| 翌日、秀麗は出仕していった。 今日は一段と冷え込む。空を見上げればどんよりと重い雲が広がっている。 これは降るな、と思っているとはらりと白い花びらのような雪が舞い落ちてくる。 「こんにちは」 昼の賃仕事を終えて花街にやって来た。 どの賃仕事がお休みになっても此処の仕事だけはお休みにならない。その分、何故か頂く給金が上乗せされていては驚いたものだ。 「ああ、よく来てくれたね。外は寒かったろう?お茶を持ってくるよ、少しお待ちね」 胡蝶付の妓女がを労う。 言われたとおり、はいつも髪を結う場所に充てられている室で待っていた。 少しして温かいお茶と茶請けの甘いものを持った妓女が入ってくる。 「雪が降り始めたね。今夜もきっと冷えるよ」 「そうですね」 「秀麗ちゃん、忙しそうなんだって?胡蝶妓さん、少し寂しがっていたよ」 彼女の言葉には苦笑する。期待せずに、と言っていたがそれでもやっぱり会いたいのだろうな。 お茶を飲み、そして、順番に髪を結っていく。 胡蝶の髪を結い終わったそのとき、「ごめんください」と店先で声がした。 「まだ早いですよね?」 「そうだねぇ」 と胡蝶は顔を見合わせた。 この街の人なら花街に来るにはまだ早い時間だということくらい知っているだろうに。 「ちゃんにお客だよ」 そう言って姮娥楼の旦那が室に顔を出し、その後ろにはまだあどけなさが残る侍僮が少し顔を赤くしながら立っていた。 と胡蝶はまたも顔を見合わせた。 「あの、これを紅様にお渡しするように、と」 そう言いながら文を差し出す。 怪訝に思いながらもはそれを受け取った。 「失礼しますね」と胡蝶と旦那に断りを入れて文を読む。 「胡蝶妓さん」 文に視線を落としたまま、は彼女の名前を呼んだ。 「何だい?」 「昨日のお話、覚えていらっしゃいますか?」 『昨日のお話』と言われて一瞬何の事か悩んだ胡蝶だったが、が髪結いに来られなくなる話だと思い、「髪結いの話かい?」と確認した。 頷くに胡蝶は残念そうに溜息を吐く。 「こういうとき、本当に女の勘ってのには感心するね」 そう呟いて旦那を見上げた。 「明日からちゃんは髪結いに来られないみたいだから。代わりの髪結い、探してくれてますよね?」 胡蝶の言葉にやっぱり残念そうに旦那は頷いた。 「他の賃仕事の店にはあたしから遣いを出しておくから、心置きなく秀麗ちゃんを助けてあげなよ」 胡蝶の言葉には深く頭を下げて急いで朝廷へと向かった。 急いで登城したは半年前まで通っていた大医署を目指した。 久しぶりに見るに城内のものは声を掛けてくるが、は愛想を適当に返しながら早足に進む。 「遅くなりました」 扉を開けてそう言う。 「...あれ?」 そこに居たのは陶老師だけだった。 「あの、えーと。葉医師に呼ばれてこちらに伺ったのですが...」 「葉医師は今、庖厨所で修行中をつけてくださっているのじゃ。殿に文を送ったので、わしにここで待つようにと言われてな。わしがもっと若ければ...」 心から口惜しそうにそう呟く陶老師に首を傾げながらは「はぁ...」と曖昧に相槌を打った。 「なぜ、私がこちらに呼ばれたのでしょうか。葉医師からの文には茶州が現在危機的状況にあるから力を貸すように、と書いてあるだけで詳しいことは城で話すとあったのですが...今、伺ってもよろしいでしょうか?」 老齢の陶老師を気遣いながらもは早歩きで朝廷内を歩く。 急ぐといわれていたので本来なら陶老師を置いてでも駆けるべきだろうが、状況を知っておきたいというのが今の気持ちだ。 「ああ、そうじゃな。時間が惜しいから歩きながら話させてもらうぞ」 既にだいぶ息が上がっている陶老師に頷き、彼の言葉に慎重に耳を傾けた。 |
秀麗を助けるためにヒロイン登城です。
陶老師は元々ヒロインが紅姓なのを知っているので驚きもしません。
桜風
09.1.25
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