| 縹家の強い力を感じるその方へは走った。 そして、ある部屋の前で秀麗の悲鳴が聞こえた。 「秀麗!」 は駆けていた。 秀麗が何故悲鳴を上げているか静蘭や燕青には分からない。呆然と彼女を見ていた。 彼らの脇をすり抜け、は秀麗の周囲に敷かれた方陣を破り、秀麗を抱きしめた。 この程度の方陣ならには脅威ではない。縹家の力に対しての耐性がない秀麗だからこそ、この方陣につかまったのだ。 目の前の男が驚愕に目を見開く。 どうして、この方陣が破られたのだろう。 この方陣で紅秀麗を手に入れられる予定だった。手に入れたら、きっと母が褒めてくれる。頭を撫でて「よくやってくれた」と微笑んでくれる。 そう信じていたのに。 「...おまえ!何者だ!!」 自分の夢が簡単に潰えた。知らない、縹家の者のような異能を持ったものではない、ただ普通の無能な人間のせいで。 掴みかからん勢いで彼はに迫った。 「やめろ」 静かに、しかし鋭い声が部屋の中のその男に向けられた。 彼は入り口を見る。 そこには彼の数少ない友人であるいとこが立っていた。リオウ。 そして、彼が持っているものを見て呆然とした。 しかし、同時に納得した。やはり、自分は要らない子だったのだ。母にとって価値のない、無能だったのだ。 それでも、やはり一縷の望みをかけて問うた。 「それは、お前がやったのか?」 しかし、彼の望みはやはり幻想だった。 「いいや。オレが見つけたときにはもうこうなっていた」 やはり、そうなのか... 手に入れられなかった。母が欲したもの。叔父以外に母が執着を見せた存在が紅秀麗だった。 彼女自身に執着を見せたわけではないのは何となく分かった。彼女の後ろにいる、その存在が母にとっては気になって仕方のないものだったのだ。好意によるものか悪意によるものかは問題ではない。母の執着を受けているその存在が羨ましかった。 もしかしたら自分にもそんな目を向けてもらえる唯一の機会だ思った。しかし、それは結局夢で幻だった。 「分かってる」 彼は言った。今の彼が唯一取ることができる、終わらせることが出来る道はそれしかなかった。 自分の死を認める。 そうすれば、今の体から魂は抜けて昇華への道を逝くことが出来る。終わらせることが出来る。 「秀麗、静蘭たちのところに行ってて」 はそっと妹に囁いた。 「姉..さま?」 不思議そうにを見上げた。彼女はじっと彼を見ていた。影月の親代わりの男の姿をした誰かを。 躊躇いがちに立ち上がり、秀麗はに言われたとおり静蘭の元へと足を向けた。 秀麗が静蘭に保護されたのを確認して立ち上がり、は男の傍へと足を向ける。 「姉様!」 「!!」 秀麗と静蘭が驚きの声を上げた。 「おっきい姫さん!何する気だ!!」 燕青も声を上げた。 は構わず彼に手を伸ばす。 「可愛そうな子ね」 優しく呟くに彼は驚き目を見開いた。 「あなたは母親に抱きしめられたことがないのでしょう?大好きな人に抱きしめられる幸せを知らないでここまで大きくなってしまったのね」 そう言っては彼を抱きしめた。 自分より大きな体。しかし、それは彼が選んだ『器』にすぎないものだ。魂は別の、自分よりも幼い少年。 母親が大好きで、でも、その母親は別の人間しか見ていない。自分を見て欲しくて手を一生懸命伸ばした挙句にこの仕打ちだ。 に抱きしめられた少年は少し躊躇ったようだったが、「寂しかった...」と小さく呟いた。 そして視線を上げると少しだけ仲が良かったいとこが少し悲しげな瞳を向けている。 「じゃあな」 彼はそう言い、さよならを言われたリオウは目を伏せた。 すぅ、と器から魂が抜けた。魂が昇華した。 ずっしりと重くなったその器をはそっと横たわらせ、影月に視線を向けた。 この器は影月と縁のある人物だ。 彼はボロボロの体だというのに駆けてきて、魂の抜けた体の顔を覗きこむ。 「堂主様...」 はそっと立ち上がってそこから離れた。 部屋の中を見渡すとそこには既にリオウの姿がなかった。 秀麗に命じられて静蘭と燕青が残った縹家の者を捕らえる。 だが、彼らは簡単に脱獄をするだろう。 は息を吐き、邪仙教による茶州の混乱がひとまず収束したことに肩を撫で下ろした。 しかし、ここから出たらまだ医師としての仕事がある。 やりがいのあることだなぁ... 色んな問題を抱えている現状から少しだけ目を逸らせたくては沢山の患者の待つ外へと向かった。 |
次で『光降る碧の大地』はおしまいかな?
まあ、これでヒロインのあれやこれやが形になりましたね。
何となくそんな気がしてたんだーっていう方もいらっしゃるでしょうけど...(汗)
桜風
09.9.27
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