| 絳攸が目を覚ますとそこは知らない天井だった。 体を起こそうとしたが、少し重い。 遭難した、というのは何となく分かる。あんな山、登ったことなどない。 ふと、首を巡らせて絳攸は息を飲んだ。目の前にの寝顔がある。 「?!」 思わず声を上げてついでに飛び起きた。 「っ...!」 が小さく悲鳴を上げたように思えて自分の手を見た。 「わ、悪い!!」 何故かの髪を握り締めていた。 しかし、何だ。どうしたことだ?結局辿り着けたのか?脱・迷子か?? そんなことを思っていた。 がゆっくりと顔を上げる。 「ああ、お目覚めになられたんですね。胃に優しい何かを作るようにちょっと言ってきます」 そう言ってが席を外した。 するりと自分の手からの髪が抜けていく。その喪失感にズキンと胸が痛んだ。 暫くして室にやって来たのはではなく珠翠だった。 目を丸くしている絳攸に呆れた表情を浮かべて絳攸に粥を出す。 「は...?」 「様はお忙しいので。お仕事の途中で散歩に行くといって此処から出て貴方を見つけたみたいです。少し、お休みください。お仕事を終わらせたらまたお戻りになられると仰っていましたから」 そう言って先ほどまでの座っていた椅子に腰を下ろす。 「すまん」 「ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」 冷たい声音でそういわれた。絳攸は頷く。 「何のために、縹家まで無謀にも来られたのですか?山中で倒れていらしたらしいですよ」 たしかに、かなりの無謀だったかと思う。思うが... 「に会いに、だ」 キッパリと返されて珠翠は少し驚いたように眉を上げる。 「会って、どうされるのですか?」 「それはまだいえない。最初に言う相手はだ」 またもやはっきりとそう言われ、珠翠は肩を竦めた。 「分かりました」と行って立ち上がった珠翠が扉の前で振り返る。 「貴陽の皆様はお元気ですか?」 「ああ。皆変わりない」 絳攸の言葉を聞いて珠翠の背中の空気がほっと緩む。 珠翠が室を出て行き、絳攸はぽつんと一人残された。 珠翠の持ってきた粥を口に運ぶ。 それが胃に入って初めて、自分の空腹を感じた。あっという間にそれを平らげ、空になった茶碗等はとりあえず室内にある卓の上に置いておいた。 そしてまたうとうとと眠くなってくる。ごろりと寝台に横になった。 どれくらい経ったのか、目が覚めたときには微かな二胡の音色が耳に届く。 体をゆっくりと起こした。 さて、この室を出ても良いのだろうか。 少し悩んだが、音のするほうへと足を運ぶ。 開けた空間に出た。そこにたくさんの人が集っている。目を丸くした絳攸はその隅にすとんと座った。 絳攸が着いたときにはもう2曲目の途中だった。だから、あっという間に終わってしまった。 演奏が終わると皆そのままあっさりと解散する。 その様子を珍しそうに絳攸は眺めていた。 「絳攸様?」 が気づいて彼の元へと足を運ぶ。 「お加減は?」 「ああ。粥も頂いたし、元気だ。山の中で倒れていたそうだな...」 少し気まずそうに絳攸が言う。 「ええ、まあ。迅に頼んで運んでもらったんです。さすがに私ひとりで絳攸様を運ぶのは無理だと思ったので」 の言葉に「ああ、すまない」と言う。 暫くの沈黙。 「今、時間は大丈夫か?」 仕事が忙しいと聞いた。だが、こうして二胡を弾いている。 「ごめんなさい、もう少し仕事が残っているんです。あ、でも。絳攸様はお仕事、どうされたんですか?」 「休みはもぎ取ってきた。周りに文句を言わせないようにしてな」 色々とうっかり忘れられそうだが、こう見えて超優秀なのだ。猛烈に働いて、自分がひと月居なくても何とかなる程度、仕事を整えてきた。 鳳珠もその状況を見て休みの許可をくれたし、同僚もそれを贔屓だとか何とか言わない。それだけのことをやったのだ。 「そうですか。では、もう少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか。明日の朝、また室に参ります」 そう言っては頭を下げて下がる。 途中、傍にやってきた子供に何かを言ってそのまま廊下の向こうへと消えた。 「あ..あの。ご案内します」 先ほどに声を掛けられた子供が絳攸に声をかけてきた。 「あ、ああ。すまない」 そう言って絳攸は大人しくその子供の後ろを歩いた。 |
前回ちょこっと起きたことについては絳攸は覚えていませんでした。
そして、ちょっと冷たい珠翠。
でも、珠翠はヒロインが大切なので冷たいんです。
彼女がここにやってくるときの決意とかは、珠翠が一番良く分かってるんですよね。
だから、それを鈍らせてしまいそうな絳攸に冷たく当たるというか...
絳攸もそれが何となく分かる大人なので、大丈夫です。
桜風
10.11.21
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