薄紅色の花咲く頃 97





が先ほどの室に戻ると珠翠がいた。

戻ってきたを見た瞬間駆け寄って抱きしめて涙を流す。

迅を見ると「途中からかなり楽になったからな」という。ただ、辿り着くまでに距離があり、結局先ほどこの室に着いたばかりだといった。

はついでなので、先ほど瑠花と璃桜と話した末にまとまった話をした。

朔は無関心そうに、迅は少し興味あったようで「へぇ」と感嘆の声を漏らしている。そして、珠翠は青褪めていた。

「何故、私が合流するのをお待ちいただけなかったのですか!無事だったから良かったものを!お母様は貴女の命を狙っていたんですよ!!」

怒られた。

「あ、うん。ごめん」

軽く謝られて珠翠は口をパクパクとした。

「まあ、無事だったんだから」と朔が楽しそうに言う。

「ところで、珠翠。今、瑠花は何処にいるの?」

の言葉に珠翠は深く溜息を吐いた。

「ご案内します。あなたたちはこの部屋を出て行かないように。迷子になりますよ」

そう言って珠翠がを連れて瑠花に会いにいっている頃...


璃桜は貴陽の上空にいた。

特に感慨とか思うところは全くない王都。でも、やってきたのには理由がある。

はこの街の人が好き..らしい。たぶん、きっと。いやいや、違うかも。でも、ま、いっか。

今の時刻は真夜中で、殆どの者が眠りに着いている。シンと静まり、空気も澄んでいる今の条件はとても良い。

そんなことを思いながら口の中で何かを呟く。


城内にいた霄太師は窓から空を見上げてニヤリと笑う。

同じく、城下にいた葉医師も苦笑した。

「こりゃ、が困ったことになるぞ」と楽しそうに言ったのは勿論霄太師で、「おいおい」と思わず苦笑して、でも、ちょっと嬉しそうにしているのは葉医師だ。


「わたくしを呼び捨てにするなどと、生意気な小娘じゃ」

珠翠は体の芯から緊張した面持ちでその場に立っていた。

そして、その隣に立つは『緊張』というものをどこかに忘れた感じで立っている。

目の前には、瑠花の本体だ。

先ほど、珠翠に案内してほしいとお願いしたそのの発言に対してのご立腹らしい。

「で、当主の交代ってのは何か儀式とかあるんですか?」

瑠花の抗議はさらりと流してが問う。

反省するはずも無いと思っていた瑠花は特にそれ以上責めることはなかった。盛大な溜息を吐いたくらいで「特に儀式はない」と返す。

「ただ、望月の月下彩雲は用意できておらん」

ああ、そうか。自分は縹家の紋が入った衣装なんて持っていなかった。

「まあ、そなたとの取引。そなたの願いが終わるまでは自由にしてよい。それと、珠翠は少し残るように」

名を呼ばれて珠翠はビクリと怯える。

「酷いことしてきたものねぇ」とがからかうように瑠花に言う。

「黙れ!とっとと戻れ。道はもう分かったであろう?」

居場所が分からないから珠翠に道案内を頼んだ。でも、場所さえわかればは今後、自分ひとりでも来ることができる。

「珠翠、いじめないでくださいね」

「とっとと下がるのじゃ」

鋭く言われては肩を竦めた。

「珠翠、そのバアサンにいじめられたら言うのよ。いじめ返すから」

「老人を虐待するつもりか」

「見た目は若作りですけどね」

「はは」と笑いながらはその場を去っていく。

「まったく、何なんじゃ」と瑠花は不機嫌に呟き、「さて」と珠翠に向き直った。

珠翠の肩がビクリと震えた。

「怯えるでない。わたくしは、とりあえずあの小娘との取引を受ける。その間、そなたの身柄の安全は保障する。

そなた、あの小娘がわたくしとどのような取引をしたか聞いておるか?」

瑠花に問われて珠翠は頷いた。

「では、それが可能と思うか?」

珠翠は答えに窮した。が人知を超えた異能の力を持っており、それにより過去最強の異能者であろうとは思う。だが...

珠翠は首を振る。

「それでも、あの方にかかる負担が大きすぎます」

「わたくしもそう思う。弟との会話を耳にして、あれが敵ではないと今のところそう考えることにした。大巫女の座もくれてやっても良いとは考えている。あれの神力を考えれば悪くない選択じゃ。しかし、あれは縹家のことを何ひとつ知らんときておる。それで当主も勤めて、やっていけると思うか?」

瑠花が何を言いたいのか、何となくぼんやりとだが珠翠にも理解できた。

「お母様、私に大巫女を継がせてください」

瑠花の眸をまっすぐに見て珠翠が言う。

「あれの場合、もう資格は有しておるとわたくしは判断した。しかし、珠翠。そなたはまだ資格はない。まあ、そなたが大巫女を継ぐために色々としてもらうことはあるが、とにかくはあれが自分の目的を達するまでは保留にしておこう。そなたにも、やっておきたいことがあろう」

そう言って瑠花は珠翠に背を向けた。

話が終わったという合図だろうと判断した珠翠は瑠花の背中に頭を深く下げての下へと向かった。

「外の風は、穏やかではないな」

外から、招いてもいないのにやってきたと珠翠とその付き人。

突然縹家の中の時間が動き出した。自分が守ってきたものをぶち壊しそうなを思い出して、でも、それを『悪くない』と思った自分に瑠花は苦笑した。

そう思える自分は、嫌いじゃなかった。




珠翠が秀麗の気持ちが良く分かった感じです。可愛そうに(笑)
で、珠翠も決めました。
決めたけど、すぐにそのとおりには出来ないのです。まだ猶予があるだけなんですけどね。


桜風
10.8.15


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