邪魔になってはならないからと、秀麗以外は外に出て行く。


施術室からが出てきた。

「はぁ。終わったー」

「お、お医者殿。曜春は―――曜春の容態はそれほどまでに悪いんですね!?」

「...はい?」

「お医者殿は俺を落胆させまいとそんな呑気な姿を貫かれて...ッ」

「呑気って...いえ。もう曜春くんは大丈夫なんだけど...幸い、軽度の熱中症だったし、秀麗が水分を摂らせてあげてたし」

「慰めは結構!軽度で失神までいたしますまい。男翔琳、万一の覚悟は出来ております。はっきり言ってくださいッ」

翔琳の鬼気迫る態度にはクスリと笑って、途端に真剣な目になる。

「...実はね、翔琳くん。曜春くんを助ける方法がひとつだけあるわ。でも、それはとても大変なことよ」

「何でも言ってくださいッ。地の果てまででも薬を探しに行きましょうぞッ」

「分かったわ。そこまでの覚悟があるのなら私には君を止めることは出来ない。この裏手の山に石斛という多年草の薬草が生えているの。それを生薬にして飲めば...」

「曜春の命はかろうじてつながるのだな!?今夜中に摘んでくるッ!お安いご用だ」

そう言って翔琳は風のように飛び出していった。

「今更だけど、石斛ってどんな草か知ってるのかしら?」

「大丈夫だろうよ。あいつ、ちっこい頃から峯盧山に住んでて草木には詳しいはずだ。それに、アイツの親父は生薬作りの名人だったしな」

「...石斛の生薬なら、うちにもあったはずだ。滋養強壮の薬であろう?」

「ええ、そうです。結構何処の家にもあるんですけどね。でも、何かしてた方が落ち着くでしょう?気が済むようにすれば良いですよ。でも、素直な子って楽しいなー」

は翔琳が出て行った窓を眺めながら呟いた。

「そういえば。姉様は塾の子供たちも、良くからかってるわよね。そういえば、燕青。うちに文を出してくれた?随分遅くなっちゃって...ご飯どうしよう?」

「なあ、姫さん。今日はここに泊めてもらおうぜ」

「はあ?」

「どうしたの、突然」

秀麗とはそれぞれが燕青を訝しがる。

「いや、ほら。気になるじゃん、曜春少年の容態。もう片方は弓箭みたいに飛んでったし」

「それは、そうだけど...」

秀麗は燕青の説明に納得し始めた。

「姉様、どうしよう?」

「そうね、でも夕飯を作りに帰らないと。私が曜春くんを見てるから、秀麗は帰っていいわよ。あ、帰る途中に葉先生の所に寄ってここの状況を軽く説明してあげて」

そう言って話を終わらせようとしたが、

「いや、あの。実はもう泊まって帰るって連絡入れちゃった」

「「はあ?!」」

「う、ごめん。勘弁。謝る」

平謝りな燕青にも秀麗も毒気を抜かれ、仕方が無いという気になった。

「じゃあ、すみませんが通りすがりの親切な方。ご厚意に甘えて一晩ご厄介になりますね」

そう言って秀麗は曜春が居る部屋へと帰っていった。

秀麗が部屋に入ったのを見送って、は軽く溜息をついた。

「燕青。あまり周りに迷惑をかけるようなことは...黄尚書だってお困りになるじゃない」

「え?!おっきい姫さん、この人の正体知ってたの?!」

の発言を聞いて燕青がひどく驚く。

「ええ、一度お顔を拝見したし。黄尚書、本当に申し訳ありません」

黄尚書に直っては深く頭を下げた。

「いや、こうなってはもう仕方ない。が、いつの間にそんな事になったんだ、燕青」

「え...黄尚書の許可なくそう文出しちゃったの?!」

「ま、まあ...今そうなったの。文は、まだだけど」

が驚き、それに対して燕青は申し訳なさそうに答えた。

「なぜ?」

黄尚書の質問に、燕青がまたも言いにくそうに

「邵可さんところに迷惑を掛けると俺が静蘭に殺されかねないから...」

答え、その内容を把握した黄尚書は

「...好きにしろ。ただし、私は手伝わないからな」

と言う。

「もちろん。増援最低1人来る予定ですし、ご心配なく。な、おっきい姫さん?」

同意を求められて誰が来るか察したは苦笑をしながら同意した。

「そうね。まあ、きちんと片付けてよ?秀麗の方は私が何とか誤魔化すから」

「助かるよ〜。姫さんが出てきたらやっぱり俺が静蘭に殺されちまうからな」

「殺さないわよ、静蘭は。半殺しにするくらいじゃない?じゃ、あとはしっかりね」

そう言っては秀麗の居る部屋に入っていった。

「おっきい姫さんも、イイ性格してるよな...」

の発言に呆然としながら燕青は呟いた。




ヒロイン、葉先生のところでバイトもしてます。
色んなトコロに出没しているようです(笑)


桜風
06.10.9


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