薄紅色の花咲く頃 73





葉医師との話を済ませて邸に帰った。

貴陽の邸のように修繕するところのないここは少し物足りない。

暫くすると秀麗たちが帰ってきた。

「お帰り」

門まで迎え出ると秀麗は満面の笑みで「ただいま」と返す。

一緒に出て行った影月たちも口々に「ただいま」を口にした。

「決めたのか」とすれ違いざまに龍蓮に呟かれた。

しかし、それは秀麗たちの耳には入らない。入っても、茶州に残ることだと言える。

「ま、遅かれ早かれ...」

龍蓮の背中を見送りながらは呟いた。


夕飯の下ごしらえまでは済ませてあった。

そのため、秀麗たちが帰ってくればあとは調理のみという状態で、あまり彼女たちを待たせることはなく食事を始めることができた。

「あれ?そういえば、明日の食材は?今日は食材調達も兼ねてたんじゃなかったっけ?」

先ほど戻ってきた秀麗たちの荷物はこの邸を出てきたときと全く変わらない。

「明日の朝届くの。でも、凄いのよ、姉様」

そう言って秀麗は目を輝かせて今日の出来事を話す。

は秀麗の話に相槌を打ち、驚き、感心しながら聞いた。

「あ、お土産があるの」

そう言って見せたのは重箱にぎっしりと詰まった福寿草だ。

「あら、福寿草。めでたいわねぇ」

の言葉に秀麗が頷く。

「明日、机に飾ろうと思って香鈴と一緒に摘んできたの」

「それはいい考えだわ。明日が楽しみね」

の言葉にその場に居た全員が満面の笑みで頷いた。


夕飯の片付けは自分たちがするといって秀麗たちに任せる。

縁側に座って空を見上げていると「隣、いいですかー」と声を掛けられ「どうぞー」と返した。

「ずっと言いそびれていました。ありがとうございました」

「こちらこそ」

の言葉に、隣に座った影月は首を傾げる。

「命を多く助けられたのは、医師を目指してその知識を持って指示を出していた杜州牧のお陰でしたから。あなたが居たから、より多くの命が助けられたの。ありがとう」

「それが僕の仕事で望みですから」

にこりと微笑んで影月が返す。

「秀麗さんから聞きました。さんは、結局どうするんですか?」

「櫂州牧がいいと仰ってくだされば、残りたいとは思ってるんだけど...どうかしら?」

「たぶん、大丈夫だと思います。寧ろ、その方が助かるというか...えっと、じゃあ葉医師はどうされるのでしょうか?」

影月の言葉に、は大仰に溜息を吐いた。

「ああ、やっぱり若輩者の私よりも経験豊かな名医がいいのよねぇ...」

「い、いえ!そうじゃなくて。えーと...」

影月が慌てて言葉を捜しているとヒョロ〜と笛の音が聞こえてきた。

知らず笑みがこぼれる。困っている影月に龍蓮が何かちょっと違う助け舟を寄越したのだ。

「冗談よ。葉医師を頼りにしている患者さんは貴陽にたくさん居るから。こっちはまだそういったお医者様ではないから、帰ってくださいってお願いしたの」

寧ろ、押し付けたというのが正しいだろうが...

そう思いながら、あの葉医師の苦虫を噛み潰した表情を思い出して思わず噴出しそうになった。

「...影月くん。これ、ちょっと匂ってみて?」

懐に入れて、慎重に包んでいたそれを開く。

「お香、ですか?」

そういいながら影月は鼻を近づけた。

「どう?」

「桜の、匂いですか?凄いですね、こんな忠実に再現するなんて!!」

ああ、やっぱりそうか。

は納得してそれをまた慎重に包んで懐に仕舞う。

これは試作中の試作だ。まだ、効力はたいしたことはないが、効くようならそれが多少なりとも現れるくらいには作っていた。

「それ、どうするんですか?」

「まだ試作。秀麗には内緒よ?いつか、あの子に贈ろうと思ってるんだから」

大嘘ではないが、ちょっと違う。

の言葉に影月は嬉しそうに頷いた。その表情を見ての良心がチクリと痛む。

杜影月、恐るべし!!




まだかろうじて(?)原作沿いというか...
影月君の純粋な笑顔は、色々策謀をめぐらしている人が見たら何か、こう..痛いような気がします。
素直でいい子なんですよねー...


桜風
09.12.27


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