| 「大丈夫かな?」 歌うように少し楽しそうに朔が目を開けたに声をかけた。 「ま、ちょっと辛いけど」 そう言っては伸びをした。 「様、これを続けられるつもりですか?」 「うん。大丈夫だから」 何事もないかのようには頷いた。 珠翠たちがこの話を聞いたのは昨晩だった。 野営を敷いて寝る場所を確保した。火の番はどうする、という話をしたら「私がするよ」と朔が言う。 「順番だろう」と迅が言うと「私は寝なくても良い体だから」と朔が言う。 眉間に皺を寄せる迅に対して、珠翠は納得の表情だ。 「どういうことだ?」 「この人、たぶん、半分死んでいるんです」 驚いて迅は朔を見た。彼はやはり猫のように笑う。 を見ると「そのようね」と彼女も頷く。 「一体どういうことだよ」と呟いたが、もう良いやと思った。 「んで、姫さん。アンタは何でトロトロ向かいたいんだ?一気にカタを着けたほうが楽だと思うぜ?」 「うん、それはそうだと思う。でもね、縹瑠花がちょっと..ね」と言って今貴陽で起こっていることを口にした。 「で?どうしようもないだろう」 「私ならどうにかできるのよ。と、言っても根本的な解決にはならないけどね」 「危険です!」 すぐに反応をしたのは珠翠だ。がしようとしているそれが分かったのだ。 「どういうことだ?」 迅が聞く。朔は特に興味を持っていない。がしようとしているその目的だけに興味があって、方法はどうでもいいのだ。とりあえず、面白そうだと思っているのだろう。 「夢を渡るんです」 「すまん。俺にわかるように...」 「人の体というのは器です。その中に魂魄が入っています。魂魄は本来ふたつでひとつですが、魂だけを器から出すことが出来るんです。魂は魄と繋がっていたら体には戻れます。離魂術のひとつで、夢を渡るとはそういう状態になるということです。けれど、今の様にはそれは危険です」 そう言って珠翠は強く止める。 「何で危険なんだ?」 イマイチそういう話の予備知識がない迅は手を上げて質問した。 「今も言ったとおり、魂と魄が繋がっていないと体に戻れないんです。途中でその繋がりを切られたら様はそのまま亡くなってしまうということになります」 なるほど、と迅はやっと理解した。 「それでも姫さんは行くのか?」 「私が行くことを見越して縹瑠花がこれをしたのかは分からない。けどね、自分可愛さに夢を渡らないってのは負けたみたいでイヤなの。勝負する前から尻尾巻いて逃げてるみたいじゃない?」 「尻尾くらい巻いて逃げておいてください!」 珠翠が間髪入れずに訴える。 「これから、縹家を変えに行くのでしょう?」 懇願するように珠翠が訴える。思いとどまってくれ、と。 「うん。だから、勝負する前から負けらんない」 珠翠の目をまっすぐ見てが返した。 暫くお互いの眸を見詰め合っていたが、先に折れたのは珠翠だ。 「何て強情な...」 「まあ、強情ってのは..教育方針?」 『血』ではない。だが、紅家で育てられたとしてはあの家に馴染んだその性格だと思う。だったら、教育方針だろう。 「もういいです。無事に戻ってください。戻られるときは私がお手伝いします」 行くのは手伝えない。だからせめて帰ってくる時間を短く正確に、という珠翠の気持ちだ。 彼女なりの譲歩には「ごめん」と謝る。 「謝るくらいなら最初からなさらないでください!全く」 と珠翠はプリプリ怒っている。 異能を持つ珠翠だから、の手伝いができるというところだ。 「んじゃ、まあ。仕方ないわな。雇い主がそう言うなら従うさ」 そう言って迅は肩を竦めてごろりと寝転んだ。 「火の番、ずっと任せていいんだな?」 朔に確認すると彼は鷹揚に頷いた。 「んじゃ、先寝るわ」 迅はそう言い、すぐに規則正しい呼吸となる。 「じゃあ、私も」とがごろりと横になる。 「様、せめてこれを敷いてお休みください」 珠翠が慌てて自分の上衣を敷こうとした。 「ああ、いいよ。珠翠が風邪を引いたら大変だから」 「様...夜明けに引き戻します。良いですね?」 はコクリと頷き、ごろりと寝た。 「おやすみ、いい夢を」 朔はそう声をかけて微笑んだ。 が口の中で何事かを呟く。 珠翠は周囲を見渡した。そして、を見る。 「どうか、あまりご無理をなさらないでください」 睫を伏せてそう呟いた。 |
朔の正体(?)がここで判明。『正体』ではないな、『状態』か...
全く生きている状態ではないと言う感じかしら。
ヒロインが絳攸の夢に出てきたその経緯です。
桜風
10.6.27
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