薄紅色の花咲く頃 39





随分と証拠が揃った。

は朝廷での仕事以外は下街でいつもどおりの賃仕事をこなしていたがその傍らで情報収集も行っていた。

その中で引っかかったことがあった。

仕事と仕事の合間に親分衆の一人に相談してみる。

勿論、この件は王の依頼だということも伝えて。

「そりゃ、少しばかり難しいかもな」

「でも、下街の治安に関わりありませんか。親分衆の取り締まることかとも思ったのですが」

「俺ひとりじゃ決められないな。会合を開こう」

「でも、あまり時間がないんです。明後日が秀麗たちの休養日で、きっと事が動くのはそのときだと思います」

の言葉に親分は頷く。

「今日の晩に会合を開く。まあ、最近胡蝶は顔を出せないでいるけど、たぶんどちらかといえば賛成だろう。一応文で意向を確かめておくことにする。はいつでも動けるように準備だけはしておいてくれ」

親分の言葉には頷いて次の仕事に移った。



翌日、は絳攸を探した。

中々見つからない。

仕方なく、黎深を探した。

意外と早くに見つかった。

「紅尚書」

「こーら、『黎深叔父様』だろう?」

おでこをつんと突かれた。

...反応に困る。

「失礼しました。えーと、絳攸様は今はどちらにいらっしゃるか分かりますか?」

の言葉に黎深は眉を上げた。

「絳攸、かい?」

「ええ、先ほどからお探ししているのですが中々見つからなくて」

「どこかで迷っていると思うんだがね」

はらりと扇で口元を隠しながら応える。

「絳攸に、何か用なんだね。私ではなくて」

少し拗ねるような声で言われては慌てる。このまま放っておいたら絳攸が可哀想な目に遭うかもしれない。

「お借りしたいものがあるんです。それが、絳攸様宛に贈られた物なのでご本人に確認を取らないと手に入らないんです」

黎深がそれなら仕方ない、という感じの溜息を吐く。

もその溜息で安心した。

「では、見つけたらが探していたことを話しておこう。が、あれは中々目的地に着かないからな。今日中にどうこうできるかは分からないぞ」

は一瞬絶句した。

が、どうあっても今日中に借りたいものなのだ。

「私も、時間の許す限り探してみます」

はそう言って足早にその場を去る。


「絳攸様」

やっとの思いで絳攸を見つけたのはもう日が傾いた頃だ。

「ああ、どうした。黎深様に探していると聞いた。俺も探してみたんだが...」

随分やつれた表情をしている。

「えーと、お願いがありまして」

「借りたいものがあるそうだな。何だ?」

「先日の巻物。お父様にそっくりなあの女性の」

の言葉に絳攸は眉を顰める。

「何に使うんだ?」

「お父様の方の似せ絵はありませんので。代用を...」

の言葉にさらに眉間に皺を寄せる。

はとりあえずかいつまんで説明をした。

「なるほどな。それで必要と言うわけか」

が頷くと絳攸は困ったように顔を逸らす。

「すまんが、あの巻物は楸瑛にやった」

「あれ...?」

は首をかしげる。あれは、確か絳攸に宛てて贈られたお見合いのためのそれだったのでは?

「俺には必要ないからな。楸瑛にも使い道があるんだ」

「えー、と。では藍将軍を探してみます」

「すまんな。1日無駄に使わせて」

は首を振って頭を下げた。

が、ふと絳攸を見上げてじっと見る。

「どうした?」

絳攸に聞かれてはまた首を振って「いえ、何も」と返してそのまま楸瑛を探しに行った。

暫く歩いて振り返る。

絳攸の姿はなかった。

先ほど話をした絳攸の様子が少しだけおかしいと思った。違和感を感じたが、どこに違和感があるのかまでは分からなかった。

だから、何も言えずに逃げるようにその場を去ったのだ。


「藍将軍」

「おや、殿。そんなに息を切らせて私を探してくれるとは光栄だね」

「...珠翠にまた睨まれますよ。そんなことばかり言っていると」

「はは、手厳しい。で、真面目な話。どうしたんだい?」

は先ほど絳攸に話した同じ内容を楸瑛に話す。

「なるほど。じゃあ、ちょっと一緒に来てくれるかい」

「藍将軍は、あれはいつまでに要るものですか」

「まだ大丈夫だね。そうだな、殿は明日にはカタがつくんだろう?明後日はたしか朝廷での仕事だよね。そのときに返してくれれば」

楸瑛の言葉に頷き、無事にあの巻物を借りることが出来た。




ヒロインも裏で色々と暗躍(?)中です。
ヒロインは絳攸の異変に気づきました。
親友の楸瑛が気づいたのと同じように。
ただ、原因が分かるほど絳攸の事を知らないのでひとまず楸瑛の勝ちですね。(何の勝負だ!?)


桜風
08.7.27


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