薄紅色の花咲く頃 82





燕青が訪ねてきた日からは少しずつ身の回りを綺麗にしていた。

出て行くときは綺麗さっぱり何も残すつもりがなかったから、少しずつ処分していく。

『紅』宛てに送られてきた文も。食べ物の贈り物は有難く頂いて、物はどうしたものかと悩んで仕方なく伝を頼ることにした。

「妾は便利屋ではないのだが?」

不機嫌にそういわれては首を竦める。

だってこの茶州で頼めるといったら彼女しかないのだ。

「それで?これらを妾にどうしろというのじゃ?」

「どうしましょう?とりあえず『紅』がいなくなったら贈り主の記憶がなくなるのでそれまで預かっていただきたいというのが正直なところです。あとは、贈り主の関係者にそっと返そうかと思っておりますので」

「片付けがはかどらない、ということかえ?」

は頷いた。

「まったく、物置ではないというに...」

「そんなに長い間置かせていただくことになりませんから」

の言葉に英姫はついと目を眇めた。

「何故態々面倒なことをするのじゃ?あそこはもう..諦めても良いはず」

は肩を竦めた。

「いや、せっかく縹家一の占者が口にした予言なので。その未来を実現してあげようかな、と思って...」

「そやつはもう死んでおる」

「知ってます」

の言葉に英姫は溜息を吐いた。

「春姫を呼ぶ。待っておれ」

「お気遣い、感謝いたします」

恭しく頭を垂れるに英姫はまた大きく溜息を吐いた。

暫くして春姫がやってきた。

の姿に彼女は喜ぶ。喜ぶが、少し様子がいつもと違うことに気が付いて戸惑っているようだ。

「ほれ、春姫にも話すといい」

物凄く適当に英姫が言い、は苦笑して頷いた。

「春姫様」

「はい」

緊張した声で春姫が返事をした。

「近々、『紅』はいなくなります」

その言葉に春姫は目を丸くして、そして首を傾げる。

「貴陽にお帰りになるのですか?」

「もっと昔に帰ります」

春姫はわからない、といった表情を浮かべて英姫に視線を向けた。

しかし、英姫は応えてくれそうにない。

「春姫様。あなたは縹家の血を引かれる。だからおそらく私のまじないは効かないと思います。だから、お願いがあります」

「おまじない?」

「『紅』。そう遠くない未来にその存在はこの世界から消えます。だから、忘れてください。周囲の人たちが『紅』を忘れたら、ご一緒に」

の物言いでは、この彩雲国全ての人の記憶を消すといっているようだ。

もう一度英姫を見た。彼女は静かに頷く。

「どうして...」

「私は、縹家の血を濃く引く者です。父親殺しの予言を受けた、縹家で最も忌み嫌われた異能の持ち主。呪われた姫です」

『縹家』を口にした途端、彼女の纏う空気が冷えた。『紅』が春ののどかな日差しとするならば、縹家の彼女は刺すような冬の風だ。

春姫の喉がコクリとつばを飲む音を立てた。

「と、いうわけで。その予言にしたがってみようかなと思いまして」

再びに戻った。

「すみません、驚かれましたよね」

微笑むに春姫は逆におびえる。

「春姫、下がりなさい」

英姫に言われて春姫は逃げるように室を後にした。

「何故あんなに怯えさせる」と非難されてはぺろりと舌を出した。

「いちばん分かり易いかと思いまして」

「分かり易すぎるわ!」

英姫の言葉には笑った。

「では、申し訳ありませんが当分荷物を置かせてくださいね」

英姫の返事を聞く前にはその室を後にして、そのまま街外れの自分の小屋に向かった。




ヒロイン、本性(?)をちらりと...
色々と動き始めています。
原作に沿うことが少なくなりますが、お付き合いいただけると幸いです。


桜風
10.5.2


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