愛しきみ 3





東京の家族友人たちに見送られては大阪に向かった。

幼い頃過ごしていたとはいえ、正直愛着はもう無い。

まあ、苛められていたのも愛着が無い原因のひとつだろうが、それでも、その土地で新しく人との関係を築くことを考えると少し気が重かったりもする。


「おい、取材や!着いて来い」

声を掛けられてはついて行った。数ヶ月は研修みたいなものらしい。

(てか、何でウチがスポーツ担当なんや?!)

ちょっと不満である。

「何処に行くんですか?」

「『なにわ拳闘会』っちゅうところや」

「ボクシングジム、ですか?」

「お?知っとんのか?中々優秀やないか」

そう言って笑いながら先輩アナウンサーが拳を突き出してまた笑う。

「あそこには、千堂っちゅう中々いいボクサーがおるんや。まあ、2回ほど負けてしもうたけど、でも、凄い男なんやで?」

説明を聞きながら、は知ってる、と思っていた。


同級生の幕之内一歩が凄いボクサーだと信じられずにに頼んで録画したものを見せてもらっていたのだ。

でも、何と言うか。

正直ボクシングは好きじゃない。

殴り合って何が楽しいのか、正直よく分からない。

一度の前でそう呟いてみたら彼女は笑いながら

「拳で語り合えるのがいいんじゃないの?案外、口下手の人が多いかもね。それに、私も初めは苦手だったけど、でも、みんなの頑張ってる姿を見てると元気になるし、勝ってもらいたいとも思うようになったな。ホント、皆凄いんだから」

と言っていた。


「ここや」

そんなことを思い出しながら移動していると、いつの間にか目的地に着いたらしい。

「こんにちはー」

慣れたように先輩が入っていく。

「お?何や。今日は何か取材が入っとったんか」

何人かがそう言っている。

先輩の後をついて歩くと、目的の人を見つけたのか足早になる。

「柳岡さん」

「ああ、杉井はん。あー、すんません。今、千堂はロードワークに出てるんですわ。一応、時間は言ったんですけど...」

「いいえ、構いませんよ。こちらも少々早く着すぎでしまいましたし。ああ、コイツ。です。最近異動があって来たんですよ。、この人は千堂選手のトレーナーの方だ」

そう紹介されて

です。ひと月前にこちらに異動になりました。宜しくお願いします」

と挨拶をしながら名刺を渡す。


なにわ拳闘会が初めてののために柳岡が案内をしてやる。

ワセリンの匂いが鼻につく。正直、好きじゃないと思った。

程なくして、待ち人の千堂が戻ってきた。

「千堂。杉井はんや。随分待ってもらっとるんや。はよせい」

「あかん!すっかり忘れとった!!杉井はん。ホンマすんません」

「ええよ。シャワー浴びてき。風邪引くやろ?」

は驚いた。

関西弁の取材となっている。先ほど柳岡と話すときは標準語で話していたのに。

しかし、なるほど。自分が此処に来たわけだ。

「ん?杉井はん。そっちの。ダレや?」

「ああ、最近東京から異動でこっちに配属になったや」

です。宜しくお願いします」

千堂は「ふうん」と呟きながらシャワーを浴びに奥へと去って行った。

も千堂のことを見て内心「ふうん」と呟いた。

何だか、妙な感覚がある。

それが何か分からないは、妙な引っ掛かりを抱えたまま取材の見学をさせてもらった。










桜風
07.5.26


ブラウザバックでお戻りください