白 5





約束の日の朝、は黄邸へ向かった。

黄尚書は出仕した後なので、家人からそれを受け取り、紅邸へ向かう。

「よく来たわね。貴女から文をくれるなんて本当に珍しいことね」

「すみません、百合様。ご迷惑をおかけして」

「構わないわよ。それで、庖厨を貸してほしいのね?」

「はい」

「私からもお願いがあるの。良いかしら?」

百合にそう言われては首を傾げた。

「何でしょう?」

「饅頭を、作ってほしいの」

「いつも作っているもので良いのですか?」

「ええ、それがいいわ。お願いできるかしら。多めに作ってほしいわ。もちろん、余ればの好きにして良いから」

紅邸に招かれると大抵百合と一緒に作っているので大して珍しいものでもないだろうが、百合がそう言うならそれでいいのだろう。

糖蜜付けを使う菓子は初めて作る。

こんな贅沢な材料を使うことなんて滅多にないし、実は見たことが殆どない。

以前、百合と話をしているときに菓子を色々教えてもらっていたし、その作り方もいくつか教わった。

そして、長年培ってきた勘により、思い描いた糖蜜付けを使った菓子を作る。

それを冷ましている内に百合に頼まれた饅頭も作ることにした。「多めに作って、余ればに」と言っていた。

たぶんそれは、余るように作るように暗に言っていたのだと思う。

そうでなければ、態々余った時の貰い手の話をするはずがない。

百合の言葉に甘えては少し余るように饅頭を作った。

出来上がった自分の作品を味見する。

初めてなのに、よく出来ている。

器に移し、ついでに饅頭も包んむ。

「百合様」

「何?ああ、終わったのね」

「はい、お饅頭も。お持ちしましょうか?」

「いいわ。今日、旦那様がお帰りになったら一緒に食べさせてもらうことにするわ」

「そうですか。それでは、失礼します」


は急いである場所へと向かった。

本来なら先ほどまで居た紅邸に居た方が確実だが、黎深に掴まって身動きが取れそうにないと失礼ながら思ったのだ。

?」

名を呼ばれて振り返るとそこには見慣れた軒に乗った絳攸の姿があった。

「絳攸様」

「どうかしたのか?」

軒から降りてくる。

「こんなところで誰かと待ち合わせか?」

「待ち合わせていませんけど、待ち伏せしてました」

そう言って笑うに絳攸は首を傾げた。

「絳攸様。今日は絳攸様が黎深様のところにいらした日だと伺いました」

そう言われて絳攸は思い出す。そういえば、今の時期だった。

「遥か西の国では、その人が生まれた日にお菓子を作ってお祝いをするそうです。それで、これを差し上げます」

絳攸は差し出された包みを思わず受け取り、それを見つめる。

「お誕生日おめでとうございます、絳攸様」

「誕生、日?」

「生まれた日のことをそう言うそうです」

の答えに絳攸は「そうか」と呟き、笑みを零す。

「ありがとう、。それにしても、何でが俺が紅家へ来た日を知っているんだ?」

「百合様が日記をつけていらっしゃったので」

なるほど。時々紅家へ来ているということを以前聞いた事がある。

が、しかし、

「もしかして、読んだのか?」

「はい、小さい時の絳攸様って本当に可愛かったんですね」

「な、何て書いてあったんだ?」

少し慌てて問いただす絳攸に

「それは、ヒミツです」

人差し指を口に当てて笑いながらが答える。

絳攸は軽く息を吐いて「そうか」と諦めた。

「これ、開けてもいいか?」

「はい。どうぞ」

包みを開くと見慣れた好物の饅頭と、そして、初めて目にする白い李の花のような菓子がある。

「これは..初めて見るな。何と言う菓子だ?」

「...さあ?とりあえず、私も初めて見たというか、創作したものですので。すみません。あ、でも。味は大丈夫です」

そういうの前で、絳攸が一口大のそれを口に入れる。

スモモの香りが広がり、絳攸の好みに合わせて甘さも控えめだ。

「本当だな。美味い。が、少し茶が欲しくなるな。ありがとう、

絳攸の言葉には安堵した。


時刻を告げる鐘が町に響く。

「すみません、絳攸様。あの、夕飯の支度があるので失礼します」

が慌てて邵可邸のある方へ走っていく。

「良かったら、軒で送るぞ」

「大丈夫です。ありがとございます」

態々一時停止してそう返事したに絳攸はやれやれ、という風に首を振った。が、口元は笑みが浮かんでいた。


紅邸での夕飯を済ませた後、絳攸は自室に戻り茶を淹れた。

、秀麗の淹れてくれる茶には程遠いが、ずいぶん上手に淹れられるようになったと自己評価をする。

から貰った菓子を口に入れて、思い出す。

『お誕生日おめでとうございます』

初めて聞いた言葉だが、何だか嬉しかった。自分がこの世に居ることを祝福してくれているのだ。

「誕生日、か」

つい口に出る。

そういえば、はいつなのだろう?邵可に聞けば分かるだろうか?

そんなことを考えたら何だかワクワクしてきた。

ふと気が付く。

こんな浮かれている自分が今までに居ただろうか。

それを思うともっとあったかい気持ちになる。

絳攸はスモモの菓子の最後のひとつをつまみ、口に広がる心地良い甘さを味わった。


うん、絳攸夢になった。
良かったです(笑)

絳攸連載、短かったのですが(半分近く鳳珠夢っぽかったのは置いといて)、これにて終了です。
ありがとうございました!


桜風
07.1.27


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