| その日の朝は、皆が落ち着かなかった。 「じゃあ、父様。姉様、静蘭。行ってきます」 門の外で緊張した表情の秀麗が家族に挨拶をする。 秀麗の服装は、進士の真っ白な官服だ。今日から、出仕となる。 と言っても、まずは進士式がある。国試に合格した者たちの最初の謁見である。 「ああ、気をつけて」 「そんなに緊張しないの。きっと大丈夫よ」 「私たちも後から参ります」 邵可、、静蘭も口々に励まし、秀麗を見送った。 「お父様。秀麗、大丈夫ですよね」 「ああ、きっと大丈夫だよ」 秀麗の背が見えなくなるまで3人は門の外で見送っていた。 父たちが出仕した後、戸締りをしては出かけた。 今日の賃仕事は妓楼、姮娥楼だ。 「こんにちは」 「あら、。良く来たわね。でも、ちょっとお願いがあるの」 「はい?」 「この先、ちょっとここへは顔を出さないでくれないかい」 胡蝶にそう言われた。 「あの、何か私の仕事に不備がありましたか?」 「そうじゃないよ。はいつも完璧に、凄く綺麗に髪結いをしてくれてるよ。ただ、ちょっとがここに出入りしてたんじゃ不都合になるコトをある常連さんに頼まれてね。だから、それが済むまでは来ないでほしいんだよ。 それが終わったらちゃんと手紙を書いて改めて髪結いの依頼をするから」 「分かりました。じゃあ、今日も髪を結ったらすぐにお暇しますね」 今の持っている賃仕事で一番割りのいいものがこの姮娥楼の髪結いの仕事だ。 しかし、無期限でそれが期待できなくなる。 困ったな、と思った。秀麗が出仕を始めたから給料は3人分家に入る。けど、そんな妹の給料を期待するのはどうかと思うし、彼女の給料は彼女の蓄えで将来に備えたらいいとかも思っているのだ。 「...どうしよう」 本日は姮娥楼の仕事が終わったら別の仕事が入っている。が、こんなに早く姮娥楼を出るとは思って居なかったため、少し手持ち無沙汰になっているのだ。 本当なら、この時間を先日まで秀麗がしていた姮娥楼の仕事を手伝うことで潰そうと思っていたのに。は秀麗が姮娥楼を辞めたあとは、時々算盤も弾いていた。 仕方なく、普段お世話になっている店に行き、少しの時間だが仕事がもらえないかと営業活動に精を出すことにした。 その日の賃仕事を終えて家に帰ると秀麗が居た。驚いたことに影月まで。 「お帰りなさい、姉様」 庖厨で夕飯を作りながら秀麗が声をかけてきた。 「ごめん、遅くなったわ」 は慌てて秀麗の手伝いを始める。 「大丈夫よ、姉様」 「お邪魔してます」 庖厨で秀麗を手伝っている影月が声を掛けてくる。 「影月君、久しぶりね。もういいわよ、ごめんね。ありがとう」 そう言って影月の手にある野菜を受け取った。 「いえ。手伝いますよ」 「ああ、いいの。お客様にこんなことをさせられないって。ほら、貸して」 はそう言いながら影月を庖厨から追い出した。 「で、影月君は宿がないのね?」 「まだ詳しくは聞いてないの。けど、きっとそうよ。だって、食べられるかどうか草を見ていたんだもの」 は呆れて天を仰いだ。影月も相変わらずのようだ。 まだその場に留まっている彼に聞くと秀麗の言ったとおりだった。しかも、一文無し。 それを聞いて同じく手伝っていた静蘭が状元に出される俸禄の事を聞いたが、彼はその金全てを礼部の早馬に託して故郷に送ったらしい。 そのことを聞いて秀麗は故郷に及第の文を送ったのかと訪ねた。彼はそれを失念していたらしく、俸禄を全額送ったため料紙を買うお金もなくて出していないと言う。 「じゃあ、今日寝る前に書きなさい。後で料紙を用意するから」 「いえ、悪いですよー」 「悪くない。故郷にはあなたの知らせを待ってる人が居るんでしょう?皆さん、お金よりも手紙の方が喜ぶと思うな」 がそういうと影月は俯いて「はい」と返事をした。 「それで、今日の進士式はどうだったの?確か、藍将軍の弟さんも国試を受けらたんでしょ?」 手を動かしながらが言う。 が、その話題に触れた途端、秀麗の血圧が上がった。 国試前に予備宿舎に入った秀麗はそのときに、楸瑛の弟、藍龍蓮との交流を温めた。 “温めたと”いうよりも“迷惑被った”というほうが正しいようだ。 彼女は影月が状元でよかったと言う。あの龍蓮が状元だったらこの世の無常に絶望していたと主張していた。 麺棒で生地を叩きながら宿舎の事を話す。 「勉強しなくても良かったのねぇ」 彼女の話を聞きながらその生地に包む具材を作っているが呟いた。 「そんな一言で片付けられる相手じゃないのよ、姉様!あのね、」 さらにエスカレートして彼女は藍龍蓮のことを話し続ける。 影月が言うには“凄い人”だったらしい。中身も、外見も。 まあ、確かに。 は思った。 国試を終えた秀麗が戻ってきてすぐに龍蓮もやってきた。 的外れだったりもしたけど、はそれはそれで楽しかったと思っている。 が、秀麗はそうは思っておらず、まだ麺棒を振り下ろしながら龍蓮について語っていた。 「私『容姿が十人並みでも、貧乏で持参金がなくとも気にすることはない。そなたがいき遅れた暁にはこの私専属の庖丁として召し遣わす』って真顔で言われたときには、本気でなべに毒キノコ入れてやろうかと思ったわ。藍将軍の弟さんだから必死に我慢したけど」 「......それは、どうもありがとう。わが弟の事ながら耳が痛い」 不意に聞こえた声に麺棒を振り下ろす手を止めて秀麗が振り返った。 邵可に案内された楸瑛がばつが悪そうな顔をして口元を手で覆って立っていた。その隣で絳攸は腐れ縁の同僚に冷たい視線を送っていた。2人の手にはいつもどおりもろもろの食材がいっぱいに抱えられていた。 「あら、もういらしたんですか?少しお待ちくださいね。もうちょっとで出来ますので」 生地もいい具合に伸びている。包む具も勿論準備万端だ。 はそう言って料理を続けた。 そして、話を聞かれた秀麗はばつが悪そうに「お茶淹れますね」と声を掛けて少しその場を離れた。 |
「花は紫宮に咲く」の話に入りました。
小説では絳攸と黎深がメイン(?)ですよねー。
ヒロインの出番増やすように頑張ります!!
桜風
08.3.20
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