| 一通り秀麗の対策を話した後、は楸瑛を見る。 突然に視線を向けられた彼は少し怯んだ。 「藍将軍」と呼ばれて「何だい?」と返す。 「胡蝶妓さんに何を頼んだんですか?」 そう聞かれて言葉に詰まる。 「何故、そう思うんだい?」 「胡蝶妓さんが私に当分姮娥楼には出入りしないでくれと仰ったんです。秀麗にも。 秀麗だけなら何となく納得できます。あの子はもう官吏だし、あまりああいうところに顔を出して無意味な憶測が飛び交ってしまうと官吏としてのあの子の障害になります。 だから、あまり顔を出さないように、とか言われることもあったかもしれません。まあ、胡蝶妓さんがそんな事を気にするとは思えませんけど。あの子に対して変な噂を立てた人が居たら只では置かないと思いますし」 確かに、そうかも... 胡蝶を知っている彼らは納得する。 「しかし、胡蝶妓さんは私にも来るなと言いました。朝廷内で私が紅姓だと知っている、そして秀麗の姉だと知っている人物はごく僅かです。もしかしたら、私が此処に来ることをご存知の方で、しかも胡蝶妓さんは常連さんに頼まれたと言っていたので、藍将軍かな、と」 「参ったねぇ...」と楸瑛は洩らす。 「姮娥楼。あそこが一番割りの良い賃仕事だったんですよね。なのに...」 そう言ってもう一度楸瑛を見た。少しからかっている表情でもある。 「まあ、そうだね。確かに、殿と秀麗殿の出入りを断ってくれと頼んだのは私だよ。けど、理由までは言えないよ。すまないとは思っているけど」 は肩を竦めて「はい」と返した。官吏として、むしろきっと王の補佐としての彼の仕事だ。 「それはそうと、。珠翠が後宮の女官の部屋を用意しようかと言っていたぞ?秀麗もきっと忙しくて家に帰れないだろうし、それならきっと静蘭も泊り込むと思うのだ。邵可は、よく分からないが。泊まりのときもあるかもしれないだろう?あの家で一人は少し危なくないか?」 まあ、門番も居ないし、壁も壊れてついでに屋根も壊れているから雨漏りの心配もある。 雨漏りは、今は関係がないが。 「いいえ。気にかけてくださってありがとうございます。けど、私は家に帰ります」 は断った。 なおも心配して言い募ろうとした劉輝に 「朝廷に仕事に来る日以外は下町で賃仕事がありますから。こう見えて引っ張りだこなんですよ。秀麗が寺子屋を辞めたからご近所の要請を受けて私が引き継いでいますし」 とは続けた。 「そうか...」 「それに。一応、黎深様が気にかけてくださっています。何だったら家に泊まりに来るようにとも仰ってくださっているので。大丈夫ですよ」 心配そうな表情を浮かべる劉輝を安心させるように微笑んだ。 「わかった。でも、本当に困ったら頼るのだぞ?あと、の賃金だが。ちゃんと戸部に話は通して予算も貰っているから安心してくれ」 は笑って頷いた。 妹を守るために朝廷に招かれたのだから、別に賃金は気にしていなかったのに。 でも、貰えるというのだから貰っておこう。 既に毒を拭った布や紙切れを受け取っては医務室に向かった。 陶老師には話をつけてあるらしい。だから、成分の分析をするために一室、物置のようになっている狭い部屋をのために空けてもらっているという。 結局、あの手紙を出した主は劉輝なのだろう。道理で見たことのある筆跡だと思った。 陶老師には話をしているだろうが、彼がを宛てにするとは思えない。別にを見くびっているとかそういうのではなく、は医師の資格を持っていないのだ。よくもまあ、それなのに、と苦笑する。 「」 ウキウキしたような弾む声を掛けられた。 振り返ると扇で口元覆っている紅黎深が立っていた。 は頭を下げる。 「どうだい?あの洟垂れは無茶を言ってこなかったかい?ああ、進士式では秀麗を見たよ。可愛い、誰よりもどこの姫よりも可愛かった。勿論、も同じくらい可愛いよ。いや、は美しいというべきかな?」 は困ったように笑う。 「この時期、吏部にはたくさんの物資、というかお金から形を変えた賄賂が贈られてくるんですよね?」 「ああ、そうだよ。全く、暇で馬鹿が多いからな。そんなもん送りつけている暇があったら仕事をしろと言いたいね」 では、今のあなたは何ですか?と聞きそうになったがぐっと堪えた。 「吏部尚書様は、お忙しいのにこんなところで何をされているんですか?」 「『黎深叔父様』、だろう?私はと話がしたくてね」 「休憩時間、終わりますよ?」 「ああ、仕事はアレがする」 『アレ』とは絳攸の事だ。気の毒に、とはそっと溜息を吐いた。 「そういえば、近々本家が動くかもしれないな」 そっと扇で口元を隠して感心なさそうに黎深が言う。 「玖狼に何か嫌なことを言われたら私に言うんだよ。いいね?ああ、そうそう。これを」 そう言って扇を渡す。 「これを持っている者は、紅家の影が守るから持っていなさい。どうせ私の家にも泊まりに来る気はないのだろう?兄上は、きっと秀麗につくと思うからお前は私が守ろう。安心しなさい」 子供をあやすように頭を軽く撫でて黎深は居なくなった。 は持たされた扇をどうしたものかと悩む。 紅家の助けを借りないというのが父の信念だ。今、これを借りていると思い切り紅家の助けを受けることになる。 「相談しよ」 呟いてはとりあえず仕事をすべく大医署の室へと向かって足を進めた。 「...そういえば、せっかく後見になっているのに、まだ名乗り出られないのかしら?」 秀麗が試験するに際して正三品以上の官吏か大貴族の後ろ盾がないと受験で気ない項目があった。 「いい機会だと思うんだけどな...」 まだまだ、彼は秀麗に『叔父様』と呼んではもらえそうにないようだ。 |
黎深は秀麗にも甘いけど、ヒロインにも甘いです。
ただ、ヒロインは秀麗よりも大人と言う扱いなので...
それでもやっぱり異常だろう...
桜風
08.5.25
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