| 屋敷の主人が居る部屋に向かい、ノックをして声を掛ける。 「失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか?」 「ああ、構わない」 そう返事があり、入ると予想通り黎深が楽しそうに笑っていた。 「黎深様、こんばんは。黄尚書、お庖厨をお貸しいただきありがとうございます。私と秀麗が作りました菜をお持ちいたしました。お口に合うかどうか分かりませんが、よろしければ召し上がってください」 そう言って2人の前に先ほどくすねてきた菜を置く。 黎深は『秀麗が作った』と聞いて大変感動をし、黄尚書も驚いていた。 「また、後でお皿を下げに参りますね。失礼します」 室を出ては小さく声を上げた。 「絳攸様。驚いた...」 「あ、いや。すまん。姿が見えないから少し探したんだ」 「そうでしたか。そろそろ戻ろうかと思っています。絳攸様は?」 「ああ、戻る。秀麗が大変そうだぞ。人数が人数だし運動した後だから、皆の食べる量がこれまた凄い」 皆の食事風景を思い浮かべは苦笑する。ホントに凄そうだ。 「それは、大変ですね。絳攸様も戻らないと食べ損ねてしまいますよ?」 「そうだな」 二人が並んで戻ると、劉輝が秀麗に目を輝かせて質問をしていた。 「文、読んでくれたか?」 その会話を聞いて絳攸は隣に立っているを見た。 は苦笑しながら劉輝と秀麗を見ていたが、絳攸の視線に気づき、 「全部本当ですよ。室に藁人形が飾ってあるのって中々楽しい光景ですよ」 と答えた。 「実は、今日も贈り物を持ってきたのだ」 「ええ?」 今度はどんな奇妙な贈り物だろうとも興味を持ってその2人の遣り取りを眺めていたが、劉輝の差し出したものに絶句した。 秀麗も驚いている。 「これ...?」 「桜の枝だ。苗木は大きすぎて持ってこれなかったから、取り敢えず枝だけ先に。前に、桜が咲かなくなったと言っていたから。今日には苗木が届くと思う」 秀麗の瞳からはた、と雫が零れる。 それを見た劉輝は仰天した。 「え?!その、な、何か余は間違ったか!?」 「違うわ。ありがとう」 そう微笑んだ秀麗を見て、も目を細める。 秀麗はきっと、もう庭院を見て泣かない。 そして、またしても劉輝に唇を奪われた秀麗は劉輝に抗議をする。 というか、問答無用で殴ろうとしていた。 は苦笑をしつつも室を後にする。 家に帰って秀麗から聞いた。 官吏になるのだ、と。 今年、国試の女人受験制度を設けることになっているらしい。 まだ決定ではないが、絳攸も劉輝もそれを通すつもりで草案作りをしているという。 「そう。じゃあ、きっと国試、あるわね。あの2人がそのつもりで居るなら、必ず通されると思うわ」 もそれを聞いて嬉しく思う。 努力だけではどうしようもないことで秀麗は悲しんでいた。 でも、今度は秀麗が頑張った分だけ、結果がある。 もちろん、それに見合うだけのものが必ずついてくるとは思えないし、そんな楽観視できるものでもない。 だが、これからは道が見える。進みたい道を目指して歩くことができる。 いつも母の命日には泣きそうな顔をして墓前に立っていた秀麗がとても晴れやかな表情をしていた。 ふと、隣に立っている燕青を見上げる。 長すぎた前髪を切り、髭を剃れば20代に見える。実際26歳らしいのだが。 そんな燕青を見て秀麗は真顔で「どちら様?」と聞いたものだ。 実際、も声を聞くまで誰だか分からなかった。 「さーて。お別れだ、姫さんたち」 そう言ったのは突然だった。 「本当に行っちゃうの?父様、今日は用事があっていないのに...明日とかにすれば」 秀麗が別れを惜しむ。 「秀麗。これでお別れじゃないんだから。また、いつでも遊びにいらっしゃい。豪華じゃないけど、美味しいもの、また食べさせてあげるわ」 「そうよ。また行き倒れることがあったら、ウチの前にしなさい。あなた一人くらいなんとかなるわ。静蘭のお友達だし、いつでも歓迎するから」 秀麗の『友達』という単語に静蘭は微妙な表情をしたが、何も言わなかった。 そんな静蘭を見ては笑う。 燕青は破顔して秀麗の頭をくしゃりと撫でる。 「姫さんはほんといー娘だなぁ。元気で優しくて飯うまくて努力家だし。...姫さんがウチの上官になってきてくれたら、おもしれーんだけどなぁ」 最後の呟きは秀麗には聞こえていないようだった。 「じゃな。姫さん、おっきい姫さん。ついでに静蘭。元気でな」 そう言って燕青はふらりと去っていく。 燕青の姿が見えなくなるまで秀麗は手を振って見送っていた。 そして、その数ヵ月後。 その年に実施された国試に探花という称号で秀麗は合格した。 初の女性官吏の誕生だった。 |
黄金の約束終了。
どんどんヒロインの出番がなくなっていく気がします...
困ったなぁ〜...
桜風
06.12.31
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