| 縹家に向かって足を進める。 急ぐべきか、それとも慎重に向かうべきか... は悩んでいた。 たぶん、あのバアサンの嫌がらせは続いているはずだし、と。 ガサリ、と落ち葉を踏む音が耳に届く。 迅が一歩前に出た。珠翠がを庇うように傍による。 は自分の視界に入った人物を見て溜息を吐いた。 「あなたと言う人は...」 彼はニコリと微笑んだ 「初めまして」 彼の一言に「コノヤロ」とは呟く。 「何か?」 が答える。とりあえず、知り合いのようなので警戒しつつもを背に庇っていた迅は一歩引いて彼女が彼と話しやすいように場所を譲った。 「私を雇わないかい?用心棒、といったところかな?」 「何を?!」と声を上げたのは珠翠だ。目の前の男は怪しいことこの上ない。 「条件は?」 「金に興味は無い。そうだな、一緒に行動をする間はそちら持ちで出して欲しい」 彼の言葉に迅と珠翠は目を丸くした。 「そんな贅沢できる旅ではないの。それに、ちょっと危ないのよね」 「『ちょっと』かよ」と迅が呟くがそれに関しては黙殺した。 「別に構わないよ。私は暇だし。どうだろう?」 は嘆息つく。 「ホントに...というか、何でここに居るのかしらね」小さく呟き、「名前は?」と聞いた。 「名前を聞くときはそちらか名乗るものじゃないかな?」 歌うように彼が返した。珠翠がたしなめようと口を開いたが声を出す前に「それは、失礼」とが応える。 「ごめんなさい。名前は無いの。だから、『』と便宜上名乗らせてもらってるわ」 の言葉に彼はクスクスと笑う。 「よく似合う名前だね。私は、朔だよ。さて、先ほどの条件でどうかな?」 は目を眇めた。 「面倒事、嫌いじゃないの?」 「退屈な日常よりはマシって最近思い始めたんだよ」 悠然と微笑んで朔がいう。 「腕はどうなの?」 「とても立つと思うよ?」 は肩を竦めて頷いた。 「では、契約成立かしらね」 そう言って手を差し出した。彼は鷹揚に頷いてその手を握った。 「様?!」 「知り合いかよ、姫さん」 「ま、『初めまして』なんだけどね」 と頷きながらが返す。 の言葉に迅と珠翠は顔を見合わせた。なんだか良く分からない。 そんな様子を見て朔は猫のように笑った。 暫く徒歩での移動だ。というか、徒歩以外ありえない。 「足が疲れた」 「じゃあ、ここでさよならね」 文句を言う朔にがつれなく返す。 このやり取りは1日に3回くらいはある。だから、迅も珠翠も特に気に留めなくなった。最初は朔のそんな我侭に珠翠は目を吊り上げていたが、がそうやってさらりと返し、それに対して朔は少し楽しそうな表情を浮かべているのでなんだか一々気にするのが面倒になってきたのだ。 「んで、姫さん。これからどうするんだ?」 そういわれては「うーん」と腕を組む。 「ちょっと進むのゆっくりにしたいんだけど」 「これ以上か?!」 迅が声を上げたのには訳がある。ここ数日縹家からの刺客が増えてきているのだ。こうなったらとっとと突っ込んでいった方が良い。向こうにはこちらの行動はどうやら丸分かりのようなのだから。 「うん。それでも、ちょっと時間頂戴」 「様...」 珠翠も迅に賛成なのだ。だから、がこうやって時間を取ろうとしている理由が分からない。 「ごめん、ホント。でも、ちょっと貴陽に忘れ物してるのよ」 「は?!今から戻るってのか??!!」 迅が声を上げる。そんなことできるわけが無い。 「ううん。えーと...」 どう説明したものか、とは悩んだ。 「まあ、良いんじゃない?心残りがあると中々成仏できないよ?」 朔が何気なく賛成した。 「成仏って!」 その単語に反応したのは珠翠で今から死にに行くみたいで縁起が悪いと懇々と説教を初めた。 朔を見れば聞き流しているのがその表情を見れば分かる。 「どれくらい足踏みするんだ?」 迅が諦めたように聞いてきた。 「長くはかからない。昼間は勿論、今までどおりに歩く。夜は休憩させて」 の言葉に大きく溜息を吐いて、「おい、アンタ。どうする」と珠翠に意見を求める。 「様がそう仰るなら」と珠翠は渋々同意した。 「ありがとう」とは礼を口にし、貴陽のある方角を見た。 「嫌な置き土産して...」 その呟きは駆け抜けた風がかき消した。 |
えーと。あれだ。
『黎明に琥珀はきらめく』の部分に突入です。
ほら、ね?絳攸が(むにゃむにゃ...)
お付き合いよろしくです。
桜風
10.6.13
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