薄紅色の花咲く頃 81





ふと、何かを感じた。違和感、いや..動いた。

は小屋の外に出て空を見上げる。満天の星空。その中で必要な情報を探す。

やはり、星が動いたようだ。

「よお、おっきい姫さん」

不意に声をかけられては振り返る。

頬に傷のある文官。

「あら?」

微笑んで彼を迎え入れた。

「どうしたの?」

「んー、貴陽に行くから。挨拶しとかないとって思って。あと、これでなんか作って」

そう言って掲げたのは鶏だった。

「いいわよ。そうかー、櫂瑜様と影月君。とても頑張ったのね」

「いやいや、俺。ね?おっきい姫さん。俺が頑張ったの」

主張する燕青の言葉を黙殺してもう一度しみじみと「櫂瑜様、影月君。本当に...」と言う。

燕青は苦笑して「まあ、それもあるけど...」と認めた。

「じゃあ、燕青のほうが秀麗との再会が早いのね」

「おう。何かある?伝言とか」

そういわれて少しは躊躇った。だが、首を横に振る。

「いい」

「遠慮しなくて良いんだぜ?」

「遠慮じゃないの。秀麗は、今猛烈に忙しい中にいると思うの。あの子は忙しくない場所にはいられない。...そうでしょう?」

の言葉に燕青は俯いた。

「ま、元気でやってるみたいだから安心してるけど。それに、燕青が中央に行くんだったらもっと安心。秀麗のこと、頼んでいいのかしら?」

「当分は自分のことに精一杯だろうけど」と燕青が返した。でも、きっと秀麗を助けてくれる。彼はそういう人だ。

「しかし、おっきい姫さんの菜も食い収めかぁ...」

「貴陽だったら秀麗のご飯食べられるじゃない」

「姫さんが菜出来るくらいの時間があれば、だけどなー」

言われてみて、そうかと納得した。

「じゃあ、静蘭。たぶん、作ってるんじゃないかな?」

「何か盛られそう」

笑って言う燕青にも笑う。

「あ、そういえば。この間の..ちゃんと渡したから」

『この間の』で彼は何をか理解して少し照れくさそうに表情を変えた。

「銀次郎..くん?さん??も元気だったよ」

「そっか」と燕青は安心した表情を浮かべた。

そして、とても大事なことを忘れていた。

「伝言。『体には気をつけて。貴方の目指す道を、迷わず進むように』って」

報告に庁舎に何度か行ったが、彼も忙しかったようなので声をかけづらかったのだ。危うくこの伝言がなかったことになるところだった。

燕青は目を細めて「ん」と短く声を出した。


食事を終えて満足したのか燕青はぺたりと卓に頬をつけた。

「なあ、おっきい姫さん」

「何?」片づけをしながら振り返ることなくが返事をする。

「俺に隠してること、ある?」

「あるよ。たくさん」

あっさり肯定した上に『たくさん』ときた。

「でも、秘密」

詳しく聞いてみようと思ったらその矢先に釘を刺された。

「...静蘭が心配してたぜ?」

「心配性だからね。あ、静蘭に伝言お願い。『はげるよ?』って」

笑いながらが言う。

そんな伝言できるかよ、と心の中で燕青は毒づいた。

「俺って結構勘、良いほうなんだよな」

「そんな感じね。野生の勘と言うか...翔琳くんたちと同じ属性ね」

笑いながらが言う。

これは今色々と聞き出そうと躍起になってもムリだと判断した燕青は溜息をつく。

「また飲もうな、おっきい姫さん。次は姫さんも一緒に」

は振り返って苦笑した。とても困ったように笑う。

「そうね。でも、燕青弱いもの。面白くないわ」

「あのなぁ、俺はどっちかといえば強い方だぜ?それ以上に強いおっきい姫さんの方が間違ってるの」

「秀麗もたぶん強いわよ?秀麗の場合は、血ね」

「おっきい姫さんは違うのか?賃仕事で??」

「どういう賃仕事してたと思ってるのよ。ま、これも秘密のひとつってことで」

そういってはカラカラと笑った。

仕方ないな、といった風に燕青も笑う。

いつもはこんな街外れのこの小ぢんまりした小屋で独りの生活をしているから笑うことがない。だから、誰かが訪ねて来てくれると少し嬉しい。

ふっとの表情が翳った。

「おっきい姫さん」

「なに?」

それに目ざとく気づいた燕青が声をかけ、も慌てて返事をする。

「おっきい姫さんが何を思って何を隠してるかはわかんねぇ。けど。俺はまたおっきい姫さんの旨い飯食いたい。一緒に酒を呑んで、さっきみたいに笑って。静蘭も一緒に。だからな。たくさんの秘密とか正直どうでも良いんだ。おっきい姫さん。俺は今まで一所懸命生きてきたと思う。肩の力は抜いても手は抜いたつもりはない。今回も貴陽に行って頑張るつもりだ。
今のおっきい姫さんは約束とか絶対にしそうにないと思う。でもさ、やっぱりここでさよならなんて寂しいだろう?俺とおっきい姫さんの仲だ。だから、次会ったとき。もしかしたら俺がおっきい姫さんだって気づかないことがあるかもしれないから、そんときは、また改めましてヨロシクってことで、杯、交わしてくれよな」

何処まで知っているのか...

燕青のこれは『洞察力』と言うよりは『野性の勘』だなとは感心した。

「気が向いたらね」

「おう!それでいいよ。おっきい姫さんは絶対に気が向くと思うし」

ニカッと笑って燕青は頷いて立ち上がる。

「んじゃ、俺もそろそろ帰るわ」

「ええ、気をつけて..って言っても。強いもんね」

の言葉に燕青は笑いながら力瘤を作って見せた。

「んじゃ、またな。

不意に名前を呼ばれては目を丸くし、1拍遅れて「そうね、縁があれば」と返した。




燕青が中央へ行きます。
なので、ヒロインともさようならです。
そして、ここから縹家編ってことにさせていただきます。


桜風
10.4.25


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