薄紅色の花咲く頃 46





秀麗は今回の貴陽での最初の大仕事、朝賀を終えて帰宅する。

いい香りが邸の中から漂ってきた。

「ただいま!」

秀麗はそう言って庖厨を覗き込む。

「あら、お帰り。さすがお父様ね。時間丁度だわ」

秀麗が後どれくらいで帰ってくるかと相談したら父はそうだな、と少し考えて今頃の時間を言ったのだ。

取りあえず、それにあわせて夕飯を作成したいたのだ。

「手伝うこと、ある?」

「ないない。ほら、荷物は室に置いて来なさい。あと、お父様も呼んできて。あとは盛りつけるだけだから」

の言葉に秀麗は頷いてパタパタと駆けていった。

近くで見ると彼女の貌が変わったのがよく分かる。

「大きくなっちゃって」

少しだけ寂しそうには呟いた。


「あれ、静蘭は?」

食卓に彼の姿がないことに気づいて秀麗が父に問う。先に帰ったのに...

「ああ、静蘭なら。白大将軍のところだよ。羽林軍で新年を祝うお酒の席があるからね」

「へぇー」と珍しそうに秀麗は言葉を洩らした。

「だから、秀麗。思う存分食べてね」

食卓に並ぶ料理に喜び半分で秀麗の顔は引きつった。

きっと静蘭分も考えて姉は調理したのだろう。お皿に乗っている料理の量が半端ない。

かと言って余り日持ちしないため、今日食べないと勿体無いことになるかもしれない。

「そういえば、秀麗。ご近所さんには一応、新年の挨拶回りくらいはしたほうがいいと思うの。出来れば、胡蝶妓さんにも」

が言うと

「あ、ご近所は今家に帰るまでに一応してきたわ。明日からまたバリバリ仕事しなきゃいけないから時間が取れないかもしれないし。胡蝶妓さんは、私も会いたいんだけど、難しいかな...」

と寂しそうに秀麗が返す。

と邵可は顔を見合わせた。

「明日から朝廷内を駆けずり回るの。家に帰ってもそんなにお手伝い出来ないと思うわ。ごめんなさい、姉様」

「ああ、いいのよ。それくらい。あなたが茶州に赴任してからもう随分経つでしょう?その間ずっと私ひとりでご飯を作ってたんだから大丈夫よ。そう。じゃあ、夕飯は?」

「家には帰るから作っておいてくれると嬉しいわ。あ、だけど...」

「冷めてもそこそこ美味しいの作っておくから。ご飯だけはちゃんと食べなさいよ。仕事が忙しくてご飯食べられなくて倒れましたーって話になったら、笑われるわよ」

それから、秀麗は今日の朝賀の話を始める。久しぶりに楸瑛や絳攸の顔を見たら凄く懐かしく感じてびっくりした、とか。

絳攸に遊びに帰ってきたのか、などと思われないためにも今回の貴陽での仕事を一生懸命結果を残して終わらせる、とか。

ああいう公式の場ではなくて、また彼らを招待してご飯を食べたい、とか。

そんな事を話していた。

秀麗の話を聞きながら笑みを浮かべていたは違和感を感じた。

何か、秀麗の様子がおかしい。

確かに成長して帰ってきた。これは間違いない。

だが...


夕飯の片づけを手伝うと言い張る秀麗の言葉を断ってはひとりで片づけを済ませて少し遅い時間に自分の室に戻った。

暫くして扉を叩く音が聞こえる。

「姉様」と声を掛けられ、は扉を開けた。

「どうしたの?寝ないと...」

の言葉に秀麗は俯く。

「寝台、狭いわよ。いい加減私たちも大きくなっちゃったんだし。それでよければ、どうぞ」

がそういうと秀麗は顔を上げてぱっと笑顔を浮かべた。

「ありがとう、姉様!」

「はいはい。冷えるからね。早くお入りなさいな」

に促されて秀麗はそのまま寝台に寝転ぶ。枕は自室からちゃんと持ってきている。

久しぶりに肩を並べて寝台に横になる。

秀麗が此処に来て一緒に寝たい、と言ったからには何かあるのだろう。彼女の胸のうちに独りで抱えるには少しばかり重くて大きい何かが。

しかし、それについては聞かなかった。秀麗の事だ。言いたくなったら言うだろうし、今は自分の中で整理したいのかもしれない。

「姉様、聞かないの?」

寝たと思っていた妹がそう呟く。

「言えるようになって、そのときにまだ言いたかったら言って。まだ、時間が掛かるんでしょ?」

が返すと秀麗が擦り寄って来る。

「姉様、ありがとう。大好き」

「光栄です」

がそう返して間もなく安らかな寝息が聞こえ始める。

それにつられるようにも眠りの淵へと降りていった。




茶朔洵は本望ですよね、秀麗にずっと(?)覚えておいてもらえて。
だけど、原作で彼は一体全体どうなっているのか今気になっています。
朔洵の下りも書けたらよかったかもしれないんですけど、飽くまでヒロインはヒロインなので、
彼女のいないところに盛り上がってもらってもってのがありましたので...
朔洵ファンの皆様には申し訳なかったな、と思っています。


桜風
08.11.9


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