| 此処最近の絳攸を彼の知り合いは揃って心配していた。 一時、彼は冗官になった。しかし、黎深が絡まなければ優秀な文官である絳攸を引き取ったのは、戸部だった。 黎深との付き合いの長い鳳珠が長官を務めているから縁故だと囁かれたが、結局絳攸の実力を目の当たりにした者たちはそんなことをいえなくなる。黙らせるのに充分な力があるのだ。 「まったく。勿体無い...」 絳攸の働きを傍で見ている鳳珠はそう呟いた。 黎深のお陰で彼は随分出世から遠のいた。もっと近道、出世街道を驀進することが出来ただろうに。 しかし、此処最近の絳攸の働きっぷりに不気味さを覚える。 その日は、仕事が終わった後に府庫に向かった。 「おや、珍しいですね」と言いながら邵可が歓迎してくれる。 「李絳攸のことなのですが...」 黎深には相談するだけ無駄だ。だから、邵可に相談してみることにした。 此処最近の絳攸に感じる危うさのようなものを話してみた。今は、彼の心はギリギリで均衡が取れているのではないかと思う、と。 「そうですね。私も、そう思います」と邵可が同意する。 「何か良い手はありませんか。黎深の子だからと甘やかすつもりはありませんが、今や李絳攸は戸部になくてはならない官吏となっています」 「少し、賭けになるかと思うのですが...」 そう言って話し始めた邵可の言葉に鳳珠は多少驚きもしたが、諾と頷いた。 翌日、絳攸は鳳珠から出張を命じられた。 驚きもしたが、命令なので従った。 行き先は紫州の片田舎だ。何故こんなところに、と思いながらも命じられた仕事を済ませる。 その日に帰るのは無理だったので、その村で宿を借りた。 宿と言っても、そういった施設があるわけではなく、縹家縁の神社だ。偶に訪れる旅人に宿として部屋と食事を提供しているのだ。 夕暮れ時になり、村の人々がその神社に集まってきた。 「何があるんだ?」 傍に居た者に聞いてみた。 「ああ、夕暮れ時に美しい二胡の音色を聞くことが出来るんですよ。私たちは教養とかそう言うのはないですけど、その音色が素晴らしいと言うことは分かるし、その音が毎日の楽しみなんです」 そういわれた。 なるほど、と思った絳攸も村人に倣って神社の祠の前へと行ってみることにした。 耳に届いた二胡の音色に絳攸は目を見開く。 「...」 思わず呟いた。確証は無いし、村人達もこの音色が誰のものかなんて言っていない。縹家の本家からと言っているが、演奏者については誰も知らないと言う。 だが、この音色を聞いた絳攸の脳裏に浮かんだのは少し寂しそうな表情で微笑むだった。 「お役人さん?」 傍にいた村人が驚いた声を上げてそっと手ぬぐいを差し出した。 「は?」と驚いた絳攸は自分の頬を伝う涙に気が付いてグシっと乱暴に服の袖で拭う。 「ありがとう」と村人に礼だけを言ってその場を離れた。 此処最近、ずっと何だか分からない感情が胸の中を渦巻いていた。 それが何か、たぶん分かった気がした。 に返されたあの赤い石。いつも持ち歩いている。 返された。けど、また渡そう。 そして、今まで何となく分からなかったその感情の正体。それも彼女に告げよう。 貴陽に戻り、任務終了の報告をした。 「ああ、ご苦労」 ちらりと絳攸の顔を見ると表情が全く変わっている。邵可の提案を呑んでみてよかったと鳳珠は思った。 最初、絳攸をあんなところに出張に行かせる意味が分からなかった。ただ、あの村には宿が無く、泊まるといえば縹家縁の神社しかない。 縹家縁の神社では此処最近ちょっと変わった行事があると聞く、と言ったのだ。 それが絳攸に良いように作用するかどうかは微妙だと言っていたが、良いように作用したようで一安心だ。 「黄尚書、お願いがあります」 引き締まった表情で絳攸が切り出した。 「なんだ」と返すと「長期休暇をください」と返された。 「李絳攸。お前は自分の立場が分かっているのか?」 低く不機嫌な声で返されたが、絳攸は動じない。 「今すぐに、というのは無理だと思います。しかし、この先。来年か、再来年か...出来れば早い方が良いのですが」 「長期休暇をとって、何をする気だ?」 問われた絳攸は「万里大山脈へ行きます」と答えた。 暫くの沈黙。 絳攸が道をまっすぐに進むのが苦手なのは鳳珠だって知っている。 だから、あんなところに行くなんて自殺行為に等しいものだ。 「待て。落ち着け。行ってどうする?」 「縹家当主..いや、紅に話したいことがあるんです」 「朝賀を待てば良いだろう。は縹家の当主だ。何か事情があるみたいだが、おそらく朝賀くらいは出てくるだろう」 鳳珠のその言葉に対して何も返さずに絳攸は「失礼します」と行って背中を向けた。 |
絳攸、ちょっと壊れた(笑)
そうなんですよね、絳攸は元々優秀な子なので、黎深が絡まなければ欲しいと思われる
人材にはなっているのではないでしょうか?
んでもって。鳳珠は秀くんと燕青を連れて来たときに遅れましたからね。
知っててもおかしくないのでは...?
ほら、黎深が調子に乗って話してるかもしれないし。酔った勢いで、とか。
桜風
10.10.31
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