薄紅色の花咲く頃 63





「あっら〜?秀麗ちゃん。私を置いてどこ行くのかな?」

翌朝早く、は城門に背を預けて立っていた。

本当は石榮村には自分と燕青、そして昨晩一緒に行くといってくれた葉医師の3人で行くつもりだった。

これ以上、姉を危険な目に合わせたくない。なにより、3日間寝ずに自分の大切な民を助けてくれたのだ。

元々、患者の経過観察などが必要で、医師がここに留まるのは悪いことではない。

「まーさーか。『これ以上、姉様を危険な目にあわせたくないわ。私の大切な茶州の民の命を助けるために、3日間寝ずに治療をしてくれてんだもの。それに、治療をした患者さんたちもまだまだ予断を許さないって言ってるからお医者様には残ってもらうべきだし。だったら、姉様に残ってもらったらいいじゃない。そうよ、石榮村には葉医師が一緒に言ってくださるって言うんだから!』とか思ってるんじゃないでしょうね?」

9割当たりだ。

気候的には寒いのに、嫌な汗が背筋を流れた。

「それに、その子たちも連れて行くのに、何で私はダメなのかしら、ねぇ?」

その子たち、といわれたシュウランとリオウは顔を見合わせた。

そして、2人は揃って秀麗を見上げる。

「...ごめんなさい」

秀麗は早々に白旗を揚げた。

こういう雰囲気になった姉には絶対に勝てない。

「よろしい」とは鷹揚に頷いた。


石榮村の手前で野営をする。石榮村に入ってから野営をするのは危険だと判断したのだ。

あの村が監視されていないとも限らない。

そんなところにのこのこと入って行き、野営なんてしたら「とっ捕まえてください」と言っているようなものだ。

こちらには武道派は燕青のみだし、小さな子供だって居る。

用心に越したことはない。


「姉様...」

「なに?」

「何で馬にも乗れるの?」

「...そうね。でも、牛にはたぶん乗れないわよ?」

あまりにも姉は得体が知れない。

虎林城からここまでは馬車に乗ってきた。

途中で燕青と交代でが御者になったのだ。

しかし、改めて思う。

こうして今まで自分が茶州の州牧として家を出るまでずっと一緒に居たはずなのに、何故こんなにも知らないことが多いのだろう。

「他に、何が出来るの?」

「逆立ち、が出来るかも...?」

完璧からかわれている。それは分かる。

「秀麗お姉ちゃん、お姉ちゃん。わたしも手伝う」

シュウランがやってきた。

「ありがとう。じゃあ、お野菜切ってくれる?」

がそういって簡単に出来ることをすぐにお願いした。

「そうだ、シュウラン」

秀麗が手を止めて彼女に声をかける。

「なあに?」

「シュウランが石榮村を出るときまでに女の子がやってこなかった?」

そういってその女の子の特徴を話す。

話を聞きながらシュウランは手を動かし、「んー、来てないよ」と答えた。

彼女が言うには、秀麗の言う香鈴という少女は石榮村を出発した時点では見ていないとか。

そして、先ほど石榮村を偵察に行った燕青も彼女の姿を見なかったと言う。

「まあ、あの村って誰も居なくなった時間があるんでしょ?シュウランちゃんたちが村を出て、今の復興事業に人がやってくるまでに数日くらいの空白の時間があるんじゃないの?その丁度空白時間に足を踏み入れてしまったんじゃないのかしら?」

「だろうな。で、山に捕まった。邪仙教はお前を生贄にしたがっていたんだろう?」

の言葉に続いてリオウが言う。

やはりそうだろう、と秀麗と燕青も頷いた。

「けど、香鈴ちゃんってそんなうかつな子なの?」

助ける人数が増えた、と燕青が言った言葉に対してが言う。

「へ?」

「全商連の荷馬車に賄いとして入ってたんでしょ?」

「そう聞いてるわ」

秀麗が頷いた。

「その判断は冷静だし、例えば..前にあなたに聞いたけど。茶州に入るときも、あの子あなたに間違われたんでしょ?」

そういえば、と秀麗は思い出す。当時の茶家当主が州牧が茶州府に入るのを阻むため、兇手を差し向けてきた。

そのとき、香鈴は影月と共に一度は捕まったのだ。その際、彼女は『紅州牧』を演じきったのだ。度胸はある。

「そういや、山から煮炊きの煙が上がってたって報告があったよな?」

燕青が声をだした。

「なにそれ?前は見なかったよー?ね、リオウ」

「......そうだな」

「ご飯は美味しい方がいいもんね、燕青?」

が言うと「おう!」と満面の笑みで燕青が請け負う。

「と、いうことは...」

「あそこで賄いさんでもしてるんでしょう。話を聞いた限りじゃ、邪仙教の構成員は病気を恐れてその教えに走った人たちが殆どでしょ?男の人が多いって聞いたわ。ごはん、美味しいの作れないわよ、きっと。うちの静蘭みたいなのって例外中の例外だもの」

秀麗はを見る。

「大切にされているかはともかく、酷い扱いも受けていないと思うわ。まあ、早く合流してあげるに越したことはないけど」

「...合流?」

リオウが眉を寄せる。

「あの子は目的あがって独りで石榮村に向かったの。その目的はまた達していないはずよ」

苦笑したはそういって秀麗に「ね?」と話を振った。

「おっきい姫さん。あんた、本当に何者?」

「紅よ、一応ね?」

秀麗はの表情を見た。

不思議な気持ちになる。

こんなすぐ傍にいるのに、触れられそうにない。そんな感覚だ。

思わず手を伸ばしての服の袖をつかんだ。

「...なに?」

「え、ううん。なんでもないわ。って、姉様!『一応』って何よ!!」

秀麗に指摘されては困ったように笑う。

「ごめん、ごめん。いろんな名前があったから」

そういって笑うに「もう!」と秀麗は頬を膨らませた。

「お姉ちゃんたち、仲が良いのね。いいなー、わたしもきょうだいがほしかったなー」

シュウランは羨ましそうに秀麗とを見上げる。

そんなことを言われて秀麗は姉を見て、その視線を受けたは肩を竦ませた。

ふと、水を汲んできた桶を傍に置いたリオウの手が目に入る。

「あ、リオウ君ちょっと待って。あかぎれに薬塗ってあげるわ。姉様の調合した薬なのよ。物凄く良く効くんだから」

秀麗は手を拭いて荷馬車に向かっていった。

「すごーい、お姉ちゃんお薬も作れるの?」

「そうね。まあ...」と歯切れ悪くは頷いた。

「さ、シュウランちゃん。お野菜切ってくれてありがとう。休んでいいわよ」

に言われてシュウランは頷き、興味があったらしく地図を見ている燕青の元へと足を向けていった。




ヒロインがまた色々と...
馬にも乗れる子です。
逆立ちだって得意です。
秀麗、また驚いた。まだ驚くこともあるでしょうねぇ...(苦笑)


桜風
09.7.26


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