薄紅色の花咲く頃 59





天幕を張ってもらったその中で小休憩を取る。

は殆ど死にそうな顔をしている医師たちにお茶を配って歩いた。

自分も荷物のように早駆けの馬に乗せられたというのに、ケロリとしている。

「葉医師、お茶が入りましたよ」

そう言ってお茶を渡す。

「おお、すまんな。、秀麗譲ちゃんと髭男が何やら話しとるが、いいのか?」

内容は想像するにたやすい。

「ええ、絶対にそんなことさせませんから」

「出来るのか?ただの、紅家の長姫が...」

からかうように、試すように葉医師が言う。

「...しますよ。紅家というのは私にとってそこまで重要ではありません。私が大切に思うのは場所ではなく、人です。必要とあらば、私は紅姓を捨てますよ。
って、分かってて聞くのってもの凄く根性が悪いですよ?霄太師みたいです」

悪戯っぽく笑ったが言う。

今の今まで冷たく、触れるもの全てを傷つけかねない表情をしていた

「どっちが本物かのぉ...」

ずずっとお茶をすすりながら葉医師はつぶやいた。

その言葉は一応の耳にも届いていたが、聞こえない振りをした。

一々反応していたら面白がられるだけだから。基本的に葉医師も霄太師と『同じ』なのだから。

より性質が悪いのは、霄太師だが...


崔里関塞を茶州入りした紅州牧たちは、明日には虎林郡に到着するというところまでやってきた。

崔里関塞までも強行軍だったが、その後の行程も強行軍だった。

その強行軍の中の短い休憩時間でも医師たちは食材の元を使って練習は続けていた。

短い睡眠時間と休憩時間。

体も心も疲れているが、それでも自分たちを待つものが居る。

医師としての矜持が彼らを支えていた。

医師たちが片っ端から食材を切り分ける食材を秀麗とは調理して夕餉などをこしらえた。

少人数に絞ったとはいえ、それでも大所帯だ。

「...姉様」

「何かしら?というかお野菜が欲しいわよね...」

基本肉ばかりの菜となっている。

「じゃ、なくて...姉様は練習とか」

そう言って見上げた秀麗にはきょとんと返す。

「あなた、私がどれだけ家でご飯作ってると思ってるの?」

「...あ」

今医師たちが頑張って身につけている技術はにとって見ればそれは数年前に通過した場所だ。

「じ、じゃあ...縫うの..も......ごめんなさい」

それも練習の必要がない。

今回のことに関しては、難しい試験を受けて朝廷で働いているどの医師よりも勝っているのがだ。

手が空けばが他の医師に縫合の指導を行っている。

縫合に関しては正直、葉医師よりものほうが綺麗に仕上がるというのは葉医師のお墨付きで周知の事実となっているのだ。

「姉様って..苦手なことはないのよね?」

確認するように、少し拗ねたように秀麗が言うものだからはぷっと吹き出す。

お陰で益々秀麗の機嫌が悪くなった。

「あるに決まってるでしょ?苦手なものがないってどれだけ超人よ」

やはり笑いながら言う。

秀麗は膨れっ面のままだが、それでも興味が勝り、「ちなみに、何?」と聞いてきた。

は笑顔を浮かべて「秀麗がビィビィ泣くのは、苦手..かな?」と答える。

秀麗は少し絶句をし、「な..!今はビィビィ泣くなんてしてないじゃない!」とムキになって抗議した。

それを笑いながらかわし、「あら、そう?でも、泣けるものなら泣いてもいいのよ?苦手なだけだし、むしろ泣くのを我慢される方が辛いかもしれないわねぇ」と飄々と返す。

「私、決めたわ!」

包丁をぐっと握り締めて秀麗がに向き直る。どうでも、いいが刃先を向けるのは危険だからやめてほしい...

「何かしら?」

からかうようにが先を促した。

「私、いつか姉様をぎゃふんと言わせてみせるわ!!」

鼻息荒く秀麗が宣言する。

まさか、そんなことを思われるなんて...

はほんの少しへこみもしたが、それでもやはり笑った。

「まあ、私は当分『ぎゃふん』なんていうつもりはないから、秀麗も長生きしなさいね」

秀麗は目を丸くしてを見る。

「焦げるわよ」

秀麗の視線を受けたはそう言って鍋を指差す。

慌てて煮込みをしている鍋の中をかき混ぜた。

「姉様...?」

「あなたは生きるのがどれだけ大変で、そして、生きることがどれだけ尊いか知ってるから簡単に諦めないでしょうけど...それでも最後の最後まであがいてよ。生きる道を探して、最善の生きる道を歩んで」

自分が何を考えているのか姉にはお見通しだったようだ。

「でも、私は官吏だから...」

秀麗の言葉には頷く。

「民と自分の生きる道を探すのが官吏のお仕事。違うかしら?民が幸せなら、自分が死んでも良いなんて無責任なことはいえないわよね?」

「わかってる、わ...」

俯いて秀麗が小さな声で答えた。

「ああ、そうそう。秀麗はある程度患者の様子を見たら邪仙教の根城に行くんでしょ?私も連れてってね?」

「ダメよ!」

「紅秀麗の姉ではなく、医師の紅として、自分に出来ることがそこにあるんだもの。切開と縫合。両方とも得意だし、手が早いのは紅州牧もご存知でしょ?」

危険だから来るな、というのだったらもうすでに遅い。

秀麗もそれが分かっているため、これ以上強く反対することができなかった。




切り分けられたお肉は秀麗とヒロインががっさがっさと料理します。
どんなに大味な味付けでも疲れていると美味しいと思うんですよね。
まあ、ヒロインはともかく。秀麗は丁寧に料理していそうですけど...


桜風
09.5.24


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