薄紅色の花咲く頃 68





ゆっくりと歩きながら村へと向かう。

その途中、懐かしい気配を感じたので少し寄り道をすることにした。

木陰からその先を盗み見る。

懐かしい、と表現は出来ない。

何せ、自分の記憶には殆ど残っていない。ただ、たぶん全く変わっていないのだろう。

そして、その人物をリオウが見上げていた。

「報告、かな?」

小さく呟く。

彼はすでに見つけていたが、やはり色々と気になったのだろう。だから、リオウをつけた。

優秀な、自分の息子。

しかし、そんな感情が彼の中にあるのかは甚だ疑問だ。

いや、違うな。おそらく、今回リオウがここに来た目的は秀麗ではない。影月のほうだろう。

影月もまた、トクベツだから。

しかし、年寄りの考えていることは分からない。何でもかんでも欲しがって...

もういい加減、老い先短いんだから『無欲』というのを実践してはどうだろう。

「まだまだ若いさ」

不意に頭上から声が降ってきては慌ててそこを離れた。

「久しぶりだな、禍つ力を持つ姫」

その言葉には思わず鼻を鳴らす。

「その禍つ力を持つ者に簡単に近付くのは、軽率なのでは?」

そう思いながら周囲に気を配る。

リオウはいつの間にか去っていた。

「あの子は、お前のことを知らない」

「まあ、既に死んだ身ですから?」

おどける様には応じる。

「別に、私はお前が生きていても構わなかったんだがね」

「物凄く積極的に死んでほしいと願った人が貴方の姉上なのですがね?」

「あの人は、何を考えているのか分からない」

「それについて、貴方が思い悩まれたこともないでしょうに」

の言葉に彼はクツクツと笑う。

「しかし、お前が生きていたという事実は..中々面白い」

「貴方を楽しませるために生きているのではないのですけど...」

「...私が怖いか?禍つ力を持っているというのに」

からかうように彼が言う。

「あなた自身はさほど。寧ろ貴方に執着しているバアサンのしつこさが面倒くさいだけです。あの執念、もっとほかの事に使ったほうが世のためですよ。貴方がそういえばあの人も少しは変るでしょうに」

の言葉に目を細めた。

その余裕綽綽の表情が癇に障る。

「興味ない」

ふざけんな、とは心の中で罵倒した。

身内の命がいくら尽きようとこの男は興味を示さない。

この男の視線の先には薔薇姫しか居ない。

そして、その薔薇姫は既にこの世を去っている。執着しても仕方ないのに...

「とっととくたばったらどうですか」

「それは、あの人に言ってくれ。年功序列だ」

「どっちでもいいですよ。貴方がくたばったらあの人は貴方を追って自害してくれるでしょうし」

とことん貴方を追いかけますよ、あのバアサン、と付け加えたに彼は苦笑した。

「それは、いい加減面倒くさいな」

「はっきりそう仰ったらいいじゃないですか」

「そうだな。しかし、それを私が口にすれば..紅秀麗が今以上に狙われるぞ?」

は眉を寄せた。

「薔薇姫は滅んでいない」

そう言って彼は背を向けた。

「しかし、黒狼はとことん私のものに手を出す。全く、図々しいこと極まりない。不愉快だ」

「あの人の傍にあるものに、何ひとつ貴方のものはない」

キッパリというを面白そうに彼が振り返る。

「ではな。我が一族唯一にして最強の異能の力を持つ禍つ姫よ」

「二度と顔を見せるな」

「つれないことを言うな」という言葉を残して彼は文字通り、消えた。

「くそっ!」

は毒づき、深呼吸を3回して、気持ちを落ち着けて、今度こそ村へを戻っていった。



『光降る碧の大地』がおわり、です。
この後は少しオリジナルっぽい感じに進んでいくことになると思います。
時系列は、そのまま流れていきますけど...


桜風
09.10.11


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