薄紅色の花咲く頃 45





邸に帰ると静蘭が居た。彼はそのまま降りたようだ。

「久しぶり。お帰りなさい」

「...ああ」

静蘭はの言葉に頷いて「ただいま」と少し照れくさそうに呟いた。お土産、と言って甘露茶を渡してくる。

ああ、茶州といえば、やはりこれだ。

「秀麗は、どうだった?」

「気に入ってたよ。昔茶州に行ったのは覚えていらっしゃらなかったようだけど」

苦笑しながら静蘭が答えた。

「そういえば、」と静蘭が声を上げる。

「今回のの夏も雨が酷かっただろう。屋根の方はどうだ?」

「ああ、直したよ。ちなみに、静蘭が手を付けられなかった北側の壁も塗りなおしたから」

そんなの言葉に彼は言葉をなくした。

「もしかして、旦那様が?」

「はは、お父様が修繕しても雨漏りは直らないでしょう?」

は軽く笑ってそういう。静蘭もそう思っていた。だから、聞いたのだ。

「じゃあ、誰が...?」

「私以外に居ると思う?」

の返答に静蘭は一瞬絶句をして、溜息を吐いた。

「俺の居場所がなくなるだろう」

少し責めるように言うが

「何言ってんの。屋根の修理や壁の修繕の必要がなくったって静蘭の居場所は此処にあるでしょう?あまりお馬鹿なことを言わないで」

は苦笑しながら言う。

「そう..だったな」と少し嬉しそうに頬を緩めて静蘭が呟いた。

「でも、何かしたいって言うんだったら」とが言い、静蘭はの言葉を聞いて溜息を吐いた。

早速家事を言い渡される。

「ね?静蘭の居場所、なくなってないでしょ?」

イタズラっぽくが言って静蘭は苦笑する。

「そうみたいだな」



「旦那様は宮城にお行きにならなくてもよろしいのですか?」

久しぶりに静蘭がお茶を入れながら邵可と話をする。に頼まれた家事は早々に済ませた。

邵可は何も心配することがないのだから、別に行く必要はないという。

静蘭は呟く。

秀麗は最初から静蘭の手を必要としていなかったのかもしれない、と。

それに対して邵可は否定せずに頷く。

「私もね、君たちがこの家に居ない間に対してそう思っていたよ。あの子は何でもやってしまう。最初から、私たちがあの子達を必要としてしていたんだよ」

少し寂しそうに目を伏せて応えた。

妻がなくなって一番に正気を取り戻したのはだ。それに続くように秀麗が顔を上げた。

最後まで顔を上げられなかったのは一家の長である邵可だった。

はそのことを何も言わなかった。

何も言わずに、邵可が顔を上げるまでずっと秀麗を守っていた。そんなの姿を見ていたから、きっと秀麗は守られるよりも守る方を望んだのだろう。


は庖厨で饅頭をせっせと作成中だった。静蘭が言うには、茶州へと向かっていたときから秀麗がの饅頭を懐かしんでいたらしい。

ならば作ってあげなければ、と現在大量生産中なのだ。

「頼もーう!」と邸の入り口から少し呂律が回ってない感じの声が聞こえる。

どこの酔っ払いだと思いながらは門に出て絶句する。

ごろつきと見間違うほどのガラの悪さ。だが、それは間違いなく羽林軍の人間達だ。

「朱殿!?」

誰かが声を上げた。

まずい、とは内心冷や汗をかく。

の事を知っている者がいたのだ。

しらばっくれるか、それとも、この近所に親戚が住んでいてよく紅州牧とは昔よく遊んだ仲だから、とか作ってみるか...

そう思っていると静蘭が出てきた。

の様子を見て色々とすぐに察した。

殿。こんなところでどうされたのですか?旦那様なら奥の室にいらっしゃいますよ」

ああ、やはり静蘭は中々気が利く。

「ありがとうございます」とは頭を下げて、羽林軍の面々にも静かに頭を下げて奥へと逃げた。

静蘭とすれ違う際「彼らは酔っ払いだからきっと覚えていないと思う」と一応安心する一言を受け取った。


「お父様」

「おや、どうしたんだい?」

少し息の上がっている娘にのんびりと邵可は問う。

「今、羽林軍の...」

「ああ、静蘭を羽林軍恒例の宴会に誘いにいらしたんだよ。今日は..帰ってこないんじゃないかな?羽林軍の宴会は凄いって聞くし」

ニコニコといつもの調子で応える父には小さく溜息を吐いた。ああ、びっくりした。

「なるほど、そういうことでしたか...」

納得して再び庖厨を目指しながら確信したことがひとつだけあった。

うん、饅頭は作りすぎだな...




ヒロイン、未だに紅家の姫ではない認識ですね。
いつかばらさなきゃとは思っています。
そのタイミングも一応、頭にあります。
取り敢えず、まだヒロインは蚊帳の外です。


桜風
08.10.26


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