薄紅色の花咲く頃 98





縹家に来て数日は風当たりが強かった。

何せ、あの瑠花を屠りに来たとか言っていたのだから。

それでも、瑠花が傍に置くことを許したと話が広まり、遠巻きにを眺める者が増えてきた。敵意ではなく、伺うように、品定めをするような視線にかわっている。多少、友好的になったのかな、とは考えていた。

その日も、瑠花に呼び出されては高御座に向かった。

仕事は本当にゆっくり引き継がせてくれている。と、いってもまだ取引が終わっていないからだろうとは踏んでいる。

「何ですか?」

「ほれ、出来たぞ」

「早いなぁ。さすが...」

畳んである服に手を伸ばした。月下彩雲紋。勿論、が着るものだから『望月』だ。

「撒いておいた餌もそろそろ頃合じゃ」

「『餌』って、私でしょう?」

の言葉に瑠花はクツクツと笑う。

「知っておったか」

「そりゃ、私以外にあれの餌になり得る者は居ないでしょう。まあ、縹家の情報網を使って『餌』がどこにいるかの情報を流してくださったのでしょうから、感謝しますよ。明日、王都へ行きます」

「それも、流しておこうぞ」

楽しそうに言う瑠花に苦笑しては高御座を後にした。


縹家には外からやってきた人も居る。

元々縹家の存在がそういうものだからだ。弱き者の逃げ込める場所。それが、縹家だ。

弱き者と言ってもさまざまで子供から大人、時々妖怪などいる。

そんなのを特に気にしないはすぐに馴染めたと自分で自分を評価している。

ふと、邸の外に出た。

邸自体、物凄く大きい。そして、縹家は万里大山脈に存在しており、その地形自体が結界のような役割を持っている。縹家の術を使って道を開く以外の方法で縹家には辿り着けないのが普通だ。

は時々そんな縹家の邸の周辺を歩く。

迷子になったらそのままうっかり亡くなってしまうこともあるだろうが、何となく体が分かるようなのだ。こちらに行けば大丈夫、とか。

『血』かなとも思った。

まあ、それは否定できない。ここに住んでいたのは、母親のお腹に居たときを除けば1日くらいだったし。

てくてく歩くと禁域に入った。

禁域だと誰かに教わったわけではない。だが、そこが『そう』だとには分かった。

そのまま歩き続け、天を突くような巨大な槐に辿り着いた。

「ああ、ここか...」

槐を見上げる。吐く息が白い。

「初めまして」

挨拶をした。ここに挨拶をしなくては、とずっと思っていた。

<初めまして>と声が響く。

これまた不思議体験。

そう思いながら「失礼します」と槐の根元に腰を下ろした。お尻が少し冷たい。

<なぜ、ここに?>

「先人の話を聞くのが一番勉強になるかと思いまして」

が返すとクスクス笑う声が聞こえた。

<...少し、受け取りましょうか?>

その言葉には首を振る。

「これは、私が負わなくてはならない罪です」

<生きるために人は動物を殺します。生きるために人は、植物を採取します。それは、罪ですか?>

「罪でしょう。だから、人は目いっぱい生きなくてはいけない。たくさんのことに感謝をしながら。人はたくさんのものによって『生かされている』のです。私はそう思います」

<それでも、次も耐えられる保証はないでしょう?あなたは、もう限界のはず>

「まあ、あとひとりならギリギリ耐えられますよ。耐えてみせます。そのために、ここまで来たんです」

そう言っては立ち上がった。そして、槐を振り仰ぐ。

「また、来てもいいですか?」

<禁域ですよ?>

「また来ます」

の言葉にその声はまた笑う。

<いつでもいらっしゃい>

はペコリと頭を下げて邸に向かった。


「じゃ、行ってきます」

軽く手を上げては貴陽に向かって道を開いた。

の気配が縹家から消えるのを感じた璃桜はクスリと笑う。きっと驚くだろう。

少し、楽しくなってきた。




槐にも挨拶。
そして、餌の自分。
体はもうボロボロですが、まだまだやらなきゃらないことがたくさんあります。


桜風
10.8.22


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