いつかの約束とマッシュ・ド・ポテト
どん、と目の前に置かれたボウルいっぱいのマッシュ・ド・ポテトを前に、モードレッドは半眼になる。
「おい、こいつはどういうことだ。ポテト野郎」
「ポテト野郎など、口が悪いですよ、モードレッド」
一言注意してその大量のマッシュ・ド・ポテトを作った男、ガウェインは腕を組み、首を傾げた。
「いえ、何と言いますか。あなたにマッシュしたポテトをふるまわなくてはならない気がしたので……もう少し欲しかったですか?」
「多すぎだっつってんだ! てか、なんだ。どうしてそんな気になるんだ」
すっとこどっこいな兄に対してため息交じりに問うと「いえ、私もよくわからないのですが」ととぼけた返答がある。
「なに、これ」
狭いシャドーボーダーの中で男女の声が響いている。また円卓兄妹が仲良くじゃれているのかと思いながら立香が足を向けるとそこには山盛りのマッシュされたポテトがデデンと置いてあった。
「じゃがいも、どうやって調達したの?」
「こっそりくすねました」
「……キッチンの守護者はアーチャーだということ、覚えてる?」
「……」
「たぶん、私止められないよ?」
立香の指摘に黙り込んだガウェインをとりあえず放置して椅子に腰を下ろしながらもう一度山盛りにマッシュされたポテトに視線をっ戻した。
「モーさんのリクエスト?」
「ンなわけあるか!」
反射でそう返され、立香は納得した。
そして思い出す。どこかに召喚されたあの日の思い出。聖杯大戦が行われたというあの場所のあのサーヴァント未満の彼らとの出会い。会話。
「あー……」
「どうしたよ」
「あのね、こないだ私。寝てたじゃん?」
「毎日寝てるだろう」
「マスター、休息は大事ですよ?」
何かしらの折り合いがついたらしいガウェインも会話に参加してきた。
「あ、うん。ありがとう。休めるときは休むから」
「それがよろしいかと」
「んで? お前、また寝てる間にどっかに行ったのかよ」
カルデアにいた頃も寝ている間にどこかの世界で旅をしたこともあった。
そういう旅なら意外と熟練者だ。
「うん、行ってた。いつか、どこか。聖杯大戦が行われた場所で、大聖杯を守っていた竜に呼び出されたんだけど」
「……聖杯大戦?」
モードレッドが問い返す。
「うん、トゥリファスってところで赤と黒の陣営に分かれてサーヴァント七騎が戦ってたらしいのね。でも、私が呼ばれた場所は正常な聖杯大戦の場じゃなかった。それで、その聖杯大戦に参加していたサーヴァントとも知り合ったんだけど。あ、その呼ばれた場所にいたサーヴァントは正式にはサーヴァントじゃなかったみたい」
「んで?」
「その時、お城の中庭でピクニックしたんだ」
「そりゃ、のんきな話だ」
「その時、モーさん未満のサーヴァントがいて」
「オレ?!」
「うん。モーさん未満のサーヴァントは、昔王様であるお父さんはご飯をおいしそうに食べたことを見たことがないって言って。私がおいしいものが食べたかったかもって話したら、それはないって。もしそうだったとしたら、ガウェインのマッシュしたポテト山盛り食べるって言ったのよ」
「……ん?」
モードレッドが僅かに首をかしげる。
「アルトリアって、おいしいもの大好きでしょう? そもそも食事が好き」
「まー、そうだな?」
「だから、たぶん。その時何らかのフラグが立って、それを感じ取ったガウェインが危険を顧みずに大量にジャガイモをくすねて大量のマッシュしたポテトを作ってしまったのではないかと推測します」
「さすが、我がマスター。おそらくそのとおりです。さあ、モードレッド。騎士に二言はないでしょう? 何より、マスターとの約束です」
「ちょっと待て! オレじゃないオレの発言でオレがこんな目に合うってのは割にあわねぇだろ! というか、筋が通らねぇ」
「まあ、そうか」
納得しかけている立香と「そうですか」と肩を落とすガウェインを見てモードレッドはガシガシと頭をかいた。
「あー、もう! スプーン寄越せ。少しくらいなら食ってやる!」
「モーさんってなんだかんだ優しいよね」
頬杖をついてマッシュされたポテトを口に運んでいるっモードレッドを眺めながら立香がつぶやくと「うるへぇ」と口いっぱいのポテトを見せながらモードレッドが返す。
「モードレッド、行儀が悪いですよ」
ガウェインの指摘にふいと視線を逸らせたモードレッドの動きが止まる。
つられて立香とガウェインが視線を向けて固まった。
「マスター。私の記憶が正しければ、貴重な食料としてジャガイモを確保していたと思うんだ。しかし、先ほど確認してみるとそれが見当たらない。そのマッシュ・ド・ポテトはどうやって手に入れたんだ?」
ニコリとほほ笑むアーチャーの問いに、モードレッドと立香は同時にガウェインを指さした。
「マスター! モードレッド!」
「ガウェイン卿、少し話がしたいんだが?」
「あ。いえ……」
「おい、これもう食わないからなんか手を加えて美味いものに変えてくれ」
一応直に食べていないため、ほかの者が口をつけても衛生的にも問題ない。
「そうか。では、マスター。君にも手伝ってもらおうか」
「え?」
「君のサーヴァントがしでかしたことだろう?」
「ですねー……」
肩を落として連行される立香に「マスター」とモードレッドが声をかける。
「何?」
「さっきの、寝てる時の話。今度ゆっくり聞かせてくれよ」
「うん、いいよ」
軽く手を振って、おとなしくキッチンスペースに向かう立香にモードレッドも軽く手を挙げて応えた。
「トゥリファス、ね……」
どこか懐かしさを覚える響きだった。
桜風
18.5.3初出
(19.9.15再掲)