薄紅色の花咲く頃22





あの夏の猛暑が嘘だったかのように、冬はいつもどおり凍えるような寒さだった。

秀麗は秋に行われた適正試験に合格し、国試を受けられる資格を手にした。

会試までの1ヶ月間は秀麗に思い残すことがないように試験に専念できるよう、たちは勧め、秀麗もその言葉に甘えることにした。

そのため、秀麗はアルバイト先に暇乞いをしていた。


秀麗の暇乞いも後1件となった。



は何処で秀麗ちゃんがこの店で賃仕事をしているのに気づいたのか、挨拶に来たよねぇ。『妹をよろしくお願いします』って。丁度そこに通りがかった姑女の髪結いが緩くて、気になったから結い直してくれたんだよね。それが見事で。
思わず旦那が髪結いを依頼してしまったんだったねぇ。懐かしいねぇ...
あれから2人ともよくやってくれてるよ。そういえば、まさかとは思うけど、も暇乞いなんてこと...」

起きて間もない室内着の胡蝶が、今日の賃仕事のために姮娥楼に来ていたを見つけて共に歩きながら話す。

「しませんよ。ここの賃仕事が一番割が良いんですから!」

の返事を聞いて胡蝶は笑う。

「ホント、面白い子達だね。やはりあの有名な『紅師』の娘だね」

「どう有名なのか、あえて聞かないことにしておきます」

のその一言に胡蝶は上機嫌に笑った。

「そういえば、今日も秀麗ちゃん来てるんだよね?」

「ええ、さっき帳場で算盤弾いてましたよ」

の言葉に「じゃあ、ちょっと秀麗ちゃんの顔を見てこようかね」と言いながら胡蝶が廊下を曲がる。

「では、私は後でまた来ます」

「おや、今日はずっと此処じゃないのかい?」

「他にも頼まれていますので。胡蝶妓さんの仕度の時間までに戻ってきますね」


秀麗が雪掻きをしているところにが戻ってきた。

秀麗と一緒にいる男の子に首を傾げる。

「あ、姉さま。お帰りなさい」

此処に帰ってきて『お帰りなさい』といわれるのも妙だけど、まあ、確かに。此処にはずっと昔からお世話になっているからそれなりに『家』に似た感覚を持ってしまう。

「ええ。私の仕事が終わる前にそれが終わったら先に戻っててね。まあ、そう時間が掛からないとは思うけど」

に言われて秀麗は頷き、そして、秀麗の隣の男の子は「こんにちは」と挨拶をしてきた。

「こんにちは。秀麗の姉のです」

「僕、杜影月といいます」

礼儀正しく礼をされてもそれに応える。

誰だろう...?

結局彼が何者かわからないままは姮娥楼の中へと入っていった。


「ああ、来てくれたね」

「はい。もう結ってもよろしいですか?」

「頼むよ」

そう言って無駄のない優雅な仕草で胡蝶は椅子に腰掛ける。

「胡蝶妓さん」

「なんだい」

「秀麗と一緒に居た男の子って誰ですか?見かけない顔ですよね?」

先ほど門の前で出会った杜影月と名乗った彼の顔を思い浮かべてそう聞いた。貴陽の下町で見かけたことの無い顔だ。

「ああ、あのボウヤかい?とある狂酔な客人から預かったんだよ。うちに当分泊めてくれって。けど、あのボウヤ恐縮しちまってね。秀麗ちゃんが家の方に泊めてあげるって話をしてたよ」

クスクスと笑いながら胡蝶が先ほどの遣り取りをに教えてやると

「まあ、ウチは結構『来るもの拒まず。困っている人は助けましょう』的な雰囲気ですからね。父様も何も仰らないでしょうし。けど、藍将軍のお客様か...」

ポツリと呟くの言葉に

「あたしは誰とも言ってないよ?」

と胡蝶が言い、

「ああ、いいんです。当てずっぽうですから」

は笑って答えた。

だって、この姮娥楼に男の子を数日泊めてくれと金子をぽんと渡せるお金持ちなんて限られているし、ここの常連だと聞いたことあるし。

それに、今は国試を受けに貴陽の外からやってくる受験生が沢山居るから王の側近である楸瑛も何かとそういう任務があるのではないだろうか。

現に、静蘭がしばらく暇を貰っているのだ。きっとそういうことなのだろう。


髪結いを全て済ませて姮娥楼を出ると秀麗が影月と共に立っていた。

「あら、先に戻っててって話したわよね?」

「ええ、でも。さっき終わったばかりだし。姉さまもそろそろ終わるかもしれないって思ったから」

秀麗の言葉に「そっか」と答えて3人で家へと向かう。


帰りしな、秀麗が影月の事を話す。

「でね、凄く助かっちゃったの。ねえ、影月君。計算、もの凄く早くて正確じゃないの。びっくりしたわ」

秀麗の言葉には影月を見遣る。

何だかボーっとしている感じに見えるが、秀麗があれだけ感心するという事は相当な腕前だったのだろう。

「おうちが商家とか?」

が聞いてみると

「いいえ、とんでもない。ただ、算盤に触れる機会が人より多かっただけで...」

のんびりとそう言う影月は大路を人にぶつかりながら歩いていた。

何だか誰かを彷彿とさせるな、と思いながらは彼を眺めていた。

ああ、そうか。邵可にそっくりなのだ。不器用さといい、おっとりとした性格といい。は秘かに納得していた。




ヒロインも妓楼でバイトです。
というか、こうがろうの『こう』が漢字にならない...
静蘭の苗字もだけど...
これは、画像ファイルで作って貼り付けたりして作るべきかしら??
悔しいなぁ...
(できるようになりました。色々と気に掛けてくださってありがとうございます)


桜風
07.6.26


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