薄紅色の花咲く頃 27





「―――っこのバカ三太!なんだってそんなのに加わったのよ!!」

連れてこられた王慶張の話を聞いて秀麗は激怒した。

因みに、聞き終わって秀麗が怒ることが予想できたは秀麗と適度な距離を置いている。

「う、うるぜー!」

「うるさくもなるわよ!」

ガミガミと叱られている慶張を横目に、楸瑛はこっそりとに聞く。

「...あの2人、どういう関係だい?」

劉輝としても大変気になるところだ。神妙にの言葉を待つ。

「所謂、幼馴染ですね。彼は商家の三男坊で昔から秀麗にちょっかいを掛けていて微笑ましい光景を目にしています。けど、」

言葉を区切って静蘭を見上げる。

「追い払うのにてこずりました。一度は冬の川に投げこんだりのしたんですが―――まさか、まだ周りをうろちょろしていたとは。お嬢様はご存知だったのですか?」

少し非難がましく静蘭がを見下ろす。何故、教えてくれなかったのだ、と。

「まあ、ね。時々ここの帳簿付けをしている秀麗に会いに来てたから。まあ、彼も考えたものよね。取り敢えず、ここは秀麗にとっては唯一の内緒の賃仕事だから静蘭が来ることないだろうし。涙ぐましい努力だと思わない?冬の川に放り投げられても挫けないその心。それに、教えたら、また冷たい川に投げこみそうなんだもの」

「しますよ」

の言葉に静蘭はさらりと答える。

は溜息を吐く。そして、チラリと劉輝を見れば、慶張に対してなにやら感心しているようだ。

まあ、劉輝は静蘭の黒いほうの性格を知っているのだろうと納得して見なかったことにした。

一方、秀麗は逆切れした慶張に後ろにいる男たちは何者でどういう関係ないのかと問い詰められる。

「私の知人よ」

と言いながら慶張にデコピンを食らわせるが、それでも引き下がらず彼は劉輝たちを顔だけ呼ばわりしながら秀麗の身を案じてみる。

そんな『顔だけ』呼ばわりされた楸瑛はピンと来て胡蝶に目配せをし、絳攸は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに押し黙った。

ひとり、劉輝は秀麗の事を『お前』と親しげに呼んでいる慶張にムッとして、自分は「秀麗の別れた前の旦那さん(未練あり)」と名乗りを上げようとした。

が、一番早い反応を示したのは秀麗ですかさずデコピン3連発をくらわせて叱る。

影月の路銀は故郷の人が少しずつ蓄えを削って出してくれたお金でのほほんと与えられたものではない。そんな大切なお金をふんだくるあの青巾党の手下に何故なったのか、と。

慶張は秀麗の言葉に返す言葉もなくグッと詰まる。尚も何かを言い募ろうと口を開いた秀麗に

「秀麗、もう良いでしょ。慶張くんだってちゃんと分かったわよ」

が声を掛けた。

そんな慶張に秀麗は溜息をつき、

「...そうね。罪悪感はまだ残ってるみたいで安心したわ。さ、話なさいよ」

と話すように促す。

慶張は青巾党に入るきっかけの話をした。

酒楼で飲んでいたら青巾党にとっ捕まり、金を取られた上に使えそうだということでそのまま根城に連れて行かれたという。

それを役人に言わなかった理由は、「よく働けば幹部にしてやる」という言葉があったからだとか。

秀麗は今度こそ呆れ返った。

「あんた、ごろつきの幹部になりたかったの?」

「...ハクがつくじゃんか」

「ハク!?そんなもんつけてどうするってのよ」

「強くなって、見返せる」

そう言って静蘭をちらりと見る。

それだけで、秀麗と劉輝を除くこの場にいる全員が事の次第を理解した。

「俺、イイトコのボンボンってとこしか取り柄ないじゃん?」

「よくわかってるじゃないの」

「だから、さ。好きな、女に。こう..威張れて尊敬されるようなものを持ちたかったっつーか。ついでに恋敵を、見返したかったっつーか」

この言葉で流石に鈍い劉輝も事の真相を悟った。

「はあ?何言ってんの?!」

まるで分かっていないのは本命ただひとり。

秀麗を除く皆の視線が集まった、静蘭はげんなりと眉間を押さえた。

「どこの娘が好きかは知らないけど。あんた、それかなり的外れな考えよ。少なくとも私だったら『ごろつきの幹部になったぜウハハハハすげーだろ』って即縁切るわね。ね、姉様?」

突然話を振られては一瞬怯んだが「ええ、まあ。そうね。縁切るわね」と秀麗に同意した。

「......そっか」

これは相手が悪い。誰もが慶張に同情した。

「で?ごろつきの片棒担いで強くなったわけ?恋敵、見返せそうなわけ?」

秀麗の厳しい指摘に慶張は力なく首を振った。

「でしょうね」と秀麗は言い、今の時期に青巾党なんてものに入ったことについて追求する。下手したら十把一絡げで親分衆に始末されて纏めて簀巻きにされて川にドボンなんて可能性が高い。

「親分衆?」

慶張の言葉を聞いても思わず

「慶張くん、親分衆って知らないの?」

と聞けば、慶張は頷く。

呆れと驚きを含んだ表情で胡蝶を見れば、彼女もと似たような表情をしていた。

胡蝶は慶張が大切に育てられたその環境に感心し、秀麗はそれに続いていいとこの坊にしかなれないのだからボンボン道を貫けというわけの分からない慰めをする。

「それに、取り柄がないって言ったけど、此処に知らせに来てくれるだけの勇気、ちゃんとあったじゃないの。幼馴染の言葉よ。信用しなさい」

劉輝も何やらしみじみ頷いて静蘭を相手に踏ん張れているその根性を褒める。

数拍置いて慶張はコクリと頷き、影月に謝罪する。

影月はそれを受け、そして自身の木簡の所在を確認する。

慶張の話に依れば、その大量の木簡と共に青巾党は今夜姮娥楼に引っ越してくるらしい。

だから、逃げるように忠告する慶張だったが、「好都合だ」と不敵に笑う絳攸に楸瑛が頷く。

それを見た胡蝶は嫌な顔をする。

下街の不文律を破るのか、という胡蝶に事情が変わったと話し、交渉する楸瑛。

そのふたりの会話を聞いていた秀麗がまたしても混乱する。

何だかこの胡蝶はいつもの婀娜っぽい彼女ではない。

戸惑いを隠せない秀麗に気がついた楸瑛が胡蝶を見た。彼女は仕方ないというようにひとつ頷く。

「...秀麗殿。胡蝶は『組連』の親分衆の一人で、花街の妓女を束ねる頭なんだ。組連を影で牛耳る女傑と言われている」

予想外の答えに、秀麗と影月は絶句した。

「酷い言いようだね、藍様」

娥眉を寄せた胡蝶の横で、聞こえよがしに楸瑛が囁く。

「あながち間違いじゃないさ。何しろ彼女が一声掛ければ、親分衆でも全妓楼への立ち入りを禁じられてしまうからね」

楸瑛の言葉を聞いて秀麗はを見る。

「姉様...?」

秀麗が何を聞きたいか分かっているはにこりと微笑む。

「勿論、知っていたわよ」

の言葉に秀麗はさらに驚いて暫く口が開きっぱなしになっていた。





あれ、先が見えない。
次回、..その次で会試騒動終われるかな??


桜風
07.11.23


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