パンプキンパーティ





家に帰ると見慣れた靴と見慣れない靴が玄関に並んでいる。

少なくとも、見慣れた靴に溜息を吐いて家の中に入った。

「さあ、よこせ」

掌を上にして右腕をピンと伸ばしたがそう言ってきた。

どうでもいいが、異動で大阪に行った割には良く東京に戻って来ては宮田家で寛いでいるな、と宮田は心の中で呟いた。

「...何を?」

思い切り溜息を吐きながらそう返しす宮田に、「今の私の格好見てわかんない?」とやはり偉そうにが問うた。

「意地悪継母」

おそらく魔女だろうが、大抵の物語では意地悪な継母の正体は魔女だったような気がする。

そういえば、最近菓子屋や雑貨屋の前を通ってもハロウィンがどうたらこうたらっていう張り紙が貼ってあったなと思い出す。

が、何だって我が家でそういうイベントをしたがるんだ、この人たちは...

「ムカつく!」とか言っているの傍を通りぬけて、が居るはずであろうキッチンを目指した。


キッチンへのドアを開けたところで宮田はやっと納得した。

見慣れない靴はコイツか...

「おー、今練習の帰りか?」

暢気にそう言ってきたのは千堂で、テーブルに並んでいる料理をつまみ食いしている。彼は適当に包帯を巻かれているから..ミイラ?どうでもいいが、その包帯の巻き方があまりにも適当だから、ほどけてきている。

「お前は練習しなくてもいいのかよ」

「さっき鴨川で一通り練習してきたんだよ」

苦笑しながらエプロンをつけた木村が代弁した。彼は料理の手伝いをしているようだ。彼は仮装をしていない。


とりあえず宮田は自分の記憶を辿ってみた。

はこの家で何かするときは自分にその旨を前以て聞いてくる。

が、今回のこれは記憶にない。

自分が聞き逃したのか。

ありえないな、と思いながら彼女の姿を探した。

キッチンに立っているのは、ではなくだ。

「ああ、ちゃんは買い物だよ」

と宮田がを探していることを察したが言った。

「因みに、これを企ててこの家を襲撃したのはだから」とも付け足す。

襲撃、ということは事前に何か相談されたわけではなく、は巻き込まれたのか...

本当に相変わらず強引なの思いつきと行動力に溜息を吐きながら玄関を見遣った。

「いつ頃?」

「さっき出たばっかり。近所のスーパー」

宮田の問いにが応えて宮田は礼を言い、外へと向かった。


「怒らなかったね」と少し物足りなさそうに言うに溜息を吐きながら「諦めてるのよ、きっと」とが応えた。

「そっかー、じゃあもう遠慮しなくても良いのかな?」

少し嬉しそうに言う

「...たぶん、した方がええと思うなぁ」

と苦笑いをしながら千堂が言う。何だか、少しだけ宮田が可哀想に思えたから。

とはいえ、こうやって不意打ちに他人の家を襲撃するのは楽しいものだとも思う。

そんな千堂の表情を見て何を考えているのかある程度察した木村は「似たもの同士だな...」と心の中で呟いた。


に教えてもらったとおりに近所のスーパーへと向かった。

最近やっと気づいたのだが、は単体でも面倒だが、は単体だと全然面倒くさくない人物のようだ。

何より、木村が一緒に居るとちゃんとブレーキになってくれている。

逆には千堂と供にアクセルだ。ブレーキはどこに行った、と思うがどうやらのブレーキはのようだから彼女が居なければは止まらない。たとえが居ても暴走することはしばしばあるから諦めるのが手っ取り早い対処法なのだ。


暫く歩いてみたが結局はまだスーパーの中に居るらしく出会わなかった。

店内に入るとレジに並んでいる彼女の姿を見つけてそちらに足を向けた。

「あれ、宮田君。おかえり」

「ただいま。それ持つよ」

「ごめんね、家に帰ったんだよね?」

前以て知らせられなかったことを言ったのだろうが、正直言って、悪いのはではない。

「いいよ」と苦笑しながら宮田は応える。その後に「慣れた」、若しくは「諦めた」をつけようと思ったがそれは飲み込んだ。別に厭味でも何でもないが、は全く悪くないのに気にしてしまうだろうから。

「ハロウィン?」

仮装していた2人を思い出して本日の集合目的を聞いてみた。

「うん、そうみたい。全然そういうのした事ないから何していいかわかんなくて...木村さんなら知ってるかなって」

ああ、なるほど。あの2人も巻き込まれた派だったんだな...

「それで?」

「料理とか何が良いかってのは木村さんも分からないって言うから、じゃあ、かぼちゃ尽くしでって話になって」

「それで、かぼちゃが足りないから買って来たということか」

「うん、結局パンプキンパーティになっちゃうだけっていう感じかな?」

苦笑しながらが応える。

「でも、さんと千堂はハロウィンする気満々のようだぜ?」

「へ?」

先ほど帰宅した時の話をしてみると、はめをぱちくりとした。どうやら、彼女が家を出て行ってから2人は仮装をしたようだ。

「んー、そっか。じゃあ、宮田君。Trick or treat!」

宮田はきょとんとしたが、気を取り直して腰を少し屈めてにキスをした。

キスをされたは呆然としてやがて「え、何か変だよ!?」と抗議する。

そんなに宮田は笑みを零して

「いや、イタズラの方を選んだんだよ」

としれっと答える。

「これって、イタズラされたのって私じゃない?」

は「あれ、やっぱり何かおかしいぞ?」という表情で尚も食い下がる。

その表情を見て噴出しそうになるのを必死に堪えながら「まあ、いいじゃないか」と宮田は返しての手を引いて自宅へと足を向ける。

家に帰ったらまたしても面倒くさいというか、宮田に厳しい小姑が待ち構えているのだから。

今くらい好きにさせて欲しい。

やはり釈然としない様子のは首を傾げながら宮田の横を歩いていた。









桜風
08.10.1