薄紅色の花咲く頃 104





食事の支度が出来たと呼ばれて行くと、大勢居た。

「お?おかっぱチビ」と迅が笑って手招きする。

「これは?」

「あー、まあ。あの姫さんが言い出したことでな」と迅は苦笑する。

その場には、先ほどの二胡の演奏のときと同じように縹家の者や外から避難してきた者。そして、白い子供も居る。

白い子供は自分の意思がなく、行動することが出来なかったはずだ。

なのに、何故だろう...

卓に食事を運んでいる白い子供まで居るのだ。

ほかほかと湯気を立てている菜を見て、皆は目を輝かせていた。

「何とか間に合ったか?」

そう言って入ってきたのは瑠花で、その後ろには珠翠がついていた。

瑠花が椅子に座り、珠翠は食事の準備をしているたちの手伝いを始める。どうしたことだ?何がどうなっているのだろう...

準備が整ったのか、たちも椅子に座った。

「では、頂こう」と瑠花が良い、食事が始まった。

難しそうにしながらも白い子供も食事をしている。量はほんのちょっとでそのちょっとに物凄く時間を掛けているが、それでもこの人たちが食事をするなんて聞いたことない。

「なんだ、これ」

考えながら口に運んだのはどうやら『薔薇姫の饅頭』のようだ。へんな味がする。

「ああ、それは薬草が入ってるからね」

「何で?」

リオウが眉間に皺を寄せていう。隣に座る父の眉間にも皺が寄っていた。

「薔薇姫はよく饅頭の種の中に色んなものを混ぜてたから。今日は栄養重視で生薬を入れてみたの」

の言葉に璃桜は「前の方が美味かった」とぽつりと呟いていた。

は白い子供達の面倒を良く見ている。自分の食事をしながら、躾をし、よくできた子は褒める。

「さすが、貴陽に居た頃は寺子屋で師をしていただけはあるの」

何気なく、感心して瑠花が口にした言葉には少し寂しそうにして目を瞑ったが、すぐに「それは、どーも」と皮肉っぽく笑ってそう軽く返した。他の人は特に気にしていないようだが、リオウはのその表情がとてもひっかかった。

食事の途中では席を立った。本当は行儀の良くないことだが、仕事があるのでと断ってのそれだ。

「姫さん。手伝うことあるか?」

迅がいうとは笑いながら「書類仕事好き?」と返す。迅も笑いながら「いや、できればしたくねぇ」と返した。

「後片付けの手伝いをしてあげて」

そういい残してが出て行った。


リオウは片づけを手伝った。

「縹家は、変わった...」

ポツリと呟くと珠翠が「そうですね」と同意する。

「白い子供達は、何で、えーと」

様がね。『出来る出来ないは、とりあえずやってみて決めるべきだ』って。それでできそうなことをやらせてみたらゆっくりだけど出来るみたいで。『じゃあ、手伝ってもらえば良いじゃない』ってやっぱり様が言って。
様は日が沈んだら二胡の演奏をしてくださるの。璃桜様の要望に応えてね。2曲目は、他の人たちから要望を受けることにされているみたいなのだけれど、あれは投票なんですって。まだ白い子供達は字が書けない子が多いから、線を何本引いているかでどれに投票したかっていうのを判断するようにしていて、数字が数えられる子はその集計。いきなりたくさん出来る必要はないんだから、皆がそれぞれ自分が出来ることを自分の速度で進んでいけばいいと様は考えていらっしゃるらしいわ」

「伯母上は、何て?」

「好きにしろって仰ってるわ。当主は様で、しかもちゃんと仕事をしている当主だからその意見によほどの事がない限り反対しないってお決めになっているみたい」

やはり、縹家は随分と変わったようだ。

片づけを済ませてが執務を行っている室を覗きに行った。帰る前に挨拶をしなければ。

扉を叩くと「どうぞ」と中から声がした。

扉を開くとが顔を上げる。

「あら?」

「帰ろうと思って」

「ああ、そう?じゃあ、通路を開けましょう」

そう言ってが立ち上がる。

「あ、いや。他の術者に頼むし。俺でもたぶん、今の縹家なら大丈夫だと思うから」

「サボらせなさい」

笑って言うにリオウは口を噤んで頷いた。

道を開く室に着き、リオウがを見上げる。

「あ..えと」と何かを言いたそうにしている。

何だろう、とはリオウの言葉を待った。

「なんで、当主になりに戻ってきたんだ?」

「当主になりに戻ってきたんじゃないのよ。色々とむかっ腹が立ったから文句を言いに来たんだけどね。瑠花があまりにもカッスカスだったからこれはもう、仕方ないって腹を括っただけ。でも、まあ。ここにいつまでも居ていい理由になるからいいわよ、当主」

笑って言う。でも、その代わり彼女はたくさんのものを手放した。

「リオウ君。今度は、うーさまに帰ってきてくださいって伝えてね。2人が一緒にこっちに戻るのは出来ないだろうから、順番。今回はリオウ君で、次はうーさま。ね?」

の言葉に「わかった」とリオウは頷く。

「あ、そうだ」とが言う。何だろうとリオウは彼女を見上げた。

「リオウ君は主上の養子になっても私の『弟』だから。覚えておいて」

そう言っては道を開ける。

「あの!」とリオウが声をかける。道を開くことを止めずには視線をリオウに向ける。

「今日の二胡、とても良かった。菜も、美味しかった。また帰ってきたとき、作ってください、姉う..」

最後まで言えずにそのまま道の向こうにリオウは消えた。

は苦笑して「はいはい。また要望を聞きますよ」とリオウが居なくなったその場所を眺めながら呟いた。




変化を迎えた縹家。
ヒロインは好き勝手しています。でも、瑠花もそれを黙認しています。
久しぶりに帰って来たリオウは何が何だか、なさっぱりでした。
まあ、変わった縹家に好感は持っているようですが...


桜風
10.10.4


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