薄紅色の花咲く頃 77





あれから数日後、の予想通り茶州府から調査依頼があった。

普段から薬草を摘みに行く以外では引きこもり生活を送っているは、こういうことがないと街まで出かけない。

とはいえ、先日、文の返事を持って琥l城の城下の全商連へと向かった。

その際、ちょうど居た柴彰に軽く小言を言われた。

どうやら、またあの人から大量に文が届いていたそうだ。

「持って行きましょうか?」

「危ないからいいですよ。一応、このお返事で毎日送ってくるのは勘弁してくださいってお願いしてはいるんですけど...」

申し訳なさそうにが言い、柴彰も仕方ない、といった風に溜息をついた。

「まあ、高い料金を払って送ってくださっているから上客、といえばそうなんですけどね」

「限度がありますよねぇ」

柴彰が飲んだ言葉をが言い、彼は少し躊躇って頷いた。

「ところで、あの話は前向きに検討していただけましたか?」

ふいに商人の目をして柴彰が問うてくる。

「いやー、どう前向きに検討してもムリです」

笑顔でさらりと断り、はそのまま琥l城へと向かった。

貴陽に居たときからの調合した薬は人気を博していた。

良く効くという噂を耳にした柴彰がこうして何度かに全商連での取り扱いを申し出ている。

しかし、はそれを是としない。

理由は色々あるのだが、何よりも、全商連で取り扱うようになれば貧困層がそれを手に入れにくくなると思ったのだ。

そうならないようにする、と柴彰も言っていたが、かといって全商連へ納入する薬とそれ以外の薬に差を持たせれば結局同じことになるし、だったらタダ同然で必要な人に配ればいい、とは思っている。

何せ、材料費は殆ど掛かっていないのだから。


琥l城の門番はの顔を見るなり奥へと通してくれた。

担当官に話を聞き、影月に伝言を残しては出立した。

街から離れると人影が立っている。

「何で分かるの?」

「まあ、ね」

そう言って彼は傍の木に繋いでおいた馬に跨った。

「それで、今度は?」

が地名を言うと「じゃあ、こちらの方が近い」と言って街道から外れた。


2回目の派遣のとき、は懐かしくて少し道を外れた。

その際、盗賊に囲まれてしまったのだ。

多勢に無勢。力を使うのもはばかれ、さてどうしたものかと思案しているとその盗賊たちがバッタバッタと切り倒されていく。

ただし、致命傷にならない程度に。

突然現れた青年には首を傾げ、「ありがとうございます、でいいのかしら?」と声を掛けた。

「そうだね、それで正解だと思うよ」

彼はそう言ってと艶然とした。

は目の前に倒れている盗賊たちの応急手当を済ませてその場を去る。

何故か彼はついてきた。

「お名前、伺えるかしら?」

「琳千夜、と応えたらどうする?」

からかうように彼が言う。

「茶、で始まる名前なんでしょ?ほら、さっさと答えて」

半眼になって返すに彼は興味深そうに目を細めた。

「じゃあ、朔って名乗っておくよ」

「では、朔殿。先ほどは助かりました、ありがとうございます。しかも、彼らを殺さないでもらえたことにも感謝申し上げます」

彼は満足したように笑う。

「どちらへ?」

朔はに行き先を問う。

彼女の答えた土地は、とても小さくて土地が荒れている村だった。人々の生活ももちろん豊かではなく、生活が豊かではないと心も豊かではない。

「危険だよ」

「たぶん、大丈夫」

「では、私を護衛に雇ってみてはどうかな?」

「『雇われる』ってのに慣れてない人を雇うってのも、ねぇ?私も雇いなれていないのよ」

苦笑してが言った。

「ああ、そんな感じだね。報酬は金ではなく、物で。貴女と行動する際、私に掛かる費用の負担をお願いしたいな。それ以外は、特に望まないけど、どうかな?」

はついと目を眇めた。

「秀麗の知り合いね?」

彼女の言葉に朔は眉を上げた。

「何故?」

「におい、かしら?あの子と居ると多かれ少なかれ影響は受けるものよ」

その返答に、彼の表情が和らぐ。

「そう、かもしれない。州牧の任を解されたと聞いた」

「ま、色々やらかしたみたいだし。『紅』だから仕方ないのよ」

「宮仕えというのは...」

溜息混じりに彼が言う。

「あの子の望んだ場所よ。正直、懐事情に余裕はないの。贅沢は出来ないけど、それでよければ護衛としてついてもらいたいかもね。馬術、得意そうだし。人を殺さずに退けられるだけの力もあるし」

ちょっとからかって言ってみただけでもあった。そうなっても面白そうだからいいけど。

「では、契約成立ということで」

「あ、あとひとつ条件。いいかしら?」

「先ほどの成立した契約の破棄が可能なら」

朔の言葉には「もちろん」と頷く。

「たぶん、1年もしないうちにわたしは忽然と消えるわ。人々の記憶には一切残らない存在として。そのとき、貴方が私を覚えていても忘れてくれるかしら?」

「あまり、執着あのある性格ではないから可能だよ」

「では、改めて成立」

はそう言って微笑み、手を差し出した。

朔は少し躊躇ったようだったが、彼女の手をとり、握手をする。

ひんやりとした自分の手とは対照的な暖かなの手に目を細める。

かの少女の手。とても優しく、美しい音を奏でるそれに憧れた少し前の自分を思い出して彼は苦笑を漏らした。




えーと、彼が大活躍(?)だったときにすっ飛ばしておいてアレですが..彼です。
うん、原作から随分と離れたところにきてしまいましたが、目を瞑っていただけたらと思います。


桜風
10.2.28


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