薄紅色の花咲く頃 94





縹家に着いた途端、暗殺傀儡たちがわんさかと襲ってきた。腕に自信のある彼らだったが、どうにも分は悪く、疲弊していく。

「迅、珠翠を保護して」

そう言っては珠翠がいる室の場所を正確に口にした。

「姫さん?」

「千里眼。珠翠しか持ってないわけ無いでしょ?」

そう強くない異能だ。異能の力が弱いほど、それを持っている者の数は多い。強い方が希少ということだ。

彼女が異能者を喰っている姿は目にしている。だから、彼女が複数の異能を持っているのは知っているが...

「ひとりで心細いなら、朔もつけるわよ」

「私はおまけかい?」

楽しそうに朔が問う。

「いや、俺一人で充分だ。姫さん、死ぬなよ」

「ここまで来て死ねるもんですか!...危なくなったら逃げて。これ、雇い主としての命令」

はそう言い放ち、迅の反論する余地を与えないように駆けていく。

「じゃあ、また後で」

朔はそう言っての後を駆けた。

「逃げろって言われてもな...」

そんなの名門司馬家出身の自分に言わないでもらいたい。

戦うだけが武ではない。それは分かっているが、か弱いかもしれない女を置いてすたこら逃げるのも彼の矜持が許さない。

「確か、こっち...」

先ほどが口にした方角に向かって足を向けた。

そういえば、と迅は思う。

さっきまでひっきりなしにやってきていた暗殺傀儡がとりあえず途切れている。

「っつうことは、姫さん...」

思わず振り返る。あの暗殺傀儡はつまりを狙って来ていたという事だ。一瞬を追いかけようかと思ったが、それはそれでまた追い返されそうだから珠翠を助けてその後追いかければいいだろうと考え直す。

珠翠も確か、千里眼を持っていると聞いた。その力を使ってもらえれば今の逆での居場所が分かるだろうから。


「誘導されているね」

朔が少し楽しそうに呟いた。

「こういう手荒な案内じゃなくて、誰か遣いの人でも寄越してくれたら堂々とそれに付いて行くのに...!」

応戦しながらは毒づいた。

先ほどからたちは暗殺傀儡の強襲にあっている。

だが、彼らは無駄に攻撃をしてこない。何か、何処かへ連れて行きたいのだろう。たちが逃げていく方向でも自分たちの思い通りの方向だったら特に攻撃してこないが、そちら以外に足を向けると一斉に攻撃してくる。

「暗殺傀儡って言うくらいだから、意思は無いんじゃないの?」

「そう洗脳されてるんじゃないの?連れて来い。逃げようとしたら殺せって」

「なるほどねー...突破を試みる?」

「無駄な血は流したくない」

「わが身が可愛いんだ?」

「寧ろこの人たち。いま、この状況で朔に手加減してなんて言えないでしょ」

の答えに朔がやはり楽しそうに口角を上げる。

「自分の命を狙っている人たちの身を案じるなんて、結構余裕だね」

「この状況で『余裕』とかいう単語、口にするのやめてくれる?!」

眉を吊り上げてが返した。

朔はますます楽しそうに微笑んだ。

「さて、此処みたいだけど?」

追い詰められた。たちは扉を背にしている。

「たしかに、ご招待されたのはこの室みたいだわ」

背中から感じる神力には覚えがある。

「一緒に入る?」

一応聞いてみた。できれは同席は遠慮してほしいとは思っている。

「いいや。ちょっと疲れたし、ここで休んでおく」

朔はそう返事をしてひらひらと手を振った。


ギィと音を立てて重い扉を開けた。

室の中にいたその人は背を向けていた。

は知らず唾を飲み込んでいた。コクリと喉が鳴る。

その人は振り返って微笑んだ。

「こちらへ」

悠然と右手を上げて傍の卓の椅子をそっと指した。

は短く息を吐いた。

コツコツと靴音が室に響き、は案内された椅子を引いて腰掛ける。

「よう、戻ってきたな」

彼女にそういわれては凶悪に笑った。

「ええ、まあ。色々とむかっ腹が立ったので」

の言葉に彼女は愉快そうに笑った。




縹家本家に辿り着きました。
というか、縹家本家のラスボスの元に辿り着きました。
まあ、招かれたんですけどね。


桜風
10.7.25


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