薄紅色の花咲く頃18






正月を迎えて、もひとつ年を取った。

だからって何があるわけでもなく、今日も今日とて賃仕事に精を出す。

本日は葉医師の診療所の助手だ。

先日まで降っていた雪が今日は久しぶりに止んだ。それ故か診療所にやってくる者が多い。

本来なら夕飯の仕度の時間には帰宅出来ていただが、こうも患者が多いと中々帰れない。

しかも、最近は風邪を引くものが多く、薬の調合を引切り無しに行っている。

そんなこんなで、はいつもより遅い時間に家路に付いた。

そして、屋敷の秀麗の部屋の窓にへばりついている奇妙な二人組みを発見した。

ひとりは明らかに不本意そうだ。

「あの、うちに何かご用でしょうか?」

秀麗の部屋の明かりが漏れているとは言え、顔が見えない。

取り敢えず、アレだけ堂々と窓にへばりついているので泥棒ではないだろう。

というか、あの崩れかかった壁を見れば盗むものなんて殆ど無いというのは、一目瞭然で子供でも分かりそうなものだ。

!?どうした、いつもこんなに遅いのか?紅家の者を付けさせよう。こんな真っ暗な夜道を独り帰らせるなんて危険すぎる。そうしよう!」

聞き覚えのある声、黎深だ。

「黎深様?あの、遠慮させていただきます。一応、明かりの多い道を選んで帰っていますし。下町に知り合いは多いので。それよりも、凄いですね。堂々と家にいらっしゃるなんて。名乗る心の準備がおできになったんですか?」

そう言いながら近づくと黎深の側にいる人物が誰かと気付く。

「あ、黄尚書まで。こんばんは、お久しぶりです。昨年は大変お世話になりました」

がそう挨拶をすると「いや、大した事はしていない」と返してくる。

「何だね、君は。私の愛する姪にそんな冷たい声で!」

「うるさい馬鹿。これが私の普通だ」

「あの。それで今日は何のご用で...」

訪問理由を聞こうとしたとき、秀麗の部屋のドアが開き、邵可が入ってきた。

「そんなところで何をしているんだい、黎深。おや、黄尚書まで。ああ、お帰り。今日は遅かったね」

そう声を掛けてきた。

「あ、兄上!」

「ご息女のお見舞いに参りました。突然の訪問をお許しください、邵可殿」

「え!?秀麗、どうかしたの?」

「風邪をね、引いてしまったようなんだよ」

「あ、あの...あ、兄上、これは、その」

「仕様のない弟だね、黎深。でも、様子を見に来てくれてありがとう。秀麗も眠っているし、あがりなさい」

「い、いいんですか」

「真冬にそんなところにつったって、尚書二人に風邪をもらって帰られては困ってしまうよ。それに大事な弟をそんなところにほっぽっておけないだろう」

黎深の顔が輝く。

いそいそと窓をよじ登り始めた黎深を見て、邵可がわずかに眉をひそめた。

「黎深。窓から乗り込むのはちょっといただけないね」

「あ、すみなせん、嬉しくて心がはやってつい...」

「黄尚書もどうぞおあがりください」

自分だけ回り道をするのはどうかと思った黄尚書はひらりと室内へ入った。

「お父様、私は庖厨へ行って何か暖かいものを作ってきます」

「そうだね。あ、でも、今静蘭と絳攸殿と藍将軍が夕飯を作ってくれているよ」

父ののんびりとした口調に危うく聞き流すところだったが、静蘭が?

「分かりました」

は一言そう言って庖厨へ向かった。

「ただいま。やっぱり!!静蘭、お客様をこき使うなんて...」

「お帰りなさいませ。今日は遅かったですね。でも、お嬢様。藍将軍と絳攸殿はご厚意で手伝ってくださったんですよ。第一、9割は私が作りました」

庖厨の惨状を目にする。

「その割りに...」

「破壊活動は旦那様です」

は「ああ、そうなの...」と力なく返事をし、絳攸と楸瑛に向き直る。

「絳攸様、藍将軍。本当にありがとうございました。あの、私がもっと早くに帰っていればこんなことにはならなかったのですが...」

「いや、何。いい経験になったよ」

申し訳なさそうにするを安心させるように楸瑛は微笑む。

「ああ。少しくらいなら俺も役に立てたと思う」

絳攸もそれを肯定する。

「では、お嬢様。夕飯の仕度が整いましたので、旦那様を呼びに行きましょう」

そう言われて静蘭たちと共にも秀麗の部屋に向かった。


「旦那様、お食事の用意が出来ました。絳攸様と藍将軍もご一緒ですが、中に入ってもよろしいですか」

扉を叩いて静蘭が中に声を掛ける。

「良く寝ているから、先に私たちがご飯にしてしまおう」

そう言って邵可が出てきたが、ついで出てきた尚書二人に絳攸と楸瑛は驚いた。特に絳攸は黎深の姿を目にした途端思わず後ろに飛び退いた。

「な、ななななんであなたが!!ていうかどっから...!」

絳攸の疑問には秘かに全くだと頷いた。そして、いつの間にか仮面を装着している黄尚書に少なからず驚く。さすがだ...

「叔父が姪を見舞いに来て何が悪いんだね。君こそ私の知らないところで随分抜け駆けをしているそうだね、絳攸。いい度胸だ。あとで覚悟したまえ」

「......ここまで面子が集まるとなると...彼がいないのが不思議なくらいだな」

楸瑛が顎に手を当てて呟く。

「...そうですね」

「賭けようか、静蘭。あと何刻でくるか」

「いいですよ。私が勝ったら生涯妓楼立ち入り禁止ということで」

「...やっぱりやめておくことにする」

そのとき、激しく門扉を叩く音がした。

「―――師!紅師はいますかい!?」

寝台で寝ている秀麗を除く全員が門へと向かった。




お見舞いのやつです。
最初3巻に突入して書いていたのですが、
短編が間に入ることに気がついて急遽書いてます。
ええ、まだ書かないと!!
頑張ります!!!


桜風
07.2.12


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